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私の勇者様(優香と恵理子)

 二人は大泣きをしながら謝る。

 助けに来た側が大泣きをしてしまったせいで、助けられた側が少し冷静になる。


「あ、あの、勇者様?」

「違う、違う! 私らは勇者じゃない。こんな、こんなひどいこと……」

「うわーん」


 優香と恵理子は泣き止むことが出来ない。


「あの、勇者様」


 女性が前から二人を抱きしめる。


「勇者様。助けてくださり、ありがとうございます。それから、私達のために泣いてくださり、ありがとうございます。心優しい勇者様」


 すると、部屋の隅に固まっていた女子供が、一人、また一人と立ち上がり、始めの女性と同じように、二人を抱きしめ始める。少しずつその輪が大きくなる。


「「「勇者様」」」

「ごめ、ごめん、ごめんなさい。みんなの方がつらいのに、悲しいのに……」

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

「勇者様方、お願いです、泣きやんでください。私達はお二人に助けられました。ですから、お二人には胸を張っていただきたいです」

「だって、だって私らは、人を殺した。人殺しだ。もう胸なんて張れない。人殺しなんだ」

「勇者様、初めて人を殺されたのですか? そうなんですね」


 女性は二人を強く抱きしめる。


「勇者様。確かにお二人は人を殺したかもしれません。ですが、お二人は、私達を助けてくれました。私達を生かしてくれました。私達に生をくれました。ちがいますか? 私達は、体は生きていても、あの者達に心を殺されていました。ですが、勇者様達にこの心を助けてもらったんです。ああ、勇者様。もし、勇者様。お二人がつらいのであれば、悲しいのであれば、その時は私がお二人を助けます。お二人を支えます。お二人を抱きしめます。お二人のためにこの命を差し出してもいい。だから、お願いします。勇者様。泣かないでください。ご自分を責めないでください」


 女性までもが涙する。

 それにつられるように、優香たちを囲うように抱きしめあう女子供達まで泣き始める。


「えぐっ、えぐっ」

「グスっ」

「ありがとう、ありがとう。私達が励ましてもらってしまって」

「ありがとうございます……」


 優香と恵理子は何とか、涙を拭きながら立ち上がる。


「とりあえず、ここから出ましょう」

「そうです。こんな気持ち悪いところは燃やしてしまいたいです」


 何とか立ち直った優香と恵理子が女性たちに提案する。


「ちょっと待ってください」


 女性が優香達に声をかける。


「あの部屋に、あの男達がため込んだ貴金属やお金があります。それを持ってきませんか?」

「「え?」」

「ここの盗賊は、お二人に倒されました。つまり、ここのお金等の財宝は、お二人のものです」

「いやいや、それなら、その財宝は、皆さんで分けてください。つらい思いをしたのは皆さんなのですから」

「そうです。私達はいりません。そんなつもりでやったことではないんです」

「あぁ、勇者様……」


 女性をはじめとして、一人、二人……結局全員が二人の前に跪く。


「そうしましたら、その財宝で、私どもをお雇いください。これから、お二人に付き従わせてください。お願いします、勇者様」


「「「お願いします、勇者様」」」

「「ええー?」」


 二人は戸惑う。しかし、女性が追い打ちをかける。


「勇者様。勇者様が涙してくださったときに想像されたように、私達は汚れています。このまま、生まれ故郷の町には帰ることはできません。どのような目で見られるか。それを考えただけでも生きた心地がしないのです。ですから、お願いします、勇者様。どうか、私どもを、私達のことを知っている者がいないところまで、どうか、お連れください。その代わり、誠心誠意、お仕えさせていただきます」

「「「お願いします」」」


 女性達は、再び深く頭を下げる。

 ここまでされると、二人には拒絶するような強い意志はない。


「あの、わかりました。わかりましたけど。こちらにも事情があります。私達は、私達の目的、目標があって行動しています。それについてくるというのですか?」

「はい。どこまでも、勇者様のおそばに」

「「「おそばに」」」

「「はぁ」」


 これでいいのか? とため息をつく優香と恵理子。


「わかりました。それでは、とりあえず、お願いします。財宝を外に出しましょう。ここは、死体とともに、燃やしてしまいたいので」

「はい」


 女性は立ち上がると、


「みんな。ご主人様のためです。やります」

「「「はい!」」」


 女性達は、財宝を外に運び出した。


「これ、運ぶすべはあるの?」

「確か、馬車があったかと。探してまいります」


 女性達が財宝を運び出し、馬車に詰め込んでいく。

 そこで、優香と恵理子は、死体を部屋に集める。


「ファイアトルネード」


 死体と建物を巨大な炎で焼きはらった。


 二人と十二人の女子供は、すべてが燃え尽きるのを見守った。


「さて、行こうか」

「あの、勇者様」


 女性が声をかけてくる。


「私は、ミリーと申します。勇者様方のお名前をお教えくださいませんか? それとその仮面を……」

「すまない。仮面は取れない。僕は、タカヒロ。こっちは、妻のマオ」


 ミリーは驚愕の顔を浮かべる。


「あの、タカヒロ様? タカヒロ様は男性?」

「ああ、そうだ」


 ミリーは察する。

 タカヒロと名乗った人物が本当は女性であることは明白だ。

 先ほどの抱きしめた感覚、会話でも十分に女性であることを感じさせられた。

 しかし、なにか理由があるのだろう。そのために、顔を隠しているのだろう。そのために、髪を短く切られているのだろう。

 私達は、従者だ。勇者様の従者だ。それを詮索してはいけない。


「タカヒロ様、マオ様、これからどうか、よろしくお願いいたします」

「「「お願いいたします」」」


 再び十二人の女性が跪いた。


「こちらからお願いしていい?」

「はい、何なりと」

「そこまでかしこまらないでください。どうしていいかわからなくなります」

「うふふふ。勇者様って、意外とシャイなのですね」

「そ、それから、その勇者様って言うの……」

「わかりました。それは胸にしまっておきます。それでもお二人は私たちにとって、勇者様なのです。そのあたりはどうか、ご理解をお願いします。タカヒロ様、マオ様」

「いや、こっちこそ、助けられたと思ってるよ、ミリー、ありがとう」


 優香が頭を下げ、恵理子がうなずく。

 ミリーはふふふと笑うが、冷静さを取り戻し、そこで、現実を告げる。


「タカヒロ様。実は、馬車を二台確保したのですが、馬がいません。どうしたらいいでしょうか。もし、必要なら、私どもに引けと命じてください」

「いやいやいや。ちょっと待って。ヨーゼフ! ラッシー!」

「「わふ」」


 優香が森に向かって呼びかけると、森から二頭の二メートルを超える大型犬が現れる。

 巨大で、頭が三つ。どうみてもおとぎ話の中の悪魔の従者。

 当然、ミリー達はその姿と未知との遭遇の恐ろしさに抱き合い、かがみ、悲鳴を上げる。まさに一難去ってまた一難。


「あ、ごめん。この子達、僕達の友達だから。安心していい」


 そう優香が説明をすると、あからさまにほっとした顔を浮かべるミリー達。


「ねえ、ヨーゼフにラッシー、この馬車、引ける?」

「「わふ」」


 ヨーゼフもラッシーも、しっぽを振り、自信満々だ。


「二人ともすごいね。お願いできる。ゆっくりでいいし、疲れたら休もうね」

「「わふ」」


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