見せてよし、動いてよし(優香と恵理子)
オキストロ改めオッキーは、旅が嫌いだった。
食べ物はおいしくないし、お風呂には入れないし、魔物は襲ってきて安心して眠れないし。
しかし、今はどうだ。
野営をしていても、食事はおいしい。自分も当然作ることになったが、皆でする料理も楽しい。それに、馬車には風呂も完備している。
男だと思っていたタカヒロも実は優香という名の女性だと教わった。つまり、同じ馬車であっても安心して眠れる。ちょっと惹かれはしたが、気にしない。リーシャと呼ばれる猫耳メイドは、恋愛に性別は関係ないと言っていたし、理解もできる。
それに、野営時は、思いっきり稽古をつけてもらうことが出来る。クサナギの強さの秘密も隠すことなく教えてもらえるのだ。こんなに楽しいことはない。もちろん門外不出と言われている。馬車の機能もだが。
自分はまだまだ強くなる。
自分よりちょっと前に入ったエヴァは魔導士志望だが、同じように強くなろうと頑張っている。マティはオッキーと同じく王女だったにもかかわらず、必死について行こうと剣を振っている。ぷよぷよの手なんてどこにもない。ここにいるメンバーは皆が前向きだ。
初めてファイトアンドヒールをやられた時には、どうなることかと思った。しかし、今では自分でヒールをかけられるようになりたいとも思っている。今はエヴァにお願いしているが。そうすれば、魔力が続く限り戦い続けることが出来る。
高等学園とは全く違うそのやり方に目からうろこだが、同じように思っていたエヴァと共に、高みを目指していこうと思う。
こうして、いくつかの草原を、森を、川を、街を通り過ぎたころ。
「オッキー、秋が来る前に南下したいんだけど、この辺に南に行く道はある?」
「えっと、次のニーディの街から南に行く道があります。しかし、深い森の中を通ることになります。その先は、川があったり渓谷があったり山道だったりで、あまり使われていない道ですが」
「うーん。さらに東には?」
「大森林を迂回することになるのですが、そうすると、さらにずっと東に行くことになるので、結構な日数がかかります。そうすると、冬が来てしまうかもしれません」
「なるほど。とりあえず、ニーディの街へ行って、食材を買いこんで南下かな。ミリー、お願い」
「承知いたしました」
ニーディの街に入る。
国王からの通達があったせいか、止められることもない。ちなみに、王都を出るときにオッキーも冒険者登録を済ませている。ランクはシルバープラスでエヴァと同じである。
「リシェル、ローデリカ、買い出しをお願い。終わったらすぐに出よう」
「「はい」」
「オッキー、マティ、エヴァ、行くよ」
リシェルとローデリカが三人に声をかけた。
「「「はい」」」
市場にて。
「おじちゃん、この肉、こっからここまで頂戴」
リシェルが肉を丸ごと注文する。
「え? そんなにかい?」
「ええ、私達、二十二人家族なので」
「それにしても、すごい量だな。自分達でさばけるのか?」
「はい。それも勉強ですから」
「そうかい。じゃあ、運ぶが、どこへ運べばいい?」
「それも大丈夫です。この子達が運びますので、箱に入れていただければ」
「……えっと、こんなに線の細そうなメイドさんが運ぶのかい?」
「こう見えても中身は筋肉なんですよ」
失礼な、そうオッキーは思う。しかし、先輩には逆らえない。というより、運べる。
「ほらよ。これ、俺でも持つことはできても荷馬車を使わないと運べないぞ?」
店主が大箱二つを店の前に並べる。
「オッキー、マティ、お願いね」
「はい」
「持って行って戻ってきます」
「よろしくね」
オッキーとマティは、それぞれひと箱を抱える。
パーティに入ってすぐに教えてもらった身体強化の魔法だ。しかし、こういう時や戦闘時の不利な時にしか使っていけないことになっている。
「よいしょっ!」
「よっこいしょ!」
王女にふさわしくない声を上げ、二人は大箱を持ち上げた。
「それでは行ってきます」
オッキーとマティは馬車へと向かった。
ローデリカがリシェルにささやく。
「王女様の品性のかけらもなくなったね。いいのかな、あの二人」
「いいんじゃない、楽しそうだし」
「……」
エヴァは、自分もそう思われているのかと思うと、言葉も出ない。エヴァも辺境伯家ご令嬢だ。
「本当に運んじまったよ。あの二人。すごい筋肉なんだな」
「はい。うちでは、それくらいでないとやっていけませんから」
おほほほほ、と、わざとらしくリシェルが笑った。
「おじちゃんありがとうね」
そう言って、次は八百屋に向かう。
「エヴァ、あなたは果物を運んで」
「はい!」
「運び終わったら戻って来てね」
「はい!」
エヴァも大箱を抱えて馬車へと向かった。
オッキーとマティ、そしてエヴァが戻ってくると、野菜の大箱が三つ置かれていた。
「野菜はいっぱい食べないとね」
「それじゃ、これもお願いね」
「あ、それと、もう戻って来なくて大丈夫だから、肉の仕込みをお願いね」
「「「はい」」」
オッキー達は野菜の大箱をもって馬車へ戻った。
「さてと。いつものように、もうちょっと街を回ってから戻りましょうか」
「この街には掘り出し物があるかな」
リシェルとローデリカは買い物担当なので、ウィンドーショッピングも仕事の内である。しかしながら、二人が本当に見ようと思う店は少ない。というか、ある店に吸い寄せられる。キザクラ商会だ。
「いらっしゃいませ」
キザクラ商会の店員はいつも礼儀正しい。自分達のようなメイドにも頭を下げてくれる。しかも、どの店も店員の基準が厳しいのか、どの店員もビシッとしたスーツと呼ばれる服を着こなしている。それがかっこいい。それに、この服を着ている一般の人は見たことがない。
逆にキザクラ商会からすれば、リシェルとローデリカが着ているメイド服がキザクラ商会製であることは明白。つまり、お得意さんである。
二人は、お目当ての売り場へと歩く。それは、ソフィローズだ。
「いつ見てもかわいい」
「本当よね。冒険者には着る機会がないけどね」
と、いつものように、見ている。見るだけだ。
「ご試着なさいますか?」
という、店員の声にも首を振る。着たら欲しくなってしまう。それを着て街を歩きたくなってしまう。だが、自分達の制服はメイド服である。こんな機能的な服が他にないのも事実。
「私達はメイドですから」
「そうしましたら、こちらはいかがでしょうか。ソフィローズのインナーです。フリルやリボンがかわいらしく、そして、伸縮する生地で作られていて、冒険者の皆様にも着ていただけるよう、動きやすくなっています。見せてよし、動いてよしです」
「見せてよし?」
ローデリカが顔を赤くする。
「はぁ、素敵だわ」
リシェルもうっとりとする。
「それでは、これとこれとこれを。サイズは……」
ローデリカは、優香と恵理子の分を買いそろえる。二人のサイズはしっかりと押さえている。
「リシェル、これでいいかしら」
「赤とか、どうかしら?」
リシェルが思い切って提案する。
「ごめんなさい。それをお二人に勧める勇気はないわ」
「そうよね」
ローデリカは店員に会計をお願いする。
「それでは、これで会計していただけますか」
「はい。今、お包みしますね。二サイズを別々にお包みします」
「お願いします」




