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勇者様に刃を向けたら殲滅させるとネフェリが言った(優香と恵理子)

「通したことがばれなきゃいいじゃない」

「そ、それが、本日、中央より査察が来ることになっており、この先の一本道をこちらに向かってきております。今ここを通られると、確実に鉢合わせになるかと。また、その査察が到着した時に、勇者様方がいらっしゃいますと、私どもに突撃の命令が下ることは確実です。そうなると、私どもは玉砕です。あの、確認ですが、ドラゴン族を従えし勇者様方ですよね」

「「……」」

「私どもには、家族がいます。今ここで死ぬわけにはいかないのです」

「あの、明日ここに来たらいい?」

「ここまで一本道だったかと思います。査察は、その先にある湖にも調査に行かれるのです。なんでも、食料調達と生物兵器としての可能性を見るとか言って、国外の湖に巨大になるロブスターを放流したとかで。ですので、この道から外れていただかないことには、査察と出会ってしまうかと」

「その査察、倒してしまっていい?」

「やめてください。案内として、私どもが同行することは確実です」

「うーん」

 恵理子が腕を組んで悩む。

「マオ様!」


 リーシャが恵理子に現状を報告しようと声をかける。


「なに、リーシャ」

「話、長くなります?」

「うん。ちょっと結論が見いだせない。何かあった?」

「あの、言いづらいんですが、アクアがぷるぷるしてきました」

「「え?」」


 恵理子とブルズがはもる。


「マオ様、どうします?」

「アクア、消せないの?」


 アクアはふるふるする。


「あの、マオ様、顕現させちゃったアイスランスを消すのは難しいかと」

「アクア、撃っちゃいなさい」


 バシュ! バシュ! バシュ! ……


 前方と左右に、大きな放物線を描いて、六十のアイスランスが飛んで行った。


「ふう」


 アクアがおでこの汗を拭く。

 ブルズは、アイスランスが飛んで行った方向、砦の上の方を眺める。


 優香がおもむろにアクアに聞く。


「アクア、どうしてあのアイスランス、放物線を描いたの?」

「物陰に隠れられるとめんどくさいし、兵士達の上から落とそうと思っていたから……」

「そっか。それをちょっと遠くに飛ばしたと」


 優香は納得した。


「えっと、それで、どうしたらいいんだっけ?」


 恵理子がブルズに確認を取る。

 ブルズは恵理子の方へ振り返る。


「この砦の奥に隠れていてもらい、査察が砦に完全に入った後に入国されるというのはいかがでしょうか。その場合、どうか、ここを通ったことは内密にしていただけないでしょうか」

「はぁ。わかったわ。それじゃ、入るわよ」

「それでは、ついてきてください」


 優香達は、ブルズについて砦へと入った。

 そして、砦の国内側に出たところで、陰に馬車を止め、巨大な布で覆い隠した。タロとジロも布の中に隠されている。優香や恵理子達は、馬車の中で息をひそめる。




 しばらく待っていると、大急ぎで走ってくる騎士団と馬車が、砦に入っていった。


「おい、突然アイスランスが降って来たんだが、攻撃にあっているのか?」

「え? アイスランスでございますか? ちょっと心当たりがございません」


 査察一行の質問にブルズが答える。


「こちらの方向から飛んできたぞ?」

「どのようなアイスランスでしょうか。少なくとも、この砦には、アイスランスを撃てる者はいることはいますが、一メートルくらいのものになります」

「いや、もっと大きいアイスランスが、しかも、二十近く降って来たぞ?」

「それでは、この砦ではございません。魔導士はおりますが、アイスランスを撃てる者は一人しかおりませんので」


 すると、一人の貴族が前に出てくる。


「私は査察団の代表、ファブリだ」

「これはこれは、ファブリ侯爵閣下、このような辺境の砦にようこそ」

「貴様、隠し立てをすると、容赦はできんぞ」

「は、私どもは隠し事などいたしません」

「そうか」


 そう言って、ファブリは剣を抜き、ブルズの肩を突いた。


「ぐあっ!」

「隠していることを話せ」

「いえ、何も」

「それでは、この砦の外にあった、あの大きな荷物はなんだ?」

「い、今、砦の大掃除をしていたところです」

「あくまでシラを切るか。ちょっとこい」


 ファブリはブルズを部下に引きずらせ、砦の上へと登っていく。そして、屋上に出る。


 ファブリは国内側に向かって叫ぶ。


「おい、我らにアイスランスを放った奴、出てこい」


 そう言われて、出てくる者などいない。


「おい、出てこないというのか?」


 誰も動かない。


「そうか。それじゃ」


 ファブリは、部下が拘束していたブルズをつかむと、ブルズを砦の屋上から下に突き落とした。


「うわー」


 グシャ!


 嫌な音が流れる。


「おじさん!」


 恵理子が馬車にかけられた布の下から飛び出す。

 そして、メガヒール! と、治癒魔法をかけた。


「もっと早く出てこれば、そいつは落ちることもなかったのにな。お前らのせいだぞ!」


 ファブリが嫌な笑みを浮かべ、見下ろして言う。


「あんた、許さない!」


 優香も布の下から出てくる。

 リーシャとブリジット、ネフェリとリピーも出てくる。

 ミリー達が布を片付けると、タロとジロ、馬車もあらわになる。


「お? お前ら、ネフェリとリピーと言ったか、元奴隷じゃないか。元気そうだな」

「「……」」

「そんな奴らのところにいないで、我が国に戻ってきたらどうだ?」

「「……」」

「何も言わんとはな、まあいい」


 そう言って、ファブリは砦の兵士をもう一人つかんで砦の外へ突き出してくる。


「お前ら、投降しろ。でないと、こいつも落とすぞ。おっと、手が滑った」

「うわーーーー」


 兵士が落ちてくる。それを優香が落下地点に走り込んで受けとめる。


「貴様、兵士の命を何だと思っている」

「兵士? 道具に決まっているだろう。道具に命なんかあるものか。ほら、もう一人落とすか?」


 ファブリはもう一人、拘束された兵士を突き出してくる。そして、その兵士の首に剣を突きつける。


「優香様、恵理子様、あいつは私がやる」


 ネフェリが小声で宣言する。

 ネフェリはドラゴン形態になり、大空へと舞う。そして、砦の上で人型になり、砦の上に降下する。さらに、その降下するスピードをも利用して、ファブリを殴り飛ばした。


「ぐはっ!」


 ファブリは、顔面を変形させ、砦の上を何度もバウンドして飛んで行った。

 そこへ、リピーも降り立つ。


「私達とやるのは誰だ? あの時の恨みは忘れていないぞ。それにな、私達は宣言したはずだ。勇者様に刃を向けたら殲滅させると」


 査察団の騎士は、拘束していた兵士を手から離し、後ずさりをする。

 ネフェリとリピーが周りを見回しても、誰もかかってくる様子はない。


「ネフェリ、リピー、降りて来て」

「「はい」」


 ネフェリとリピーは人型のまま、砦から飛び降りて、優香の後ろ移動し、そして、砦の上に立つ騎士達をにらみつける。


「砦にいる、全騎士、全兵士に告ぐ!」


 優香が声を上げる。


「私達に敵対しない者には攻撃しない。砦から出てこい。砦に残った者は、敵意があると判断し、砦ごと吹き飛ばす。五分以内だ」



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