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エルト三国王会議(優香と恵理子)

「それじゃ、依頼達成の手続きをしますね」


 受付嬢が書類を作成し始める。


「じゃあ、先ほどの三羽のシチメンチョウですが、一羽、金貨五枚で引き取らせていただきます」

「あ、これもあるんだけど」


 恵理子が王城でもらった依頼達成のサインを見せる。


「え、もう、一羽を納品してきたんですね」

「うん。そうなの」

「それじゃ、合計四羽で合わせて金貨二十枚……」


 受付嬢は、恵理子に手渡された書類にもう一度目を通す。


「これ、金貨百枚って書いてありますけど、どういうことですか?」

「ちょっと大きい奴だったから、奮発してくれたんじゃない?」

「はぁ。そうですか。じゃあ、さっきの三羽も一羽あたり金貨、うーん。三羽で五十枚でどうですか?」

「いいの? そんなに値を上げちゃって」

「いいんです。王家に請求しますから。これでエルト三国王会議が成功するんですから、安いものですよ。きっと」


 優香はありがたく金貨百五十枚を受け取り、それをリシェルに渡した。




 クサナギ一行は、ギルドを後にして宿へと帰った。


「ただいまー」

「あら、おかえりなさい。どうだったかしら?」

「はい。女将さん」


 リーシャとブリジットが二羽のシチメンチョウを見せる。


「あら、すごいのね。二羽も捕まえて来るなんて……二羽? ギルドの依頼分はどうしたの?」

「ちゃんと納品してありますから。大丈夫です」

「本当かい? そんなにたくさん捕まえたの。すごいね」


 女将さんは、シチメンチョウを右から左からと状態確認をする。


「このシチメンチョウ、二羽とも状態がいいのね。こんなきれいなシチメンチョウ、見たことないわ」


 恵理子は、苦笑いをする。


「そうね。すごく状態がいいんだけど、うちはそんなに払えないから、ギルドに売った方がいいのかもしれないわよ」

「女将さん、いいんですよ。これで私達のご飯をお願いします」

「え? 売らないのかい? くれるのかい? 本当にかい?」

「余った分は、自由に使ってください」

「本当に、本当にいいのかい? これ、金貨何枚かになるだろう?」

「ははは。もう十分、ギルドからもらいましたから」

「そうかい。ありがとうね。じゃあ、晩御飯、楽しみにしていて。シチメンチョウでコース料理を作るから」


 女将さんは腕まくりをした。




 晩御飯は、それはそれは豪勢だった。シチメンチョウの蒸した胸肉のサラダ、各部位の焼き鳥、香草焼、グリル、そしてシチュー。


「うひゃー」


 と、大喜びしたのはリーシャ。


「自分で獲ったと思うとまた格別!」

「本当においしい」


 ブリジットは上品にフォークを口に運んでいる。


「ブリジット、食べないならちょうだい」

「食べます」


 手を伸ばしてきたリーシャのその手をよけるように皿を持ち上げるブリジット。


「むしろ、しっぽの回収に協力したんだから、私に焼き鳥を差し出しなさい」

「いやです。それとこれは別です。お礼言ったでしょ」


 そんな仲のいい二人に割って入る優香。


「リーシャ、獲ってきてくれてありがとう。おいしいよ」

「どういたしまして」

「ブリジットもありがとう」

「はい。えっと、喜んでいただいて、こちらもうれしいです」


 と、ブリジットも少し照れる。それが恥ずかしかったのか、質問を返す。


「ところで、あの大型個体、どうしたんですか?」

「何とか動きを止めて、ネフェリと一緒に王城へ直送したわ」

「ですよね。あの大きさ、どうやって運ぶのかと思っていました」

「そうよね。今頃、まな板の上だと思うけど、あれ、まな板の上に乗らないわよね。ちょっと興味があるわ。見てこればよかった。でも仕方ないわよね」


 恵理子は残念そうに笑う。


「国王様方、喜んでくれるかな」




 翌日、昼過ぎに豪華な馬車がそれぞれ騎士団に囲まれて入城する。セントラルエルト国王のエトリーヌと、サウスエルト国王のエトライである。ノースエルトのエトジルと合わせて三人は兄弟であり、エトリーヌが長女。エトライが長男であり、この国、ノースエルト国王のエトジルが末っ子だ。

