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パイタン、それはスープの名前(優香と恵理子)

 もう、いろいろありすぎておなかいっぱいだよ。と、辟易しながら優香はミリーに聞く。


「どうしたの?」

「馬車に、馬車に白ヘビの紋章が!」

「え?」


 馬車を見に行くと、二台ともその両サイドと後ろに、白ヘビの紋章が描かれていた。


「さっき、職人が来て、描いて行ったよ」


 何でもないことのように女将さんが教えてくれる。

 はぁ、白ヘビの紋章を背負って旅をするのか。白ヘビ……


「あ、この子どうするの?」


 優香が恵理子にずっとくっついている女の子に目を向ける。

 恵理子は、しゃがんで女の子と視線を合わせる。


「お嬢ちゃん、私達、旅に出るの。お嬢ちゃんは、おうちに帰る?」


 女の子は、目に涙を浮かべて、恵理子に抱き着く。


「ママ」

「え?」

「ママ」

「えっと、私達と一緒に行くってこと?」

「ママと行く。でも、あの人おなか痛くするから嫌い」


 女の子は、エヴァを指さす。

 あはははは、とエヴァは苦笑いだ。


「大丈夫よ。今度から、あの子、エヴァって言うんだけど、あの子がおなかが痛いのとか、治してくれるから」


 女の子は、横目でエヴァを見る。エヴァは笑顔を作って手を振ってみる。

 しかし、女の子は、恵理子の胸に顔をうずめてしまう。


「ねえ、タカヒロー」


 恵理子は優香に助けを求める。だが、タカヒロは、アクアに聞くことにする。


「アクア、これ、どう思う?」

「どうって?」

「連れて行っちゃっていいのかな?」

「私があの場に残らなくていいように、この子もここに残る必要はないと思いますけど」

「マオ、だってさ」

「ただ」


 と、アクアが続ける。


「いずれ、大精霊様に祝福を受けた方がいいかと」

「あー」


 あのよっぱらい達か。優香はアクアが祝福を受けたときのことを思い出す。


「来てもらえるのかな?」

「私には呼ぶことはできません。そのうち来ていただけるんじゃないでしょうか。むしろタカヒロ様とマオ様の方が呼べるのでは」

「じゃあ、レイ母様達のことは、置いておいて」


 恵理子が女の子に聞く。


「一緒に行く?」

「うん」


 女の子は恵理子の胸に顔をうずめたまま答えた。


「じゃあ、一緒に行きましょう」


 恵理子は、女の子を抱きかかえる。そもそものサイズ感が十歳くらい。とても、あの五十メートルを超えそうな白ヘビとは思えない。しかも、精霊なので、重さも感じない。


「えっと、それじゃ、よろしくね。お名前は……ないんだったよね?」


 ふるふる、と首を振る女の子。

 どうしようかと悩む恵理子。アクアを見ると、


「私と同じで精霊にはもともと名前がありませんから」

「そっか。どうしようか?」


 女の子はふるふるするだけだ。


「名前を付けてあげてはいかがでしょう」


 アクアが提案してくる。自分のようにと。自分は大精霊ディーネ様にもらった名前だが。


「それでいい?」


 女の子に確認を取ると、小さくうなずいた。


「じゃあね。あなたは白ヘビだから。うーん。パイ! でも、かわいくするためにパイタン!」

「ん」


 女の子あらためパイタンは、その名前を受け入れたことを示すように、恵理子に抱き着いた。優香はわからない程度に顔をしかめる。それは、スープの名前だろう、と。


「ベッドどうする?」

「パイタン、まだ小さいから、一緒に寝てもいいわよ」

「あの、私がベッドを渡しますから、私がマオ様と一緒に寝ます」


 マロリーが飛んでくる。


「私も」


 ルーリーも乗っかる。ただし、二人ともちみっこではない。

 ザリガニの件以来、この二人は恵理子推しが強まっている。


「大丈夫よ、二人とも。パイタンは精霊だから、アクアみたいに光の玉にもなれるし」


 パイタンはふるふるする。


「え、なれないの?」


 パイタンはうなずく。


「ま、いいか。このままでも。かわいいから」

「タカヒロ様、マオ様、出発の準備が整いました」


 ミリーが声をかけてくる。


「それじゃ、行こうか」

「「「はい!」」」




 姫様隊が馬車のベッドにこしかけて話をしている。


「エヴァ、女王様になっちゃったね」

「……全然うれしくない」

「でも、タカヒロ様と結婚するって、宣言しちゃったじゃん」


 ぼっ! と顔を赤らめる。


「結婚するなんて言っていないわよ。ずっと一緒にいるって言っただけ。ついて行くって言っただけよ。あんなの、あの場だけのことよ。だから、だから……」

「あはははは。ここにいる人みんな、同じだから、いいんじゃない?」

「それにオッキーとマティだって、第一王女じゃない」

「私、もう死んでることになっているし」

「私、たぶん弟が出来ているし」

「な、ずるい」

「まあいいじゃない。さっきも言ったけど、みんな一緒にいようと思っているんだから、場所なんて、どこでも。カヴァデールでもどこでもさ」

「そうよ。あそこ、マオ様のお気に入りの鍋もあるし」

「ずっと旅を続けてもいいんじゃないかな」

「そ、そうよね」

「そういえば、王冠どうしたの? かぶらないの?」

「かぶるわけないじゃない。あんな重たくて邪魔なもの」

「確か、王妃様からも何かもらっていたわよね」


 帰り際、王妃もエヴァに、何かを渡していた。それをみんな知っている。


「えっと、これ」


 エヴァは胸元からペンダントを取り出す。


「へー、真っ白できれいな石」

「うん。だけど、台座の後ろに白ヘビの紋章が彫ってあるの」

「それも、女王様の証明みたいなものかしら」

「わからないけど。でも、ちょっときれいだから、つけてみた」

「いいんじゃない。似合っているわ」

「ありがとう」


 エヴァはペンダントをメイド服の中に再びしまう。




 馬車は南へと進んでいく。


「おーい、リシェル、ローデリカ、それに姫様隊。交代だよ」


 ミリーの声が聞こえる。

 移動時の馬車の護衛は、ミリー隊、オリティエ隊、それとリシェルとローデリカを加えた姫様隊の五人でローテーションしている。

 警戒には、それプラス、タロとジロに乗ったネフェリとリピーが加わっている。リーシャとブリジットは、基本、優香と恵理子の護衛なので、一緒に馬車に乗っていることが多い。しかし、それだけだと暇なので、きままに歩いたり走ったり、馬車に乗り込んだりと行ったり来たりだ。

 アクアとパイタンは好きにしている。


「「「はーい」」」


 姫様隊は馬車から出る。


「よし、今日も歩きながらの魔力操作の練習をと」


 エヴァが意気込む。


「そうよね。全力かそうでないかのアイスランスじゃ、ちょっと怖いもんね」

「……」


 たしかに、毎度テンパるとアイスランスを撃った後に倒れてしまっていることを気にしてはいる。


「大丈夫よ、頑張りなさい」


 リシェルがエヴァの肩を叩いた。


「はいっ!」

「魔力操作に集中しすぎて転ばないようにね」

「はい……」


 ローデリカが同じようにエヴァの肩を叩く。


「よし!」


 エヴァは意気込んで馬車と一緒に歩き始めた。


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