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シーブレイズ聖王国入国(優香と恵理子)

 恵理子が涙目になったのに気付いたリーシャがフォローを入れる。


「うちの聖女様はな、スタイル抜群なんだぞ。見たこともないくせに。そんなバランスの崩れたやつが聖女のわけがないだろう」


 リーシャが手をワキワキさせる。


「な、バランスが崩れたって何よ。そもそも聖女にバランスも何もないわよ」

「そんな風に、ローブにしわを寄せて、そこしか見せるところがないわけ?」

「キー! ちょっと自分達に足りないからって」

「鍛えてんの、私達。あんたみたいに重力に負けないよ」

「私はこれでも聖女なの。シーブレイズ聖王国の女王なの。そんな口をきいていい相手じゃないのよ。あんた達、やるわよ。馬鹿にされたままいられるものですか!」


 聖女がリーシャに向かって指を差し、騎士達に命令する。


「嫌です。ドラゴン族見たでしょう。かなうわけないでしょう。あんまり無茶をおっしゃると、またロープでぐるぐる巻きにしますよ」

「……」


 聖女は未だドラゴン形態をとっているリピーを見て固まる。リピーはリピーで、やるならやるぞと口を開ける。

 やれやれ、と、いたたまれなくなった優香が聖女に声をかける。


「あの、聖女、様?」

「何で疑問形なのよ」

「あー、知らないものですから。すみません」

「で、なんなのよ」

「僕ら、この国で冬の間過ごさせてほしいだけなんですけど、入国させていただけませんか?」

「……ダメだと言ったら?」

「タロ、ジロ」

「「ばふ」」


 リーシャがタロとジロの存在を示す。


「ヒッ!」


 聖女は震えながらもなんとか声を発する。


「ダメよ。私がここでいいって言っちゃダメなの。言えないの」

「じゃあ、強行突破しても?」

「おねがい。やめて。あなた達を追わないといけなくなる。そんなことになったら、なっても、騎士達は言うことを聞いてくれないわ」


 騎士が追加で聖女に情報を流す。


「聖女様、あそこで両手両ひざをついてうなだれているお方、カヴァデール王国の女王様らしいです。あの馬車を見てください。カヴァデール王国の紋章が描かれていますし、紋章入りのペンダントも見せてもらいました。これ、国家間の問題になりませんか?」


 騎士達の視線の先には、王都から一緒にドラゴンに運ばれてきた少女、エヴァがいる。


「……」


 聖女は視線を巡らせる。


「勇者、聖女、女王、ドラゴン……もう、いないわよね」

「パイタン!」


 恵理子がパイタンに声をかけた。その瞬間、パイタンが五十メートルの白ヘビへと姿を変えた。


「うーん」


 そう言って、聖女は倒れた。




「知らない天井……」


 聖女が目を覚ました。


「気が付いた。大丈夫?」


 優香が仮面越しに声をかける。

 聖女は、顔を真っ赤にして、バッと自分の体を抱きしめた。


「……何もしてないから」

「何であなたがここで私を見ているんです?」


 聖女が敬語になる。


「たまたまローテーションで」

「我が国の騎士達は?」

「今、晩御飯を食べてる」

「それで、私をどうするつもりです?」

「どうもしないよ。この国に入れてくれればそれでいいんだけど」

「ダメっていったらどうするつもりです?」

「僕は、うちのメンバーを止める自信がないな」

「勇者なのですよね?」


 優香が視線を逸らす。


「あ、起きたんだ」


 恵理子も部屋へ入って来る。


「あなたは、聖女と呼ばれている……」

「マオよ。こっちはタカヒロ」

「ロージア」


 それぞれが名乗る。


「ねえロージア。聖女って言われる定義って何?」

「知りません。私は人よりちょっと治癒魔法が使えるだけ。教会で、困っている人を助けていたら、聖女って言われて、女王にまで担ぎ上げられて」

「そうなのね」

「で、入国していい?」


 優香がしつこく聞く。


「あの、カヴァデール王国の女王って、本当なのです?」

「そうよ。しかも、ついこの間エルト三国を地図からなくしたわ」


 聖女が目を点にする。


「それから、このタカヒロが王配殿下」


 優香は、無言をもって肯定する。ただし、本人は決して肯定したいわけではない。

 ロージアは、神妙な顔になり、そして、提案する。


「我が国とカヴァデール王国の友好のため、カヴァデール王国女王が使役するケルベロスを国内にいれることを許可します。それでいいですか」

「ありがとう。それでいいわ」

「それと、条件があります」

「なに?」

「ドラゴン族もさっきの白ヘビも、お願いだから、人の姿でいさせてください」

「完全には約束できないけど、伝えておくよ」

「もう一つお願いを言ってもいいです?」

「お願いが多いな」

「あなた方の連れのドラゴン族にここまで連れてこられちゃったのです。お願いです。王都まで連れて行ってくれませんか」

「何ならまたリピーにお願いして飛んでもらう?」


 ロージアはガバッとベッドから飛び出し、土下座をした。


「それだけは勘弁してください」

「こっちからもお願いしていい?」

「はい、女王一行のお願いですから、両国友好のため、聞けることは聞きます」

「冬の間、遊んで暮らせる家を貸して」

「な、何を言っているんです。女王一行ですよ。城でかんきん……かんし……、いや、城に滞在してください。庭や訓練場であのケルベロス達も放していいですから」

「あ、ちょっと誤解があるようだから言っておくけど、確かに、僕らは四匹のケルベロスを飼ってる」

「四匹?」

「だけど、あの馬車を引いているのはシンベロス。ケルベロスの進化系だから。ケルベロスより圧倒的に強いから」

「……あの、帰ってもらえません?」


 ピキッ!


 緊張感が走る。


「あ、ごめんなさい。本音が……、いや、いつまでも滞在してください。あの、友好のしるしに、ええ、そうですとも、お友達、お友達でしょ、私達」

「どちらかと言えば敵だけど」

「何が不満です? 言ってください。話せばわかります。お互い歩み寄りましょう。いや、歩み寄りますよ、一方的に」

「僕らのパーティはさ、見ての通り、いろんな種族の集まりなんだ。ケルベロスやシンベロスも含めてね。僕らはみんな家族だと思っている。だから、ケルベロスはダメって言われれば、ここから去るか敵対するしかなくなる。それを理解して欲しい」


 優香は、そう説明する。パイタンとアクアが精霊であること、リーシャが魔族であることはここでは言わない。


「も、もちろんですとも。王宮には猫もいます。私、かわいがっています。それこそ家族のように。そう言うことですよね。同じですよ同じ。私達はみな家族、みな兄弟です」

「ちょっと違うけど、理解してもらえたようでよかった」




 翌日。

 クサナギ一行は、シーブレイズの国内を進む。シーブレイズの旗を掲げて。聖女に笑顔を作らせ、手を振らせて。

 これで、問題なくこの国の中を移動できる。


「扱いがひどい」


 という、聖女の嘆きは無視して。


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