教会騎士団戦~ロージアの叫び(優香と恵理子)・
「貴様ら、何者だ!」
第二騎士団団長が第一騎士団団長を殴り飛ばした優香と恵理子に向かって叫ぶ。
「さっきからカヴァデール王国女王一行だと言っているだろう。国の中の話なら、黙って見ていようと思っていた。でも、ちょっとやり方が気に入らないな」
優香が答える。
「なぜ、ロージアを治療できた? あの女がロージアでなく、魔力量が少ない悪魔であり、まだ、あの亡骸に利用価値があるから、そんなところだろう?
「悪魔じゃないけどおおむねその通りだ。聖女ロージアにはまだ死んでもらっては困る。まだ聖女をやめてもらっては困るんだ」
「なぜだ?」
「お前が言ったんじゃないか。利用価値があると」
「貴様ら、悪魔なんだろう? あの女の亡骸を使って何をしようとしているんだ」
「話を聞けよ。ロージアは死んでいないぞ。それから、悪魔に謝れ。我々はそんなに優しくない。ついでに言うと、お前らに利用価値はない」
優香が知っている悪魔はリーゼロッテくらいなものだが、リーゼロッテは優しい。優香はそう思っている。
「我ら、教会騎士団二部隊相手に何とかなるとでも?」
「エヴァ!」
優香が振り向くことなく大声を上げ、エヴァを前線に呼ぶ。
「女王様、宣言を!」
「私、カヴァデール王国女王、エヴァンジェリン・カヴァデールは、あの者を聖女ロージアと認め、友好のため、聖女に害する者を排除する!」
「よくできました。後衛は後ろへ下がって良し」
「はい!」
エヴァは後ろへ下がる。それと同時に、リーシャやブリジット、ネフェリとリピーが前線に上がってくる。
「たった六人で何ができると?」
「言っただろう、悪魔が優しく感じるくらいのことがこれから起こるぞ。お前達の身に。それに勘違いするな。我々は二十三人だ」
教会騎士団の騎士達が剣を抜いてかまえる。そのおよそ百。
対して、優香達は六人。いや、その後ろにはミリー隊、オリティエ隊、姫様隊。さらに馬車の上にアクアとパイタンが控えている。
「来なさい」
優香が右手の手のひらを上にし、指を曲げて挑発する。
じりじりと近づいてくる教会騎士団。
「お前達、かかれ!」
「「「おー!」」」
「待ちなさい」
連れていかれたはずのロージアが優香達と教会騎士団の間に走り込み、教会騎士団に向いて、両腕両足をめい一杯開き、大の字となって立ちふさがった。
「お願いです。止めてください。無駄に命を散らさないでください!」
ロージアは騎士達に願う。
「我らがこんな奴らに負けると? 戦力は四倍もいるのだ! どけ!」
第一騎士団団長が立ち塞がったロージアに叫ぶ。
「まあいい、こいつも切って進むだけだ」
第二騎士団団長がロージアを切り捨てようとする。
「お願いです。やめてください。無駄に命を散らさないでください!」
ロージアは繰り返した。大きく目を見開き、大きな声で。
ロージアは、ここまで旅してくる間に、優香達だけではなく、ミリーやオリティエ達の訓練も目の当たりにしてきた。
到底シーブレイズの騎士団がかなうレベルではない。やりあえば必ず教会騎士団が負ける。
何より今は、ドラゴン族の二人が前線に立っているのだ。真剣にやりあったら、手加減を加えて殴ってくれるわけではないだろう。ブレスを撃たれたら、一瞬で全員が灰になる。
そうなったら、もう助けられない。魔力がないため、治癒魔法を使って助けられないことはほぼ確定だが、助けるという行為すらできないのだ。
だから、戦ってはいけない。戦わせてはいけない。
ロージアは、次いで、優香達の方を向き、土下座をする。
「お願いです。彼らを傷つけないでください。教会騎士団とはいえ、大事な国民なのです。お願いします」
ロージアは続ける。
「今日、私には、彼らを治療する魔力がもうありません。彼らが傷ついたら、治すことが出来ません。どうか、どうかご容赦を」
「どけ、似非聖女。なめられたまま引き下がれるか!」
ロージアの懇願を騎士団長が遮る。しかし、ロージアは騎士団長を説得しようと土下座をしたまま声をかける。
「ダメです。彼らを侮らないでください。ケガをしないでください。私は、私はもう治療できません!」
そのロージアの必死さを見て、恵理子が声を上げる。
「タカヒロ、ネフェリとリピー、下がって。それからアクアとパイタン、手を出さないで。他のみんな、お玉とエプロン装備!」
「「「はい」」」
「くそ、なめやがって、お前ら行け!」
その様子を見ていた騎士達がついに走り出す。
「行くよ。時間はかかるかもしれないけど、心を折るよ!」
「「「はい!」」」
およそ百対十八の戦いが始まる。膝をついたままのロージアを中心として、剣とお玉が交わる。
「お願い、やめて……」
ロージアのつぶやきは剣とお玉が合わさる音にかき消される。
カキン、カキン、パコン! パコン! パコン!
「みんな、足を止めるな! とりあえず、手数を撃ちこめ!」
恵理子が声を張り上げる。
クサナギのお玉を使った攻撃は、とにかく手返しがいい。左のお玉で剣をはじいては右のお玉を頭に叩き込む。また、逆もあり。
一方の、教会騎士の剣は全くクサナギのメンバーに当たらない。
「速い! 全く剣が当たらない」
「ち、また防がれた」
「構うな。こっちの方が数が多い! いずれ力尽きる!」
教会騎士団の方も、剣は当たらずとも全く勢いが衰えない。
「くそ、頭に響く」
「お玉とはいえ、受けっぱなしはつらい」
「前を防いでも後ろから殴られる!」
「こいつら、本当に十八人しかいないのか?」
次から次へとお玉が襲ってくる。前から後ろから。どうしても、ダメージの入る頭を狙ってくるようだ。
クサナギのメンバーから見たら、鎧を着た騎士は動きが遅すぎて、狙い放題だ。
一人が五秒に一発はお玉を叩き込む。一分間に十二発。それが十八人。つまり、百人の騎士が、一分間にそれぞれ二発は殴られる計算だ。しかも、勢いは全く止まらない。
十分が経過する。一人当たり二十発は頭にお玉が叩き込まれる。
二十分が経過する。これで、一人当たり四十発。ここまで来ると、顔中にあざができ、鼻や口から血が流れだす。
クサナギの攻撃はいっこうに収まらない。勢いも止まらない。
三十分が経過する。一人当たり六十発。こうなると、膝をつく騎士が出始める。
「まだまだ手を緩めるな!」
恵理子が鼓舞する。
「「「はい!」」」
こうして一時間が経過する。
騎士団で立っているのは二人。騎士団長だけだ。
恵理子達は、いったん距離を置く。
「ねえ、まだやるの?」
「当たり前だ! まだ立っている」
「一撃、一撃を絶対にくらわせてやる」
「そう、仕方ないわね」
「やめて! もうやめて!」
ロージアが泣きながら二人の前に立つ。
「お願いします、聖女様。もう、やめてください。これ以上、騎士を、国民を……」
その恵理子に懇願するロージアの姿に、騎士団長は、二人とも剣をおろした。
それ見た恵理子が、ふう、と、ため息をつく。
「お玉しまって」
「「「はい」」」
そこへ、優香が歩いてくる。
「終わったの?」
「そうみたいね、戦意はもうないみたい」
優香が二人の騎士団長に声をかける。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうかな」




