エヴァのビンタ(優香と恵理子)
「オリティエ、じゃあ、勇者様方を馬鹿にされたこと、許せる?」
「許せないわよ。でも、ここは我慢するしかなくない? だって、雑魚中の雑魚ですもの。自分達の弱さを理解して、しっぽをまいて逃げ出したサザンナイトの騎士の方が、まだましに見えるわ」
「貴様ら、言わせておけば」
オリティエはマイネルを無視して続ける。
「こういうの、なんて言うんだっけ、井戸の中のカエル?」
「オリティエ、わかったわ。行きましょう。カエルがかわいそうだわ。今度カエルを見たら謝らないと」
「そうね。行きましょう」
ミリーとオリティエがマイネル達から視線を外す。
「貴様ら、聞け!」
マイネルが叫ぶと同時に、その横に控えていた小柄な騎士が剣を抜き、ミリーに切りかかった。
「貴様ら、無礼だぞ!」
ガキン!
それをミリーがお玉で受け止める。
「マイネルと言ったか? この行為は我らに対する攻撃と取ってよいな。我らがこれから行うのは正当防衛だ。死んでも文句を言うなよ」
ミリーがここから攻撃に移ることを宣言する。
「おい、お前ら、どうせこいつらを叩き潰すつもりだったんだ。きっかけはどうあれ、やるぞ」
マイネルが宣言し、騎士達が剣を抜く。騎士達の総数はおよそ三十。
「全員、お玉装備!」
ミリーがメンバーに指示をすると、全員が両手にお玉を持つ。
「貴様ら、どこまで我を愚弄すれば……」
小柄な騎士が怒りを口にする。
広くもない道の森側に騎士が、街側にミリー達が立ち、向かい合う。
「お前ら、行くぞ!」
マイネルが声をかけ、騎士達が下り坂を駆けおりる。
「みんな、駆け抜けるよ!」
「「「「はい!」」」」
ミリーの合図で、メンバー全員が走り出す。
先頭を走るマイネルの剣をミリーがお玉ではじき、オリティエがその顔面にお玉をたたきつける。次の騎士もその次の騎士もそのまた次の騎士も。
顔を殴られてよろけたところにまた次のお玉が襲ってくる。よって、騎士全員が何発も顔にお玉を撃ちこまれて倒れる。
とはいえ、お玉にさほど殺傷力はない。
「お前達、立て! あいつら、馬鹿にしやがって」
マイネルが騎士達に命令する。
「おい、私達は一撃ももらっていないぞ? 実力差はわかっただろう」
「ラフィットの騎士をなめるんじゃない。一番隊右、二番隊左、森に入れ!」
「「はっ」」
道から外れ、左右の森の中に十数名ずつ騎士が紛れて行く。
道に残ったのは、マイネルと小柄な騎士、それと、もう二人。
「さ、どうしましょうか」
ミリーが首をかしげる。
「えっと、確認だけど、戦闘続行ってことでいいわよね。で、ここまでされたら私達もどこまで手加減できるかわからないわよ?」
マイネルはそれを無視し、
「やれ!」
と、声を上げると、左右の森から、そして、マイネルの後ろから、投げナイフがミリー達を襲った。
ガキンガキンガキン!
