シチメンチョウ狩り~ボス戦開始!(優香と恵理子)
「リーシャ、大丈夫?」
「いつつ、隙間を狙うんじゃなくて、人を狙ってくるとは」
リーシャが足跡のついた顔をさする。
「ヒール」
恵理子が笑いをこらえて治癒魔法をかける。
「うーん。次に行きましょうか」
同じように、ヴェルダとメリッサが先を進む。
シチメンチョウを見つけたヴェルダのハンドサインは一羽だ。
とりあえず、気配を消して視野に入れる。
「もう一回回り込む?」
「一羽なら蹴られません」
「私がやる」
「……」
パイタンが名乗りを上げた。
パイタンは、恵理子の背中から降りて地面にしゃがみ、そして、手をついた。
ザザッ!
クエッ!
シチメンチョウを囲むように土壁が地面から立ち上がった。
「「「おー」」」
「パイタン、すごいね。そういえば土属性だったね」
「うん」
恵理子はパイタンをいい子いい子する。
クエー、クエー、クエー……
壁の中で鳴き続けるシチメンチョウ。
「これは、黙らせないともう寄ってこないわね。パイタン、壁を半分くらいにしてくれる?」
「ん」
ズズズ
壁が半分地面に埋まっていき、シチメンチョウの顔が見えるようになる。
「ちょっとおとなしくしてね」
恵理子はシチメンチョウのくちばしにロープをかけた。それと、連れていくために首にもロープを結ぶ。
「これ、連れたまま狩りはできないわよね」
「そうね。どうする?」
「アリーゼ、ナディア、二人でこのシチメンチョウを連れて麓まで降りていてくれない?」
「「承知しました」」
アリーゼとナディアはロープを握って、シチメンチョウを連れて山を降りて行った。
「恵理子、あと何羽捕まえるの?」
「うーん。王様が三人と、女将さんが欲しいって言っていたから、あと三羽かなと」
「いいところだね。探そうか。ヴェルダ、メリッサ、お願い」
「「はーい」」
こうして、次にマロリーとルーリーがシチメンチョウを連れて山を降り、リシェルとローデリカが山を降りた。
「これで三羽。あと、一羽だね」
山の中を歩いて二時間。
「見つけられなくなっちゃったね」
「そうよね。あれだけ鳴かれれば、警戒もするかもね」
「隠れちゃったのかもしれないし」
優香達は完全に気配を消しているヴェルダ達の数十メートル後ろを歩く。
しばらく移動をすると、ヴェルダとメリッサが止まった。
それを見て、優香達も歩みを止める。
二人の様子を見守っていると、メリッサが戻ってきた。
ハンドサインを送るでもなく。
「あの、崖の下になるんですけど、臨戦態勢です」
「え?」
「シチメンチョウが臨戦態勢です」
「どういうこと?」
「見ていただいた方が」
優香と恵理子は、気配を消して、崖の上から下を覗き込む。
そして、そっと後ろに下がる。
「なんなの、あの大きいのと数は」
崖の下には、これまで捕まえてきたような足も首も長いシチメンチョウが多数。そして、その中心にずんぐりむっくりの、だが、体が三メートルは有りそうなシチメンチョウが一羽いた。
「あれ、ボスかしら」
「それにしても大きいわね」
「最後の一羽、あれにする?」
「それがいいかもだけど、どうやって捕まえるの?」
「逃げずに向かってきてくれるなら、やりようがあるんじゃないかしら」
「でも、あれに縄をかけて連れて行くの、大変じゃない?」
「うーん。まずは、動きを封じないとね」
「わかった」
「リーシャ、ブリジット、みんな、周りのシチメンチョウを遠ざけて。これ以上いらないと思うから、殺さないように」
「「「「はい」」」」
「あの大きいのは、僕とマオがいく。マオ、いい?」
「わかったわ」
「じゃ、行くよ」
そう言って、ここに残っている全員が崖の下へと飛び出した。ただし、パイタンは恵理子の背中の上。
シチメンチョウ達は、予想通り、迎え撃ってくれるようだ。百羽は超えるシチメンチョウに優香達は突撃する。
初手は、リーシャだ。目の前に迫った背の高いシチメンチョウにこぶしを撃ちこむ。
「飛んでけー!」
ぽふっ!
「え?」
動きが止まるリーシャ。シチメンチョウは羽を膨らませて体を大きくすると、羽毛が緩衝材の役割をして衝撃をすべて吸収してしまった。リーシャの手は、その膨らんだ羽の中。
固まったリーシャに反撃の手、いや、くちばしが襲い掛かる。
クエー!
リーシャの手を羽毛でからめとっているシチメンチョウがリーシャの頭をつつく。
そして、別の個体がリーシャのしっぽに食いつく。
が、シチメンチョウも驚く。
猫耳が取れた。しっぽが取れた。
はっ、と、リーシャがそれに気づく。
リーシャがシチメンチョウから手を抜いて頭としっぽがあった腰をなでる。
そのリーシャの焦った様子に、シチメンチョウはニヤリとする。実際にはニヤリとはしないが、猫耳やしっぽを咥えたまま首をもたげ、得意げだ。
猫耳を咥えたシチメンチョウも、しっぽを咥えたシチメンチョウも、ものすごい勢いで走り出した。それぞれ逆方向へ。
「あー! 猫耳が、しっぽが!」
リーシャが驚愕の声を上げる。
「ブリジット! しっぽをお願い!」
リーシャはそれだけ言って、猫耳を咥えたシチメンチョウを追いかけて飛び出した。
「え? 私?」
ブリジットは、困惑する。しかし、
「仕方ないな」
そう言って、しっぽを咥えて走り去ったシチメンチョウを追いかける。
リーシャ、ブリジット、戦線離脱。
ミリー達も苦労をする。殴っても蹴ってもふわふわの羽毛のせいでダメージを与えられない。それが百羽もいるのだ。遠ざけることすらできていない。
「タカヒロ様、マオ様、これ、どうしたら!」
ただ、何とかなっているのがネフェリとリピー。
その力とスピードにものを言わせて、蹴り飛ばして行く。
「奥までしっかり蹴りを入れろ!」
ネフェリがミリー達に指示を出す。
「「「「はい!」」」」
そう言われても、なかなかできるものではない。
ミリー達は、頭をつつかれまくる。
「こんのー」
ミリーがその美貌に似つかわしくない声を上げしゃがみこむ。髪はもうぼさぼさだ。見た目なんて構っていられない。だが、攻撃のために迫ってくれるならこっちのものだ。
「オリティエ、行くよ」
オリティエもしゃがむ。
そして、それぞれがシチメンチョウの右足と左足を捕まえ、
「「せーの!」」
で引っ張った。逆方向へ。
ぐぎっ!
ギョエー!
「よし! みんな、足を狙うよ! 柄を装備!」
「「「「はい」」」」
「奥まで蹴り込めと言っただろう。訓練を厳しくするぞ!」
「「「「……」」」」
ネフェリの厳しい突っ込みに、声が出なくなるミリー達。
「まあ、今は遠ざけられるならそれでいい」
その一言に、ミリー達は、薙刀の柄を持って、足を狙いだす。
足なら羽毛が生えていない。
足を狙われ始め、シチメンチョウが距離を置いた。
「よし、進むぞ」
ネフェリとリピーを先頭に、巨大シチメンチョウへ向かって道を開いて行く。
「リーシャとブリジット、どこまで行ったからしら」
「まあ、リーシャはもともと野良猫だし、大丈夫だと思うけど、ブリジットは……」




