シチメンチョウの納品(優香と恵理子)
「さあ、ミリー、オリティエ、みんな、帰ろう。きっと、森の入り口でアリーゼ達が待っているから」
「「「「はい」」」」
優香達は、山を降りていく。かなり森の奥まで来てしまった。しかし、依頼を達成したことから、気持ちは楽だし、足取りは軽い。少し速足で森を抜ける。
森の入り口まで戻って来ると、やはり、アリーゼ達が待っていた。手には、シチメンチョウの首につながるロープを持って。
「大丈夫だった?」
「こいつら、ものすごい力ですよ。私達じゃなくて、普通の冒険者だったら引きずられたかもしれませんね」
「大変だったね。ありがとう。じゃあ、冒険者ギルドへ行こうか」
もうすでにネフェリが城を出てからかなりの時間が経過している。街のドラゴン騒ぎも何とか収まっていた。
だが、街へ入ると、注目を浴びる。
シチメンチョウ三羽を連れて歩く冒険者パーティ。生きたシチメンチョウを見たことがある者も少ない。
だが、隠すこともできないので、優香達はそのままギルドへと歩いて行く。
ギルドに着いて中に入ると、恵理子達が待っていた。
「マオ、お疲れ様。待っていてくれてありがとう」
「タカヒロもね。歩いて来て大変だったでしょう。で、シチメンチョウは?」
「アリーゼ達が外で連れてる」
「よかった」
優香と恵理子は、ギルドの受付へ行き、受付嬢にシチメンチョウを連れてきたことを話す。
「え、生きているんですか?」
「もちろんだけど」
優香が答える。恵理子は、さっき、騎士達に倒し方を聞いたので、生きたまま連れてきたことを驚かれている理由をわかっている。
「えっと、それはどこに」
「外にいるけど」
「では、確認をさせていただきます」
受付嬢は、カウンターから出てきて、外へと歩いて行く。
外に出た受付嬢は、手で口を押えて固まる。
「本当にいる。しかも、生きてる。傷もない……」
「お姉さん、これ、受け取ってほしいんだけど」
アリーゼがロープを差し出す。同じように、マロリーとリシェルもロープを差し出してくる。
それに対し、受付嬢は、ついつい、その三本のロープを受け取ってしまう。
だが、受付嬢がロープを受け取ったのを確認して、アリーゼ達はロープを離す。
その瞬間、シチメンチョウ達の目が光った。これまで、アリーゼ達の力で逃げられなかった。それが、力の弱そうな一人の女性になった。しかも、三羽同時に。
シチメンチョウ三羽は、息を合わせたかのように森へ向かってダッシュした。
バビュン!
「え、ええーーーーーー!」
受付嬢が声を残して消えた。
「「「あ」」」
「あれ、お姉さん、どこ行ったの?」
ギルドから出てきた優香が聞く。
「えっと、森の方へ」
アリーゼが、受付嬢が消えた方面から視線を外さずに答える。
「え?」
「ええ、三羽のシチメンチョウに引きずられて、消えました」
「ええ? まずいじゃん」
「ええ、まずいですよね」
優香と恵理子は走り出した。
その頃。
「ひどい目にあった」
ブリジットが愚痴をこぼす。
「ありがとうって。今日のこの茶トラセット、気に入っているやつだったし、猫耳がないと街に入れないから、ほんとに助かったわよ」
リーシャとブリジットは、二人で薙刀の柄を担いでいる。その柄には二羽のシチメンチョウが足を縛られてぶら下がっている。うるさいので、口もローブで結ばれている。
「ようやく、街が見えてきたわ」
「ほんと、ようやく。大木の周りをくるくる回りすぎて、溶けるかと思った。もうこいつらを相手にしたくない」
「久しぶりに同感」
だが、そうも言っていられない。
街の方から、複数の足音と悲鳴が聞こえてくる。
ドドドドドド……
「キャー、助けて! 止めて! 誰か!」
街から森へ向かって走ってくる、三羽のシチメンチョウ。その後ろに、ロープに引きずられるギルドの受付嬢。だが、リーシャ達は、受付嬢が目に入っていない。
「もういいって言ったところなのに」
「ほんと、もう相手にしたくないわ」
リーシャは、担いでいた柄から足を縛られたシチメンチョウを外し、柄をかまえる。
ブリジットは、メイド服から薙刀の柄を出してかまえる。
そして、両手で引き絞ると、
「「飛んでけ!」」
と、柄を左右から振り切った。
ゲイン!
三羽のシチメンチョウが空を舞い、街へと戻って行った。受付嬢も連れて。
「飛んでった飛んでった」
「はあ。すっきりしない」
リーシャとブリジットが、再びシチメンチョウを柄に結び付け、肩にかつぐ。
「あ、飛んで戻ってきた!」
優香が空飛ぶシチメンチョウを見つける。
「あ、お姉さんも舞ってるじゃん。あれ、危ないよね。どうする?」
疑問を呈する優香に恵理子が慌てて指示を出す。
「タカヒロ、お姉さんを確保、みんなは、シチメンチョウのロープを何とかつかんで」
「「「……」」」
「え?」
いつもはすぐに返事が聞こえてくるのに、今回は聞こえない。
恵理子が振り返ると、
「えー、私もタカヒロ様に抱っこされたい」
「私も」
そう呟いてやる気をなくしているメンバー達が目に入る。
「いいから何とかしなさい!」
恵理子が大きな声を上げる。
「「「はーい」」」
結局、優香が飛び上がって受付嬢をお姫様抱っこでキャッチ。
シチメンチョウのロープは、ミリーとオリティエ、アリーゼが捕まえた。
「大丈夫?」
優香が腕の中に収まっている受付嬢に確認を取る。
「……ぽっ」
仮面越しに優香の目を見つめる受付嬢。
「お姉さん、このロープもう一回持ちます?」
アリーゼがロープをフリフリする。
「あ、いえ、あの。大丈夫です。降ります。降りますとも」
受付嬢が殺気を感じて慌てて優香の腕から降りた。
「お姉さん、危ないからすぐ手を離せばよかったのに」
優香が受付嬢に声をかける。
「ですが、このシチメンチョウ、王家からの依頼だったし、逃がすわけにはいかなかったんです」
「その根性は買うけど。危ないよ」
「……はい」
そこへリーシャとブリジットが合流する。
「タカヒロ様、マオ様、ただいま帰還しました」
「おかえり、大丈夫だった」
「はい。見てください。ちゃんとついています」
リーシャはつけ耳とつけしっぽを見せる。
「よかったね」
「はい」
「リーシャとブリジットもシチメンチョウを捕まえたんだね」
「はい。私に体力で勝とうと思うのが間違いなんです」
「はあ。私はちゃんと捕まえましたよ。鞭で」
「やっぱり鞭か」
「なに? 何か問題でも?」
「いや、ありません。ごめんなさい。そして、ありがとう」
「わかればいいんだ」
「で、お姉さん、このシチメンチョウ、引き取ってもらえます?」
「えっと、王家からの依頼は三羽以上なのでとりあえず、この三羽があればいいのですが、そちらも売ります?」
「いや、宿の女将さんが欲しいって言っていたから、このリーシャとブリジットのシチメンチョウは宿に持って帰るよ。それで、こっちの三羽はどうしたらいい?」
「申し訳ないんですが、私では連れて行けないことがわかったので、ギルド裏の小屋まで連れて行ってもらっていいですか?」
「わかりました。ミリー、オリティエ、アリーゼ、お願いね」
「「「はい」」」
全員が集合したので、全員でギルドまで歩いて戻る。シチメンチョウと受付嬢のお姉さんを連れて。




