姫様隊の初陣(優香と恵理子)
そんな中、優香と恵理子の下へやってくる二人。リシェルとローデリカ。
「あの、優香様、恵理子様……」
「ん? どうしたの?」
「えっと、私達、お金を預からせていただいているんですが」
「もしかして、足りなくなってきた?」
「いえいえ、全然全く足りています。日ごろの食材確保を兼ねた常設依頼でもお金を得ていますし、何より、スタースプリングでの稼ぎが多くて」
「じゃあ、どうしたの?」
「お金的に余裕があることはあるのですが、先日の街で散財したこともありますし」
ローデリカが胸元と腰に手を当てる。
「多少の素材集めをしたいなと。それから、それを新人教育にあてたいなと」
「もしかして、オッキーやマティ、エヴァのこと?」
「はい。まだ森での魔物討伐には参加させていませんし、そろそろと」
「リシェルから見て、大丈夫なの?」
「はい。技術的にはホーンラビットやホーンウルフ程度であれば余裕で。あとは連携ですね」
「当然、リシェルとローデリカはついて行ってくれるんでしょ?」
「は、はい。言い出しっぺですから」
「じゃあ、五人で行って来たら?」
「ありがとうございます。実践を積ませてきます」
リシェルとローデリカが部屋を出て行った。
「うーん」
「リシェル達がついているし、大丈夫じゃないかしら。もし心配なら」
「ブリジット! お願いできる?」
「はい。私もちょっと心配ですから」
「なるべく気配を消して見守ってあげてね」
「承知しました」
ブリジットも部屋を出て行った。
「オッキー、マティ、エヴァ、ちょっと来て」
リシェルが声をかける。
「はい」
「どうしましたか」
「えっと」
「それじゃ、森に入ります。なので、魔物討伐ができるよう、準備して来てください。よーいどん!」
「え?」
「魔物討伐?」
「い、急がないと」
三人は慌てて馬車に戻り、メイド服に仕込んだ武器のチェックをし、団服を着て出てくる。
ちなみにリシェルとローデリカはすでに着替え終えている。
「それじゃ、森に入るよ。集中してね」
「「「はい」」」
「ところで、初めて森に入るわけだけど、ちゃんと勝負パンツ履いてきた?」
「「「???」」」
三人が顔を赤くする。
「勝負パンツは気合を入れるときに履くものよ。まあ、魔物討伐は今日が初めてだけど、気負わなくていいと思うから、いいわ」
「それじゃ、行きましょうか」
五人は、リシェルを先頭に、最後尾をローデリカにして、森の中を進んでいく。
オッキーもマティもエヴァすらきょろきょろと見回しながら、進む。
「あのね、探査魔法を教えてもらったでしょ。それに引っかかって逃げるなら野生動物、襲ってくるなら魔物。今は?」
「引っかかってきません」
「そうね。だからそんなに緊張しないで。でも、上には気を付けてね」
「「「はーい」」」
五人は進む。湿り気のある土、こけ、木の根、正直、足場はよくはない。
「きゃっ!」
エヴァが足を滑らせる。
「ほら、いつもちゃんと走って足腰鍛えているんだから、大丈夫よ」
ローデリカがエヴァを支える。
「はい。すみません」
しばらく歩くと、木々が無い、少し開けた場所に出る。
「さ、ここで訓練しましょうか」
リシェルが声をかけてくる。
「えっと、ここで?」
「はい、オッキー、魔物を狩るときに考えることは?」
「はい。有利な条件で戦う」
「そうですね。で、ここはどうです?」
「邪魔な木もなくて地面も滑らなそうだし、戦いやすいと思います」
「本当に戦いやすいでしょうか。はい。じゃあ、やってみましょうね」
ふと気づくと、ローデリカがいない。
しかも森の奥から、地響きが聞こえてくる。
探査魔法にはたくさんの反応が。それらがこっちに向かってくる。魔物だ。
「リシェル!」
オッキーがリシェルにどうしたらいいかを聞こうとして振り向くと、そこにはもうリシェルはいない。
三人は見回す。すると、木の上から声が聞こえた。
「三人で頑張ってみてー」
「な……」
仕方ないと、気合を入れ、オッキーとマティが剣をかまえる。エヴァは杖だ。
「お待たせ―」
という、ちょっと遅れてきちゃった、みたいなローデリカの声が聞こえたと思ったら、大量のホーンラビットが広場に飛び出してきた。
ローデリカは森を走り回って、ホーンラビットのタゲを集めてきたのだ。
「うげっ!」
オッキーが王女らしからぬ声を上げてしまう。
そこで木の上から声がかかる。
「ほらほら、ちゃんと有利な状況で戦いなさいって」
「囲まれたらホーンラビットと言っても危ないよ」
「クッ!」
オッキーが剣をかまえる。
「エヴァ、三方向にアイスウォール! 攻撃できる方向を制限!」
マティがエヴァに指示を出す。
「アイスウォール!」
三人の後ろ、左右にエヴァのアイスウォールが立ち上がる。
「いいね。じゃあ、次は?」
ホーンラビットが飛びかかってくる。
ガキン!
オッキーが剣で弾き飛ばす。
「オッキーはそのまま剣ではじいて。マティ、薙刀装備!」
後ろからエヴァが指示を出す。
「「はい!」」
「オッキーがはじいたところを後ろからマティがお願い。私はその他を牽制!」
「お、いい感じになってきた」
ローデリカが感想を漏らす。
オッキーがホーンラビットのバランスを崩し、そこへマティが薙刀を突き刺す。
牽制のアイスランスは、当たったり避けられたりだったが、そのおかげで複数同時に襲ってくることを避けられている。
「これで十個体。十一個体目!」
マティが数えながら薙刀をふるう。
「よし最後!」
オッキーが最後のホーンラビットを剣ではじき、マティが突き刺して、討伐が終了した。
「ふう」
オッキーが汗をぬぐう。
「やったね」
マティとエヴァがハイタッチを交わす。
だが、リシェルとローデリカは降りてこない。
「おーい、油断しちゃだめだよ」
「「「え?」」」
ドスン、ドスンと、森の奥から聞こえてくる音。
三人は音のする方を眺める。
ガサガサガサ
森の茂みから出てきたもの、ホーンベアだった。
「り、リシェル、あれ!」
オッキーがホーンベアから視線を外すことが出来ないまま、木の上のリシェルに声をかける。
「ホーンベアよ。さっきの調子で頑張って」
グオオオオ!
ホーンベアがオッキー達をロックオンして四つ足で走って向かってくる。
そして、オッキーの前で立ち上がり、その腕を振り下ろした。
ガキン!
オッキーの剣とホーンベアの腕がぶつかる。
オッキーはホーンベアの腕を払うことが出来なかったどころか、はじき飛ばされてしまう。
慌てて突き出したマティの薙刀も、ホーンベアの爪にはじかれる。
「アイスランスー」
エヴァがアイスランスを放つ。しかし、ホーンベアはそれもペシンと簡単にはじいてしまう。
だが、そのすきに、オッキーとマティが立ち上がる。マティは薙刀をしまって剣を取り出す。
「エヴァ、もう一回行くよ。私達がはじくからアイスランスを!」
「よろしく!」
「はい!」
オッキーがホーンベアの右手を、マティが左手をはじいて、そこにエヴァがアイスランスを撃ちこむ。
「エヴァ、いいよ。多分効いてる。続けよう!」
「はい! アイスランス!」