それをすべてお玉で撃ち落とすミリー達。
「えっと、これ、いつまで続くのかしら?」
「お前らが死ぬまでじゃない?」
「そ、その言葉が聞きたかったわ。これで遠慮なく、あなた達を殺せる。オリティエは左、私達は右、姫様隊は正面のあいつらを任せる」
「「はい」」
「全員お玉解除! 殲滅だ!」
「「「「はい!」」」」
オリティエ隊が左の森に、ミリー隊が右の森に突入する。素手で。
姫様隊はマイネル達三人の騎士と向き合う。小柄な騎士はその後ろに控えているからだ。
「ねえ、どうする。隊長さんっぽい人を任されちゃったけど。あの人、強いのかなぁ」
エヴァが心配事を口にする。
「大丈夫じゃない? さっきだって、私ら一撃もくらってないよ。見てよ。鼻血出してる」
オッキーが答える。
「ぶふっ! こんな時だから言わないように、見ないようにしていたのに」
マティが笑ってしまう。
「でも、素手? オッキーはいいけど、私達二人は顔まで届かないかもよ?」
「うーん。棒にする?」
オッキーがマティに提案する。
「そうね。棒にしましょうか」
「えっと、私も?」
エヴァが二人に聞く。
「持ってないとナイフが飛んでくるかもよ」
「わかった」
三人は薙刀の柄をかまえる。もちろん刃はついていない。
「おい、相談は終わったのか? こっちは、貴様らみたいなガキを当てられてムカついているんだ。あのリーダー格の二人より強いのか?」
「いえ、私達三人は最後に入った新人ですけど」
「なめやがって!」
マイネルが切りかかってくる。その後ろから二人の騎士が牽制のためのナイフを投げる。
エヴァが一歩前に出てナイフを柄ではじく。
オッキーが右からマイネルの剣を受け止める。マティが左からマイネルの足を、思い切り柄でたたき、払いあげ、マイネルを宙に浮かせる。
そこへ、オッキーがマイネルの延髄に向かって柄を叩き込んだ。
これでマイネルが沈黙する。
「三人相手に、一人で来ちゃダメじゃん。有利な条件で戦わないと」
オッキーが気を失ったマイネルにお説教をする。
「さて、残り三人ね。じゃあ、私が左、オッキーが右でいい?」
「いいけど、有利な立ち位置で戦うってのがリシェル達の教えだけど」
「うん。だから、右と左を私達で抑えて、真ん中のあの小さいのをエヴァがコツンってやって来て」
「コツン……」
そんな相談をしてはいるが、相手は待ってくれない。二人の騎士が同時に切りかかってきた。
「エヴァ、お願いね」
と、オッキーとマティが二人の騎士と対峙する。
エヴァは、しかたないなー。とつぶやいて、前に出る。
「どいつもこいつもバカにしやがって」
小柄な騎士がエヴァに向かって走り出し、剣を突き出してきた。
エヴァは、左足をすっと引いて体を半身にすることでその剣をよけ、そして、
「ごめんね」
と言って、騎士のほほを殴った。薙刀の柄ではなく、平手で。
パチン!
剣をよけられて、しかもほほをはたかれて体勢を崩した小柄な騎士は、よろよろと歩き、そして、膝をついた。
エヴァがオッキーとマティの様子を見ると、すでに騎士を倒した後だった。
「オッキー、マティ、お疲れ様。二人とも、こんな大きな騎士をのしちゃうなんてすごいね」
「何言ってるの、ビンタ一発で戦意をくじくエヴァの方がすごいわ」
マティがあきれて言う。
「え?」
「いいの? あれ、あのままで」
「うーん。もう戦う意思はなさそうだしいいかなって」
「でもあいつでしょ。一番最初にミリーに切りかかったの。あいつが発端なんだから、殺しちゃってもよかったんじゃない?」
「でも、もういいよ。なんか目は明後日の方向見ているし、ぶつぶつ言っているし。それに、「殺しちゃってもよかったんじゃない」なんて、マティはすっかり王女らしくなくなっちゃったね」
「あ、おほほほほほ。そうでしたわね」
「「あははははは」」
笑いあっていると、両側の森から、ミリー隊とオリティエ隊が出てきた。
「「「お疲れさまでした」」」
「こっちも終わったみたいね。お疲れさま。で、あれは?」
ミリーが膝をついて何かをつぶやいている騎士を指さす。
「エヴァがビンタ一発で別の世界に飛ばしました」
オッキーが報告する。
「そう。それはそれですごいわね」
「ミリー達は、騎士を殺しちゃったんですか?」
エヴァが聞く。
「いえ、殺す価値もないわ」
ミリーは、そんなことはもうどうでもいいと、思考を別に向ける。これからどうしようかと。
「変なトラブルに巻き込まれちゃったけど、予定通り魔物を狩りに行きましょうか」
「「「「はーい」」」」