 話し合いの内容は、定期的な国家間の調整だが、今回は、もう一つ。ノースエルトにやってきた両国王は、ノースエルトの街に入る前に、川の両岸のにぎやかさを目の当たりにした。


「エトジル、下る魚をあんなに獲ってしまっては我が領の魚の漁獲量が減るだろう」

「それに、来年以降の登る魚の量も減ってしまうだろう」

「姉さんも兄さんもそうは言いますけど、突然のことなんです。いきなり大量に魚がかかって漁師達も対応が難しくなってしまったんです」

「よかったじゃないか。それだけ漁獲が上がるってことだろう。これ以上網を川に入れなければ、我が国まで下って来て、三国で魚をさばけるかもしれないぞ」

「さっき、来年の登る魚の心配をしていましたよね。そんな兄さんが獲るって話します?」

「獲っているお前が言うな」

「我が国はお前達の国に挟まれているんだ。どっちも獲りすぎるんじゃない」

「漁師は漁師で喜んでいるんですが、困ったことだってあるんですよ。あまりに大量すぎて干し魚を作るために、街の人達だけじゃなくて冒険者、冒険者ギルドの職員まで駆り出されていて、依頼が全然かたづいていないって聞いているんです。おかげで肉の流通量が減ってしまって」

「おいおいおい、ちょっと待て、それじゃ、晩飯のシチメンチョウはどうした? まさかと思うが、魚を理由に獲れなかったなんて言わないよな」

「失礼ですね、兄さん。ちゃんと用意していますよ。そこはご安心ください」

「ふん。シチメンチョウの一羽くらい確保できるよな」

「ちゃんと晩御飯はシェフが腕を振るいましたから、ご期待ください」

「おい、エトライもエトジルも、腹が減ったのはわかるが、話を魚に戻せ」

「ですから、魚が大量に入ったのは不可抗力ですって。姉さんの国も兄さんの国も漁獲量が減ったわけじゃないでしょ」

 ……




 夕食時。


「姉さん、兄さん、本日はシチメンチョウのフルコースを用意しました」

「は? 品数を増やして一品一品当たりの量を減らしたのか?」


 エトライがエトジルにせまる。


「エトライ、品がないぞ。少しずつでもいいじゃないか。私達のためにエトジルが頑張って確保してくれたんだから」

「姉さんはエトジルに甘いんだから。エトジル、シチメンチョウ味のニワトリだったら許さないからな」

「いえ、姉さまも兄さまも、好きなだけ召し上がりください。三羽分調理してあります」

「「三羽?」」

「三羽も獲ったのか? 保存しておいたとかじゃないよな。新鮮なやつだよな」

「もちろんです。昨日入手してそれをさばき、一晩冷暗室で寝かせたものです」

「おいおい、さばかれたものを入手じゃなくて、入手したものをさばいたと? ギルドからの購入じゃないのか?」

「ギルドからの購入ですよ。ですが、生かしたまま入手しました」

「三羽も?」

「何が不思議なのです?」

「この国には、三羽も生かしたままシチメンチョウを捕まえられるそんな冒険者がいたのか!?」

「だから、この街の冒険者は皆、魚をさばきにと」

「じゃあ、誰が」

「冒険者ではあるんですが、旅の冒険者です」

「そんな冒険者が……」

「エトライ、エトジル、いいから食わせろ」

「姉さん、食事の前だと品がなくなるんだから」


 パンパン


 エトジルが手を叩くと、食事が運ばれてきた。

 その食事の量に、エトリーヌもエトライも、エトジルさえも目を丸くした。


「「「こんなにシチメンチョウが……」」」


 エトジルが何とか意識を取り戻す。


「飲み物も各種用意してありますので、申し付けて下さい」


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