中二病再び~ラフィット王国の終幕(優香と恵理子)
騎士は優香と恵理子の前にまで進むと、膝をついて頭を下げた。
「冒険者パーティクサナギの皆さま。お迎えに上がりました。どうか、馬車にお乗りください」
「「……」」
優香と恵理子は、事態がよくわからず、黙っている。さっきまで犯人扱いで連れて行かれそうになった。今度はなんだ?
二人が動かないので、騎士も動けないでいる。
「あの」「あの」
優香と騎士がはもる。
「申し訳ありません。どうぞ」
騎士が発言を譲る。
「さっきまでマス泥棒の犯人扱いだったんだけど、それと関係ある?」
「え?」
騎士は、周りを見回す。
「あの、この惨状はいったい」
ラフィットの騎士団があちらこちらに倒れている。それを見て騎士が聞いてきた。それに恵理子が答える。
「この子が養魚場からマスを盗んだっていう言いがかりをつけて、そのなんとかっていう騎士が私達を捕まえに来たんだけど」
「それは本当のことでございますか?」
「本当のことのわけないでしょ。濡れ衣よ」
「ではなぜそんなことが」
「私達が知るわけないじゃない」
「失礼します」
そう言って騎士は立ち上がり、倒れているマイネルのところへ行き、なにやら話した後に、戻ってきた。
「あの、申し訳ございません。あの騎士達と、昨日何かありました?」
「いや、私達は心当たりないけど」
「森での恨み、と言っていますけど」
「ミリー!」
恵理子はミリーを呼ぶ。
「さっきの鼻血君と何かあった?」
「昨日、無理やり戦闘訓練に付き合わされましたが」
「あー、全員のしたのね」
ミリーは視線を外して肯定する。
騎士が続ける。
「それと、王子殿下と何かありましたか?」
「王子?」
ミリーが首をかしげる。
「はい、昨日の第三騎士団の訓練に混ざっていたようですが」
「そんな立派そうな人はいらっしゃいませんでしたが?」
「そうですか。昨日からなにやらほほを押さえては顔を赤らめていると。それで少女を一人連れてこいと」
あ、いたな、ほほを押さえて違う世界に行っていた奴。ミリーが思い出す。
「心当たりあるの?」
「あ、えっと、それが王子かどうかわかりませんが……エヴァ!」
ミリーが今度、エヴァを呼ぶ。
「はい、いかがいたしましたか?」
「エヴァ、昨日の騎士団とのいざこざ、最後のあの小柄な騎士にビンタしたでしょう?」
「はい。剣を突き刺してきたので、それをよけ、ビンタしちゃいましたけど。それで戦意を喪失したので、そのままに」
「「……」」
恵理子と騎士が沈黙する。
「あのさ、まさかと思うけど、エヴァを手に入れるためにリーシャに罪を着せたってことないよね?」
優香が騎士に対して、そう言ってすごむ。
騎士はここで勘づく。その子は、この男の恋人か何かなのだろうと。
「そのあたりは、あの、その、殿下に聞いてみないことには」
「ことと場合によっては、この国なくなるわよ、リーシャによって」
「シャー!」
リーシャがすごむ。
「申し訳ございません。そのあたりは今後の調査で」
騎士は思う。そうでなくてもこの国はなくなるんだがと。
「で、話を戻すけど、あなたは何しにここへ?」
「はっ! 国王陛下と王妃殿下が、重要な儀式があるということで、皆さまをお連れするよう命じられ、ここに来ました」
騎士は慌てて片膝をついて頭を下げる。
「私達にその儀式に出ろと?」
「はい。その通りでございます」
「嫌よ」
恵理子が断る。
すると騎士は片膝から両膝をつけた体勢をとり、土下座をした。
「お願いいたします」
優香と恵理子は顔を見合わせしぶしぶ承諾した。
「わかったわよ」
「あ、ありがとうございます」
「全員なの?」
「はい、全員でございます」
「エヴァの安全の保障は?」
「もちろん、この第一騎士団長リヨンの名に懸けて、守らせていただきます」
はぁ。恵理子はため息をつく。
「みんな、お迎えの馬車に乗って。完全武装でね」
「姉さん、やるんですか?」
「誰が姉さんよ」
パシン!
リーシャが頭を押さえる。
「アクア、女の子も連れて来て」
「はい」
冒険者パーティクサナギは、ネフェリとリピー以外の全員が迎えに来た馬車に乗り込んだ。ネフェリとリピーはタロとジロに乗ってついて行く。ヨーゼフとラッシーがその後をついてくる。
馬車は王城の城壁を抜け、玄関口に止まる。
「あの、お犬様は、こちらで」
「わかった。タロ、ジロ、ヨーゼフとラッシーも、ここで待っていて」
「「ばふ」」「「わふ」」
ネフェリのお願いに快く答えるシンベロスとケルベロス。
クサナギ一行はリヨンに連れられて王城へと入る。
そして、謁見の間の入り口にまで連れてこられた。
「勇者様方ご一行の御入場です」
謁見の間の中からそのように声が上がると、ドアが開いた。
優香達は、騎士に導かれて入っていく。赤いじゅうたんを、階段の下まで歩く。
階段の上には、三つの椅子があり、中央は国王、左右は王妃と王子と思われる者が座っていた。しかし、優香達には頭を下げる理由は無い。
その国王、王妃、そして王子が立ち上がり、左によけた。王子はお付きに指示をされて動いているようだ。
すると、騎士が、優香達に階段を上がって上へ行くようにと指示してくる。
優香達は、階段を上がり、壇上で国王達と向き合う形になる。
「これより、戴冠式を始めます」
「「え?」」
優香と恵理子が顔を見合わせる。
王子も聞かされていなかったのか、驚きの表情を浮かべる。
すると、国王が王冠を外し、説明を始める。
「我が国ラフィットは小さな国ではあるが、豊かな国である。これは、ラフィットの前の国、カヴァデールの時代から続いている。カヴァデール最後の国王には子供がおらず、王家が途絶えることとなった。それを継いだのがラフィットである。その時、カヴァデール国王からの遺言がこれである」
国王は一枚の紙を広げて読みだす。
「やがてこの世界に災厄が訪れる。その前兆として、勇者が、聖女が現れるであろう。もし、我がカヴァデールを象徴する白の大蛇を倒せる者が現れたら、この国を譲ってほしい。その者が新しいカヴァデールである。勇者、聖女と共に戦う者である」
国王は、その紙を丸めてしまう。
王子はさらに驚いたようで、顎が外れそうな顔をして固まっている。
優香と恵理子は思う。なんだこの中二病的な手紙は、と。災厄ってなんだよ、と。
「この遺言により、今日よりこの国はカヴァデールとなり、王家の紋章は白ヘビの紋章となる」
そういった瞬間、謁見の間に掲げられていたラフィットの紋章がすべて取り外され、白ヘビの紋章が掲げられた。
優香と恵理子は、ちょっとかっこいいな、と思ってしまう。
「そして、王は、白ヘビを倒したものである。どなただろうか」
国王は、王冠を差し出してくる。
優香達は、きょろきょろと見回す。
ミリー達は、ささっと、両側に別れ、エヴァを前に押し出す。
そんなめんどくさそうなことは、やりたくない。勇者様、聖女様と共に戦う者? そんなこと言われなくても、私達は、優香様と恵理子様の剣であり、盾なのだ。いつもそばにいられなくなりそうなら、国王なんて、やりたくもない。
一方で、押し出されたエヴァは困惑する。
「あ、あの、みんなで倒したの。私じゃないの。みんななの」




