気分一新! そもそも乙女は汚れませんとも(優香と恵理子)
「リシェル、ローデリカ」
オッキーが帰ってきた二人に肉をさばきながら声をかける。
「なあに、オッキー」
「ちょっとした疑問なんですけど、このパーティの収入源って……」
「お金のこと? もともと勇者様方がもっていた財宝を売ったり、冬の間に温泉で稼いだりだけど、基本的には、常時討伐依頼の素材を売っているのよ」
「常時討伐依頼? 受けていましたっけ」
「何を言っているの。旅をしている間、食べているでしょう」
「……もしかして、魔物の角とか皮とかですか?」
「そうよ。後は、森に入った時にゴブリンなんかに出会ったら、耳だけ持ってくるわ」
「食材確保にまだ森へ入っていないあなた達なら知らなかったのかもね」
「はい。お教えいただきありがとうございます。冒険者としての依頼を受けている様子がなかったので、どんなお金持ちかと思っていました」
「さっき言ったように、肉も野菜も買い出し以外は現地調達でしょうに」
ふと、ローデリカがこれまでの会話と関係ないことを思い出して言う。
「そういえば、マティは戦場から直接来たから持っていないとして」
マティが首をかしげる。
「オッキーとエヴァ、あなた達、いい下着をつけているわよね」
二人が顔を赤くする。
風呂の脱衣所で一緒になることはあるが、見られているとは思わなかった。
実際には、それもあるが、洗濯物を馬車の中にみんなの分をまとめて干しているから、というのもある。
ちなみに二人は旅に出るまでの準備期間があったので、それなりにそろえている。しかも、王女、令嬢らしく高級品を。
「え。えっと」
「あの」
二人が言いよどむ。
「いいのよ。私達は勇者様達にお仕えするのが幸せ。お二人に下着を見せるのが目的じゃないわ」
「そうね。それより、これ、お二人に渡してこないと」
「あ、そうだった」
リシェルとローデリカが優香と恵理子の下へ向かう。
オッキーとエヴァがホッとする。一方で、マティは「準備期間があれば……」と、つぶやいていたが。
「優香様、恵理子様」
「なあに」
「これ、購入してまいりました」
リシェルが優香に、ローデリカが恵理子に渡す。
二人は、袋を開けて中を確認する。
「えっと、これ」
優香が頬を染める。
「ありがとう、うれしい。けど」
恵理子も喜びの声を上げるが、
「みんなの分も買ったの?」
と、言葉をつづけた。
「い、いえ、私達はすでに持っておりますし、そこいらのもので構いませんので」
「そうです。特にアリーゼ達ちみっこはさらしで十分です」
クシュン、遠くでアリーゼがくしゃみをする。
「アリーゼ達だって、来年は成人するのよ。ちゃんとしたものをつけないと」
「そ、そうですが」
「リシェル、ローデリカ、お金はあるの?」
「はい。冬に稼いだお金がたんまりと」
「だったら、みんなを連れて行って、買ってきなさい」
「で、ですが」
「買ってきなさい」
恵理子が強い口調で命じる。
「は、はい。ありがとうございます」
「早速皆で行ってきます」
馬車を出て行こうとする二人に恵理子は念を押す。
「ちゃんと代えの分も買うのよ」
「はい。ありがとうございます」
リシェル達に連れられて、リーシャやブリジット、ネフェリにリピー、そして、アクアまでが買い物にでかけた。
キザクラ商会がてんやわんやになったのは言うまでもない。いったん、貸しきり状態にまでなった。
もちろん、オッキーとエヴァも平等に。
「店員さん、試着していいですか?」
アリーゼが張り切っている。
「わ、私も」
ナディアも負けじとインナーを選ぶ。
そんな二人に喧嘩を売る二人。
ヴェルダとメリッサだ。同じ十四歳同士。
「アリーゼ、ナディア、見てみて。私達、Bだから」
「な、なんだと?」
「店員さん。私にもBを! なんか、Aだときつい気がします」
ヴェルダとメリッサに触発され、ナディアがサイズアップを図る。
「あ、アクア、なんか言ってやって」
裏切ったナディアを横目にアリーゼが同体型のアクアに助けを求める。
「ん? 私は大きくすればいいだけだから、CでもEでもお望みどおりだ」
「くっ、精霊め」
ちなみに、この後アリーゼは、禁断の年下チェック、エヴァとマティをチラ見し、崩れ落ちることになる。アリーゼよりワンサイズ大きい。
この世界の成人は十五歳。成長は早いのだ。それに、エヴァもマティもいいものを食べて育ってきたことだし。
そんなちみっ子達のやり取りをほほえましく見る大人チーム。
それに気づくアリーゼ達。
「くそっ。いつかは私もあっち側に……」
結局皆が両手いっぱいに購入した。
優香と恵理子の分もまとめて。
「お会計ですが、金貨五十枚になります」
「くっ、さすがはソフィローズ。でも、満足はお金に換えられないわ」
そう言ってリシェルとローデリカは支払いを終えた。
「気分一新! ペチパンツも新しいです。それでは行きましょう!」
リーシャが声をかけて馬車が出発する。
なんて掛け声だ。誰もがそう思う。
「もう着替えたのか」
ブリジットがあきれて声を出す。
「いいじゃない。この馬車、洗濯機がついているんだから。洗い放題なんだから。すぐにきれいになるんだから。そもそも乙女は汚れませんとも」
そう。ライラからもらったこの馬車には、この世界にない機密事項が満載である。
オッキーやマティといった元王女ですら驚いた。よってこのパーティを抜けるときには消される、と脅された。
実際にはそんなことはない。嘘である。
この馬車が奪われそうになった時は、自爆装置を押すだけだ。よって、誰がどこでこの馬車のことを話そうと、そのものがなくなってしまうのである。それは絶対に避けたい。この馬車で生活したら、他では生活できなくなってしまう。
街によって宿に泊まるのは、メイドとしての仕事をたまには減らす、それだけのためである。
馬車は南へと向かう。が、何もない。草原が広がるのみ。時々通りかかる街にはおじいさんがいっぱいいて、農作業に励んでいるだけだ。
「本当に平和なんだね」
「そうね。国力を上げるってのもわかるし、このまま平和であり続けてほしいわ」
何もないまま数日が過ぎると、森が見えてくる。森の手前には砦がある。
そこには相変わらずのおじいさん達。
「ここから先は、森だからな。危ないからな。気を付けて行けよ」
「はい。おじいさん達もお元気で」
馬車は森の中の街道を進んでいく。両側とも高い木が生い茂っており、多少は暗く感じる。しかし、それくらいだ。魔物も盗賊も出てこない。よって、淡々と進む。
夕方前に、開けた場所に出る。
「優香様、恵理子様、本日はここで野営でいかがでしょう」
ミリーが尋ねてくる。
「いいわよ。任せる」
「みんな、野営の準備!」
「「「「はい」」」」
ミリー隊もオリティエ隊もそれぞれ行動を開始する。




