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パイタンの祝福~シチメンチョウの狩り(優香と恵理子)

「レイ義母様、いつの間に。それにドライア義母様にディーネ義母様も」

「よ、久しぶり」


 れーちゃんが皮を口にくわえて挨拶する。


「なんか、酒に合いそうな干し魚があるって噂を聞いて、やってきた」


 アクアは、釣れたよ。あんな噂で……と、ジト目だ。


「あれ、なんか人数増えてないかい?」


 女将さんがひーふーと、数を数え始める。


「あ、ごめんなさい、仲間が三人遅れて到着しました。だから、三人分、追加で部屋をお願いします。っていうか、同じ部屋でいいので、泊まらせてください」

「まあ、いいけどね。お金払ってくれれば。それで、食事は三人分、どうするんだい?」

「女将さん、この皮うまい。これと、あと、今話題の干し魚あるかい?」


 れーちゃんが注文する。


「なんか、酒のみの注文の仕方だね。ま、持ってくるよ」


 女将さんは、再びキッチンへ戻り、魚を焼き始めた。




「ほい。出来立ての干し魚の焼き物に、これはサービスしとくよ。去年の冬に作った、マスのトバだ。むしってお食べ」

「おおおー」


 れーちゃんが目を輝かせる。


「ドライア義母様、ディーネ義母様、わざわざすみません」

「いいのよ。れーちゃんが暇していたし」

「そうよ。それに、用事があったんじゃない?」

「はい。レイ義母様が落ち着いてからでいいのですが、この子」


 恵理子の横に座っている白髪の少女、パイタンを紹介する。


「パイタンって言いますが、お分かりの通り、高位精霊です。ぜひとも祝福をお願いしたく」

「もちろんいいわよ。れーちゃんが落ち着いたら、みんなでやるわ」

「ありがとうございます」

「それじゃ、それまで飲みましょうか」

「はい! ドライア義母様、ディーネ義母様」


 にぎやかな食事が続く。


「女将さん、私もこの干し魚欲しい」


 リーシャが手を上げる。


「はいよ。待ってな」

「勇者様のお義母様、そのトバ、もらっていいですか?」


 リーシャが一応、下手に出る。


「もちろんいいぞ。おいしいものはみんなで食べてこそおいしい」


 れーちゃんがたいそうなことを言う。


「そうですよねー」


 あははははは。

 完全な宴会になった。




 夜、優香達の部屋。


「レイ義母様」

「ん?」


 れーちゃんは、日本酒に手を伸ばした手を止めて返事をする。


「この子、パイタンの祝福をお願いします」

「うむ。どれどれ」


 れーちゃんは、パイタンを見つめる。


「この子、何属性か知っているか?」

「えっと、炎を使っていたから火属性では? でも、アクアは土って言っていましたけど」

「そうか。やっぱりか」


 れーちゃんは、改めて言う。


「この子は土属性だ。しかも、火属性付きの。つまり、主が土で属が火だ。二属性持ちということだ」


 パイタンは、クエスチョンマークを頭の上に飛ばしている。


「まあいい。祝福をしよう」


 れーちゃんは、パイタンを高い高いして、そして、額にキスをした。


「ほれ、ドライアとディーネも」

「「はい」」

「いつも思うけど、大精霊様三人に祝福されるって、すごいよね」


 優香が言う。


「レイ義母様、祝福された高位精霊とされていない高位精霊って、何が違うのですか?」


 恵理子が日本酒に手を伸ばしたれーちゃんに聞く。

 れーちゃんは、二度まで日本酒に伸ばした手を止めさせられ、口をとがらせて答える。

 優香と恵理子としては、れーちゃんが酔っぱらう前に聞くことは聞きたい。

 

