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勇者に会ってみたいエトリーヌ(優香と恵理子)

「うまいな。処理がよかったんだろう」

「姉さん、それより鮮度がいいんだ。生きたまま捕らえられたのは違うな。いつさばいたかがちゃんとわかるところもいい」

「エールをくれ」

「俺もだ」

「姉さん、兄さん、ここは国王らしくワインでは?」

「もういいだろう。おいしく食わせろ。せっかくの兄弟水入らずだ」

「そうだぜ。エトジル、このもてなし、感謝する」




 三人がおなか一杯になったころ、エトリーヌが気になったことを聞く。


「エトジル、この城に来た時に見たのだが、ここの騎士、ずいぶんを怪我人が多いな」

「そういえばそうだな、まるで戦をした後のような感じだな」


 エトライは、部屋の隅で警備にあたっている騎士を見る。


「ここを守っている騎士ですら、鎧が傷だらけじゃないか」

「はぁ。姉さまも兄さまも目ざといですね」

「どことの戦争だ? 協力するか?」

「いえ、戦争ではないのです」

「じゃあ、なんだ、魔獣か?」

「はい。それに近いです。実は、入手したシチメンチョウは四羽でして、その一羽が騎士達を振り切って逃走したのです」

「おい。いくらシチメンチョウが厄介な鳥だからって、騎士がこうもぼろぼろになるわけがないだろう。そんなに貧弱なのか? お前のところの騎士は」


 エトジルは、無言を返し、そして、手を叩く。


 部屋へ執事が入って来る。トレイを持って。


「兄さま、これが今食べてもらっているシチメンチョウの羽です」


 そういうと、執事が二十センチくらいの羽を手に持って見せる。

 それをエトリーヌもエトライも見るが、視線がトレイに誘導される。なぜなら、トレイからゆうにはみ出した羽の先が見えるからだ。


「それから、こちらが逃走したシチメンチョウの羽です」


 執事が羽を握って持ち上げる。その羽は五十センチもある。


「おい、嘘だろう? そんなでかいシチメンチョウがいるのか?」

「……」


 エトライはその存在を疑い、エトリーヌは無言になる。


「はい。私も直接見ませんでしたが、その体は三メートルもあり、長い足も長い首も体にはまったような球状の体をしていたそうです」

「「……」」

「そのシチメンチョウですが、気を失った状態で城の騎士団の訓練場に運び込まれたのですが、その後目を覚ましまして。騎士団が総出で捕まえようとしたのですが、全く歯が立たず、魔導士団を導入して殺してでも止めようとしたのですが、騎士団も魔導士団も壊滅させられ、そして逃げられました」

「「……」」


 何とか我に返ったエトリーヌが聞く。


「二つ。まず一つ目、そんなシチメンチョウがいたのも驚きだが、三メートルを超えるようなシチメンチョウは騎士団を壊滅させるほど強いのか? 二つ目、そんなシチメンチョウを無傷で、気絶させた状態でここまで運んでこられるような冒険者がいるのか?」

「姉さま、話した通りです。どちらもその通りです」


 次いで、エトライが聞く。


「この三羽のシチメンチョウとそのバカでかいシチメンチョウを捕まえたのは同一の冒険者なのか?」

「同一人物か、という意味では分かりません。しかし、同一パーティです」

「わかっているのか」

「はい。この国に入国した、それをなせるようなパーティは一つだけです」


 エトリーヌとエトライが唾を飲み込む。


「プラチナランク冒険者パーティクサナギ、勇者タカヒロ、そしてマオ。この勇者と呼ばれる二名が率いるパーティです」

「「……」」

「確証は?」

「門兵が確認をしているのと、三メートルのシチメンチョウを運んできたのがドラゴンだからです」

「ドラゴン族を従えし勇者? それは本当のことだったのか?」

「直接見ていないのですが、話を聞いた限りは真実としか言えません」

「もしかして、勇者に会えるの?」


 エトリーヌが期待を浮かべる。言葉遣いは女の子のそれに変わる。


「姉さま、会ってどうするんですか?」

「ちょっと会ってみたいだけよ。お近づきになれたら、我が国も安泰じゃなくて?」

「城に呼びますか?」

「呼ぶ? 呼べるの? それって、失礼じゃなくて? 勇者よ?」

「我々は国王ですけどね」

「うーん。機嫌を損ねたくないってことだろう?」


 エトリーヌとエトライがエトジルを見る。


「わかりましたよ。この国の王として、直々にお願いしてきますから」

「さすが、我が弟」


 エトリーヌがエトジルを抱きしめる。


「そこまで期待する者かね」


 エトライは首をかしげる。




 翌朝。


「お客さん、お客さん、大変だよ」


 ドンドンドン


 部屋をノックする音でベッドから抜け出す優香。


「女将さん、どうしたんですか?」

「お迎えが来ているよ。しかも、国王様だよ」

「……」


 毎度このパターンか。


「要件はなんて?」

「聞けるわけないだろう。国王様なんだよ」

「はぁ」


 仕方なしに、優香は恵理子と一緒に一階に降りる。

 そこには、あからさまに高貴な服を着て頭に冠を乗せた青年がいた。その周りには、なぜか傷だらけの鎧を着た騎士達が。


「冒険者パーティクサナギのリーダー、タカヒロです」

「マオです」

「国王様、どう言ったご用件でしょうか」


 優香は一応は敬語を使うが、へりくだるつもりはない。


「お、おう。君が勇者タカヒロ君かね。この度は、シチメンチョウを三羽も捕らえてくれて助かった。感謝する」


 それに反応したのは恵理子。


「三羽?」


 その一言に、騎士達が視線を逸らす。


「あ、申し訳ない。四羽だったな。四羽だ。四羽」

「それで、ご用件は」


 優香がもう一度聞く。


「知っていると思うが、今、我が城にはセントラルエルトとサウスエルトの両国王が来ている。それで、私を含め、エルト三国の三王で、感謝の言葉を述べたいと思うのだが、城まで来てはいただけないだろうか」

 正直、めんどくさくはある。しかし、国王自ら来ての頼みとなると、断りづらい。どう考えても、国王なりに礼を尽くしてくれている。


 優香は恵理子と視線を合わせ、頷く。


「わかりました。これから、ということでしょうか」

「うむ。馬車を用意している。そちらの都合でよい」

「他のメンバーは?」

「もちろん連れてきて構わない」

「わかりました。準備ができ次第、お伺いします」

「ありがとう。よろしく頼むよ」


 そう言って、国王は宿を出て行った。




「はあ、めんどくさいことになったわね」

「これからも街に寄るたびにこうなのかな」

「もう、こりごりね。でも、今、セントラルエルトとサウスエルトの王に会っておけば、両国に行ったときに呼ばれないかもね」

「そういう意味では、一回で済ませられてよかったのかも」


 一階まで降りて、様子を見ていたミリーに声をかける。


「ミリー、お願い。みんなで城に行くから用意して」

「承知しました。皆に準備させます」




「朝ごはん、食べてからでもいいのかなぁ」


 リーシャがおなかをさすりながらつぶやく。


「ちょっと聞いてみる?」


 恵理子は、宿の外で待っている騎士に声をかける。


「朝ごはん、食べてないんだけど、食べてからでいい?」

「それなら、城に用意させる。早めに出てくれると嬉しい」

「……わかったわ」


 騎士は、他の騎士に城へと走らせる。当然、朝ごはんを用意させるためだ。




「朝ごはん、城で食べてって」

「そうなんだ。じゃあ、もうちょっとの我慢なんだね」



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