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ノースエルト到着~パイタンの追い込み漁(優香と恵理子)

 馬車はラフィット改めカヴァデールを出発し、南へと下っていく。

 街道は川を沿って続いている。

 左側に川を望み、右側は森が続く。そんな穏やかな風景のはず。はず……。


 ザッパーン!


 大波を立てて川を移動する者がいる。パイタンだ。

 パイタンは、五十メートルちかい大きな白ヘビ。それが馬車から見える範囲で上流に登ったり下流に下ったりを繰り返している。そのたびに、水がはじけ飛ぶ。

 とはいえ、パイタンは楽しそうだし、誰かに迷惑をかけているわけでもないのでと、好きにさせている。


 河川敷に馬車を止め、お昼にする。


「パイターン。ご飯にするよ」


 と、恵理子が声をかけると、パイタンは馬車までヘビのままやって来て、しゅるると縮んで女の子体型に戻る。

 この数日の旅ですっかりメンバーとも打ち解け、あの苦手としていたエヴァとも仲良くしている。


「ほら、パイタン、水を拭かないとびしょびびょ」


 エヴァがパイタンにタオルをかぶせ、頭から拭いて行く。ある程度拭いたところで、


「はい、お着替えするから、馬車に行こうね……お着替え?」


 そういえば、いつもこの白いワンピースだな、と、エヴァは思う。


「恵理子様、パイタンの着替えって」

「あ、いらないわよ。パイタン、服替えて」

「うん」


 シュン!


 パイタンの服が渇いた服に替わる。替わったのか乾燥したのかわからないけど。

 なんにしろ、精霊はよくわからない。

 ちなみに、アクアは制服を着用している。


「エヴァ、私もこの服着る」


 えっと、と、エヴァは首をかしげる。


「恵理子様、パイタン用の制服ってないですよね」

「うん。ないよ。パイタン、これ着たいの?」

「うん。でも、黒嫌。白がいい」

「いいよ、パイタン。次の街でキザクラ商会があったら作ってもらおうね」

「うん」


 恵理子は、パイタンを納得させる。


「さあ、ご飯食べよう」




 昼ご飯を食べた後、パイタンはアクアと一緒にお昼寝である。タロとジロにくるまって寝る。食後の数時間は、ミリー達が魔物を探しに森へ入るので、休憩の時間となっている。


「オッキー、この先って?」


 優香がオッキーに道の先にある国のことを聞く。


「この先は、エルト三国と言って、ノースエルト、セントラルエルト、サウスエルトと、三つの国が並んでいます。どの国も、カヴァデールのように、小さな国です」

「そうなんだ。同じような名前なのは?」

「先代国王の時は、エルト王国と一つの国でしたが、後継ぎがうまくいかず、三兄弟が三つに分けてそれぞれ王として治めることにしたみたいです」

「へー。じゃあ仲が悪いの?」

「そこまではちょっと。ちなみに、セントラルエルトは、長女のエトリーヌ、ノースが次男のエトジル、サウスが長男のエトライが国王となっています」

「そうなんだ。まあ、どうでもいいかな。ちょっと、イベント多すぎ。何もなく通り過ぎたいよ」

「ですよね。だけど、それ、毎回言っていますよね」

「……」


 そこへ恵理子が口を挟んでくる。


「そうよ。優香だって、ついに二つ名が増えたじゃない。勇者の次は王配?」

「恵理子、面白がっているでしょ」

「だって、私に三つも二つ名つけたじゃない」

「いや、つけたの私じゃないから」


 リーシャがやってくる。


「お二人とも、もう一つあります」

「「……何?」」

「旦那様です」

「「……」」

「さてと、あとどのくらいで次の街につくのかな」

「そうね、数日内には着くのかな」


 リーシャの発言をスルーする優香と恵理子だった。




 ミリー達は、狩りから戻って来て、魔物の解体を進める。


「どうしたの、パイタン。気になる?」


 解体を見ているパイタンにミリーが声をかける。


「いつも丸ごと食べていたの」

「そうなんだ。食べたい?」


 パイタンはふるふるする。


「料理した方がおいしい。ミリーのご飯、おいしい」

「パイタン、ありがとう。後でお片付けを手伝ってね」

「ん」




 解体が終わると、ミリー達は、ごみを一か所にまとめる。


「パイタン、これ、燃やしてくれる」

「ん」


 ゴー!


 パイタンは口から火を吐き出す。パイタンはヘビの形態になっていなくても火を吐ける。精霊魔法だから当然ではあるが。

 元々、ごみ処理は魔法少女隊の役割だった。しかし、今はパイタンがやってくれる。火力が違うからだ。

 以前、薪に火をつけてもらおうとパイタンに頼んだところ、一瞬で灰になった。この火力は、ごみの焼却にちょうどいい、そういうわけだ。


「ありがとう。パイタン。いつも助かるわ」

「うん」


 ミリーはパイタンの頭をなでてあげる。


「ミリー、作業終った? 終わったなら、馬車に乗って。出発するよ」

「はーい」

「パイタンはどうする?」


 パイタンは、川を指さした。


「迷子にならないでねー」


 パイタンは、川へと歩いて行き、大蛇となって川へと入って行った。




 そうやって数日間の移動をしたのち、ようやくノースエルトの街が見えてくる。


「パイタン! そろそろ馬車に戻ってー」


 ノースエルトの街は、川の向こう側に存在し、城壁で囲われている。

 城門の前は、広く開けているが、その前に、川を渡るための大きな橋が架かっていた。


 街に近づいて行くと、川の両側、河川敷がかなりの賑わいを見せていることに気づく。川の両側で、大勢の人が、魚をさばき、そして天日に干していくのが見えた。


「すごいね。漁業が盛んなのかな」


 優香がつぶやく。


「ちょっと聞いてきます」


 リーシャが飛び出した。

 優香たちは、馬車を止めてリーシャを待つ。


 帰ってきたリーシャが説明する。


「なんでもこの数日、魚がやたらと漁獲されたらしく、街で食べるには多すぎるので、保存できるように天日干しにしているようです」

「「……」」


 説明を聞いた優香と恵理子は、パイタンを見る。魚を追い込んだんじゃないだろうな、と。


「ま、いいわ。街へ行きましょう」


 恵理子の掛け声で馬車が再び動き出した。




 橋を渡り、城門に差し掛かる。


「ようこそ、ノースエルトへ。エルト三国なら、やっぱりここ、ノースエルトでしょ」


 気さくな門兵に恵理子が聞く。


「そうなんですね。何が違うんですか?」

「そう言われると困っちまうけどな。見ての通りにぎやかだし、平和だし、ゆっくりして行ってもらえると思うよ」


 と言ったところで、門兵は馬車の紋章に気づく。


「あ、失礼いたしました。カヴァデール王家の方々でしょうか」

「もう情報が出回っているんだ」

「もちろんです。えっと、女王様は……」

「エヴァならあそこに」


 恵理子が指を差して教えてあげる。


「じょ、女王様、メイド服着てるじゃないですか。しかも、何で馬車の外で護衛を」

「その辺は気にしないで」

「……」

「で、通っていい? ついでに宿も紹介してくれると嬉しいけど」

「は! 王城手前の宿は最も高級です。本来、来賓であれば、王城へお招きするところですが」

「ううん。宿でいいから。ありがとうね」

「は!」



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