「中位と低位精霊のなつき方がちがう。つまり、魔法の行使力が全然違う。それから、将来的に大精霊になれるかどうかもな」

「そうなんですね。よかったね、アクア、パイタン」


 アクアとパイタンは、ほほを染めてうつむく。

 大精霊に会えたのは、優香と恵理子に出会えたから。二人は、そう思う。


「さあ、部屋に上がったことだし、日本酒開けるか」


 れーちゃんは、ようやく日本酒の一升瓶に手をかけた。


「レイ義母様ったら」

「やっぱり、魚には日本酒だよ」


 あはははは……




 朝起きると、三大精霊はもういなかった。


「ヒール」


 恵理子は頭を押さえる。


「日本酒……親の小言と冷酒はなんとやらね。まあ、親がああだけど」

「いたたたた、ヒール」


 同じように頭を押さえて起きる優香。


「優香、おはよ。レイ義母様達、来られると楽しいけど、翌朝がつらいわね」

「あの人ら、自分達が精霊だからって本当に」


 トントントン


「優香様、恵理子様、朝食の時間です」


 アリーゼが声をかけて来た。


「今降りるから」




 皆で朝食を食堂でとる。

 そこで優香が宣言する。


「今日は、みんなでシチメンチョウを狩りに行こう」

「「「はい」」」




 優香と恵理子、そしてクサナギの一行は、フル装備で森へと入る。


「シチメンチョウは野生動物だから、探査魔法は使っちゃダメ、と」


 エヴァがおさらいをする。


「そうよ。探査魔法で襲ってくるのは、強い魔物だけ。野生動物は、まず逃げるから」


 マロリーが魔法少女隊の先輩として指導をする。むしろ魔力を押さえて気配を消して森の中を進まなければならない。


「それで、シチメンチョウ狩りの私達の役割って」

「それが、どういう生態かもわからないから、見てからだって」

「そうなんですね」


 魔法少女隊は、全体の後ろの方を歩く。今回は、食材というか、商品として狩るので、下手に傷をつけてはいけない。よって、アイスランスで肉をダメにするなんてことはあってはならない。

 ちなみに、パイタンは大蛇になったらシチメンチョウが逃げてしまいそうなので、子供形態をとっている。しかし、それだと移動が遅いので、恵理子の背中にくっついている。




 しばらく森を奥へ奥へと進み、ある時、先頭を歩く優香が隊を止める。


「恵理子、あれ」

「……あれ?」

「体の形は似てるけど」

「首、長いね。足も長いけど」

「シチメンチョウというより、エミュー?」

「なんて言っていいか。それより、あれがシチメンチョウで合っているのかしら」

「でも、翼と胴体に、ビコーズサイン(∵)のような模様がいくつかついているわよ。あれ、顔に見えない?」

「あれがあるからシチメンチョウ?」

「きっと、左右で六個あるのよ」

「なるほど。よし、広がって囲おうか」


 ミリー隊やオリティエ隊が、左右に広がっていく。しかし、


 クエー!


 と、シチメンチョウは一鳴きして、走って逃げて行った。


「は、速い」

「警戒心が強くて、足が速いのね。そもそも、鳴いちゃったから、他のシチメンチョウも警戒しているかもしれないわね」

「うん。風向きも悪かったのかも」

「ヴェルダ、メリッサ、お願い」


 小柄な二人に気配を消してもらって先を進むこととする。




 しばらくすると、ヴェルダからハンドサインが送られてきた。

 二羽いるらしい。


 二人のハンドサインに従って、風下から大きく広がっていく。

 囲った後は、その輪を少しずつ狭めていく。


 ある程度狭めると、さすがにシチメンチョウも気づく。

 しかし、もう遅い。シチメンチョウ二羽はすでにクサナギによって包囲されているのだ。


 クエー!


 シチメンチョウ二羽は、お互いの距離を取ったと思ったら、違う角度から一点突破を図るかのように一人に向かって走り出した。

 狙われたのはリーシャだ。


「リーシャ、行った!」

「え、ええ? どっち?」

「どっちかでもいい!」

「よし、左!」


 と、左から向かってくるシチメンチョウに向いて身構えたところで、右のシチメンチョウがスピードアップ。


 ゲイン! 


 リーシャの顔面を蹴とばした。


「「「……」」」


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