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聖女の基準は……(優香と恵理子)

「リピー様、リピー様、速いです。寒いです。もうちょっとスピードを」


 エヴァがリピーに懇願する。


「こんなやっつけ仕事、早く終わらせたいんだ。我慢しろ」

「いやー」


 リピーは、時間が惜しいのか、上空に上がることもせず、低空でシーブレイズの国を縦断する。しかも全力で。




 リピーが、急ぎに急いだ結果、たった二時間で王都についてしまう。


 王都についたリピーは、そのまま、王都の中心にある王宮の上空へと飛んでいき、ホバリングする。当然のように、王都中がパニックに陥り、貴族も聖職者も住人も慌てて街の外へと逃げ出していく。


 聖女はどこにいるのか。エヴァは聖女を呼び出してくれるのか。


 リピーがエヴァを見ると、ガクガクと震えていて、声を出せそうもないことに気づく。


「仕方ない。早く終わらせて勇者様のところへ帰るのだ」


 リピーは大声を上げる。


「聖女はいるか。聖女に用がある。一分以内に出てこなければ、街を吹き飛ばす」


 さらに街中がパニックになる。一分で街が終わるのだ。急がないと死んでしまう。


 当然のように、王宮内もあわただしくなる。


「聖女様、我々のためと思って、早く外に出てください。私が聖女ですって、名乗ってください」


 聖女のお付きが聖女にお願いをする。


「嫌よ。絶対に嫌よ。ドラゴンに殺されちゃうじゃない。私、なにした? ドラゴン族に何をしたって言うのよ!」


 聖女は涙目になる。聖女のお付きは決して死ねと言っているわけではない。なんとか交渉してくれと。


 すると、外からもう一度ドラゴンの声が聞こえる。


「我が主が聖女と呼ばれる者に用事があると言っている。早く出てこい」


 ドゴーン!


 リピーが海に向かってブレスを撃ちこんだ。そのため、海が割れた。


「聖女様。お願いします。聖女様の交渉し次第で、街全体が助かるかもしれないのです」

「なんてこと言うの、私死んじゃう、死んじゃうから!」


 そこへ、教皇と教会騎士団がやってくる。


「何をしている」

「教皇様、助けてください。ドラゴンが……」


 懇願する聖女を教皇が突き放す。


「早く聖女をドラゴンに引き渡せ!」


 教皇のその言葉に、聖女は目が点になる。


「え?」

「ちょっと待ってください」


 聖女にドラゴンと交渉をしてもらおうと考えていたお付きは、目を見合わせて教皇を止めようとするが、


「聖女様、失礼いたします」


 教会騎士達はそう言って、聖女をロープでぐるぐる巻きにして、王宮の庭へと運び出した。


「いやー、死んじゃう、死んじゃう! あなた達、覚えていなさい。死んだら出てやるから!」


 教会騎士達は、ぐるぐる巻きになって動きの取れなくなった聖女を庭の真ん中において、走り去った。去り際に、


「その人が聖女です」


 そう叫んで。




 リピーが中庭に降りる。


「神様、勇者様、聖女様、私を助けてー」


 聖女が叫ぶ。だが、誰も助けに来ない。


「騒ぐな」

「……」


 リピーが命じると、聖女は黙る。だが、涙目だ。

 聖女は、ドラゴンの左足につかまった少女を見つける。


「あなた、私を助けて。そうしたら、報酬は何でも、あなたの好きにしていいから」


 恐怖の体験をしたエヴァは、足につかまったまま、動けない。


「黙れ!」

「はいっ!」


 聖女は黙る。


 リピーは、右足でぐるぐる巻きの聖女をつかむと、そのまま飛び上がった。


「えっ、えー! 助けて、誰か助けてー! 足は、足はやめて。せめて手で持って!」


 リピーが加速すると、誰も聖女の声を聞くことは無くなった。




「あ、来た来た」

「え? まだ四時間だぞ?」

「ドラゴン族の飛行速度を侮っちゃだめだよ」


 リピーが、旋回して、優香と恵理子の前に降り立ち、右足でつかんでいた聖女をポイっと、投げた。そして、リピーはオッキーに向かって言う。


「女王、何もしなかったぞ」


 と。

 当のエヴァは、両手両ひざを地面についてうなだれている。


「ごめんなさい、後で説教しておきます」


 オッキーはリピーに謝った。




「せ、聖女様!」


 騎士達が聖女を起こし、まかれたロープをほどく。


「えぐ、えぐっ!」


 聖女が涙をぬぐう。


「怖かった、怖かったよー」


「聖女様、お気持ちはわかるのですが、ちょっとこの者達の対応をお願いします」

「う、うう。なによ。こんなところに連れて来て、しかも、ドラゴンにつかまれて、怖かったのに。怖かったのに」


 聖女は涙をぬぐい続ける。


「聖女様、あれを見てください」


 騎士が、タロとジロを指さす。


「何よ。何なの」


 泣きながらタロとジロを見る聖女。


「ひえっ!」


 聖女は後ろに飛びずさる。

 それを見ていた優香と恵理子。特に恵理子は思った。大きいと。


 聖女は、金の刺繍が入った白い帽子をかぶり、そして、同じく金の刺繍が入ったローブを着ている。そのローブはボタンで前を閉じているが、胸のあたりが左右に引っ張られており、しわでその存在感を主張している。それが、飛びずさった時に、大きく揺れたのだ。だが、今はそんなことはどうでもいい。


「何でこんなところにケルベロスが!」


 聖女が驚愕の声を上げる。


「それでですね、こちらの勇者と聖女を名乗る二人が、この悪魔の従者をつれて入国したいと。それで、その判断を仰ぎたく、聖女様に問い合わせようと思っていたところ、ドラゴンが飛び去りまして、今にいたります」


 騎士が、なんとなくの説明を聖女にする。


「勇者?」


 聖女は、仮面をつけた優香を見る。そして、


「聖女?」


 そう言って、恵理子の目を見て、その視線を下げていき、そして言った。


「ちっさ」


 恵理子は、顔を真っ赤にして、両腕で自分の胸を抱くように隠し、


「ちっさくないわよ。標準よ標準。なによ。ちょっと大きいからって何なの!」

「こんな小さな子が聖女なの? 髪が白いのね。肌も色白。目も赤いんだ。確かに見た目、すごく聖女っぽい」


 聖女は、恵理子の前に立っていたパイタンを見て言う。


 恵理子は、勘違いに気づき、さらに顔を真っ赤にし、そして、優香の胸に顔をうずめた。


「生まれ変わりたい。もう一回人生をやり直したい……もういや。聖女なんてもういや」


 よしよし、と、優香は恵理子の頭をなでてあげる。


「聖女様、違います。そちらの、聖女様に「ちっさ」と言われたと思って顔を赤くしている者が聖女と呼ばれている者です」

「うるさい! 何なの、何のうらみがあって私に何度も「ちっさ」って言うのよ。聖女はでかくないといけないわけ?」



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