血濡れの勇者ー初めてのマーダーー(優香と恵理子)
「おいおい、長かったな。別れの挨拶は済んだか?」
優香と恵理子は立ち上がり、優香が恵理子の前に立つ。
「お前こそ、首と胴体の別れは済んだのか?」
「は? いいねぇ、最近のニュービーは、自分の立ち位置をわかっていない」
そう言って、男はぱちんと指を鳴らす。
すると、周りから十人ほどの男達が出てくる。
「なあ、坊主、俺は冒険者、ゴールドクラスなんだよ。このあたりの最強だぜ? 駆けだしが挑んでいい相手じゃないんだ。かっこつけてないで、さっさと逃げ出したらどうだい?」
「ここでは盗賊のことを冒険者というんだな。勉強になった」
「いいねぇ、世間知らずって。いいぜ、お前は簡単に殺さん。お前の前で、そいつをひん剥いてやろう」
男は舌なめずりをする。
優香と恵理子はあまりの気持ち悪さに再び身震いをする。
そのすきを男は見逃さない。さすがはゴールドと言ったところ。
男は、剣をさやから抜き、優香に上段から切りかかる。
が、男の剣はからぶる。そこに優香はいない。
すでに優香は男の背後へと移動している。
「ごめん、首と胴体じゃなくて、上半身と下半身だった」
男が振り向こうとすると、上半身が下半身からずれた。そして、そのまま倒れこんだ。
「な?」
「かしら?」
「悪いね。こんなに遅いとは思わなかった」
「貴様ら、何者だ?」
「悪い、一人も十人も同じだ。もう覚悟は決めた。クズは殺す」
「お前ら、囲め!」
サブリーダーらしき男が声をかける。
十人の冒険者改め盗賊が優香に切りかかる。
しかし、優香は、その剣一本一本をよけながら、胸に剣を突きつけていく。重心を低くし、舞を舞うかのように。
何人もの男がいとも簡単に倒れる。
「ひぃ!」
サブリーダーが逃げようとする。
「だめ。優香にだけ手を汚させないわ。だから死んでね」
恵理子がサブリーダーののどにナイフを立てた。
恵理子は優香の名を口にしたが、殺してしまうのだ。問題なかろう。
これで、全滅させた。
ここにいるやつらは。
優香と恵理子は男達を集めてくる。
そこへ、ヨーゼフとラッシーがやってくる。
「ヨーゼフ、これを見ていた奴を気配を消して追ってほしい。それから、ラッシーはヨーゼフと私達のつなぎ。ヨーゼフのところへ案内して」
「「わふ」」
ヨーゼフは気配を消して森に入っていった。
「さてと、この盗賊達の死体、どうしたらいいかしら」
「優香、言葉が戻っているわ。でも、そうね。燃やしてしまうのがいいんじゃないかしら」
「そうだね、そうしよう。僕がやっていいかい」
優香は言葉を戻す。
「うん」
「じゃあ、任された」
二人は死体の山から離れ、そして優香が魔法を唱える。
「ファイアトルネード」
ジェシカ達から習った、バッタ殲滅魔法である。
炎が風をまとい、巨大な火柱を立て、死体を焼いていった。
二人は、ため息をついて、腰を落とした。
「初めて人を殺しちゃった」
「私も」
「でも、気持ち悪かった。この世界、あんなのがたくさんいるのかしら」
「そうだったらいやだわ。第二目標がそんな奴らの殲滅になりそう」
「どこかの副将軍みたいね」
「それもいいんじゃない? それでも名前が売れるかもしれない」
「でも、その分、危険性が増すわ」
「構わないわ。私達の目標は、あの子達に会うこと。目的は、あの子達と一緒に暮らすこと。でしょ?」
「うん」
「そのために、私は汚れても構わない」
「そうね。この程度、構わないわ」
恵理子に言われ、優香も力を入れる。
「まだ終わっていないわ。行きましょう」
「そのいきよ。タカヒロ。でも、言葉遣いが戻っているわ」
「あはははは。ごめんマオ、気を付けるよ」
二人は本心では笑いきれない笑い声をあげ、立ち上がる。まだ終わっていない。緊張感を捨てられない。殺さなきゃ、あの気持ち悪い奴らの仲間。そうしないとまた……。
「ラッシーお願い」
「わふ」
ラッシーは先を歩く。二人はそれについて行く。
一時間ほど歩くと、開けた場所に、古ぼけた建物が現れる。
古い教会のようだ。ガラスは割れ、すでに雨をしのぐことぐらいしか出来なさそうだ。
木々の間を出る手前にヨーゼフが待っていた。
「わふ」
ヨーゼフは小さな声で二人とラッシーを呼ぶ。
「ヨーゼフありがとう」
「男は、ここへ入ったの?」
「わふ」
「恵理子、さっきの男、自分が一番強いっていうようなこと言っていたよね。じゃあ、ここにいるのはそれより弱いやつらかな」
「でも、あいつらの仲間だと思うと、気持ち悪くて仕方ないの」
「そうだね。僕もだ。どうせもう、人を殺したんだ。あんな奴ら、やってやる。ヨーゼフ、ラッシー、建物の後ろに回って、逃げるやつらをやってくれ。僕らは正面から入る。三分後に僕らは突入するから、それまでに回り込んで。お願い」
「「わふ」」
二人はカウントダウンを始める。二分前……一分前……十、九、八、七、六、五、四、三、
二人は顔を見合わせ、
二、一、
「行くよ」
「はい!」
走り出した。
そして、二人は、全力で教会に飛び込む。
「な、お前らは? なぜここが?」
「うるさい! 声も聴きたくない」
優香は、男をたたき切る。その横から恵理子が突入し、奥の部屋へ向かう。
二人は奥の部屋の入り口で、
三、二、一、
で、優香が部屋に飛び込む。それに恵理子が追従する。
優香は入って右を、恵理子は奥を行き、問答無用で男達を切り捨てていった。
そして、さらに奥に扉があり、扉を開けて部屋へ突入する。
バンッ!
二人が部屋へ入って身構えたところ、そこにいたのは、女子供だった。
すべて女性。
十人以上いる。
皆、部屋の隅で寄り添いあっている。
中心にいるのは子供。
優香と恵理子も十六歳になったばかりだが、前世の記憶を含めると、とうに百は越えている。
十二、十三歳は充分に子供だ。
二人がそれを見て固まっていると、女性の一人、二十代であろう女性が立ち上がり、優香達に声をかけた。
「もしかして、助けに来てくださったのでしょうか」
おそらく金髪。ワンレングスの長髪ではあるがつやを失っている。その女性は、ボロボロのワンピースを着て、靴は履いていない。どのような扱いを受けてきたのか、想像に難くない。
むしろ、それを想像してしまった優香と恵理子。
緊張が解け、現実に戻った二人は膝をついて、腰を落として泣き出した。
「ごめん。ごめんなさい。もっと早く、もっと早く来ていれば……」
「もっと早く出られていたら……」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……




