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ひよっこ(優香と恵理子)

 訓練場では、およそ百人の生徒が剣を握り、あるグループは素振りを、あるグループはペアを組んで実践的な稽古をしている。

 ルーベルグは、授業中にもかかわらず、それを気にしないかのように訓練場の真ん中を横切っていく。優香達はそれについて行くしかない。


 突然、ルーベルグが二人の生徒を呼んだ。


「ヘイマン、それからオキストロ、こっちに来なさい」


 騎士服を着た少年と少女がルーベルグの前に立つ。そして、挨拶をする。


「学園長様、ヘイマン、参上いたしました」

「オキストロ、参上しました」

「すまぬな、稽古中に」

「いえ、大丈夫です」

「それでどのようなご用件でしょう」

「まあ、焦るな」


 そう言って、ルーベルグはヴェルダとメリッサに向き、


「この二人は、当学園の第一位ヘイマンと第二位オキストロじゃ」


 と、二人を紹介した。逆にヘイマン達に向かい、


「この二人は、十四歳の冒険者であり、この学園の特待生候補だ」


 そう説明すると、ヘイマンとオキストロが目を見開いてヴェルダとメリッサを見る。身長の関係から上から。


「それで、学園長、私達にどのようなご用件ですか?」

 

 ヘイマンがヴェルダを見下ろしながらルーベルグに聞く。


「うむ。この二人の冒険者ランクはプラチナだそうだ。その実力を見てみたいと思わんか?」


 ヘイマンは口角を上げ、オキストロはため息をついてやれやれという顔をする。


「あの、学園長? 我々は、そのようなことをするために来たのではないのですが」


 優香がルーベルグに断りを入れる。


「あなた達も、我が国の騎士の強さを知りたいのではないのか?」

「知りたいとは思いますが、ひよっこの強さはどうでもよいかと思っています。ちなみに、この二人は、騎士としてどれくらい強いのですか? 卒業時にはどれくらいにまで強くなるのですか」


 優香がそう問いかけると、ヘイマンとオキストロがこぶしを握り、優香をにらんだ。


「言ったであろう。この二人は、この学園の第一位と第二位だ。卒業後は騎士として仕えることがほぼ決まっている。数年もすれば、騎士団長になれるかもしれん。それくらいの実力だ」

「やっぱりまだまだひよっこということですね」

「貴様、我らを愚弄する気か? その仮面を取ったらどうだ」


 優香はついつい忘れてしまうが、まだ十七である。


「いや、僕は君らひよっこに興味はないから」


 優香はヘイマンとオキストロの強さを見計らって言う。


「なんだと!」


 そう言ってヘイマンが腰に差した剣に手をかけた。

 すると、ヴェルダとメリッサが一歩前に出る。


「ご主人様に手を出されるというのであれば、私達が相手をします」

「ご主人様をさげすむことは、この私が許しません」

「ほう、特待生候補と言ったか、貴様らから叩きのめしてやる。オキストロ、やるぞ」

「はぁ。しょうがないね。私達がやらなかったら、学園が馬鹿にされちゃうかもだしね」

「それじゃ、四人とも、訓練場の真ん中へ。二対二でよいかの?」

「私達は一対一でも二対二でも構いません」

「俺らも構わないぜ」

「それじゃ、二対二でやれ。その方が速く終わるだろう」




 訓練場の中央で、ヴェルダとメリッサが二人と向き合う。

 剣を握ったヘイマンがヴェルダとメリッサに問いかける。


「おいお前ら。武器は使わないのか? まさか素手か? やられた時の言い訳のためか?」

「うーん。どうしようかと思って」


 ヴェルダはオキストロを見る。オキストロも剣を握っている。


「私、柄にしようかな」

「私もそうするかしら」


 二人は、メイド服から三分割された槍の柄を取り出す。


「は? 槍の柄?」

「どうしたのですか? 槍の柄じゃ怖いですか?」


 ヴェルダがつい、あおってしまう。


「貴様ら。ちびっこだからって手加減しないからな」

「それで構いません」


 ヴェルダとメリッサは同調した動きで槍の柄をくるくる回して、ビシッ! と構える。

 ヘイマンとオキストロは二人に対峙する。


「ヘイマンとオキストロ対ヴェルダとメリッサの試合を始める」


 学園長のその声に、訓練場にいた全生徒が注目する。


「それでは、始め!」


 ルーベルグの合図で、ヘイマンとオキストロが上段から切りつけてくる。ヴェルダとメリッサは二人よりも背が低い。よって、それを受けるべく、槍の柄を水平に構える。


 ガキン!


 ヴェルダとメリッサはそれぞれ、ヘイマンとオキストロの剣を受け止める。


「涼しい顔をして受けやがって」


 ヘイマンとオキストロは飛びのいて距離を取る。


「一撃目は受けてみて、相手の実力を知るべし。というのが師の教えですから」

「受けてみてどうするんだ?」

「相手の方が強そうだったら、一目散に逃げろと。でもそうでなかったら」

「そうでなかったら?」

「礼儀として、全力で叩けと」

「ほう。やってみろ」


 ヘイマンがそう言うと、じりじりとオキストロが移動を開始し、ヴェルダとメリッサを挟むように位置取る。

 メリッサはそれに合わせて立ち位置を変え、ヴェルダと背中合わせとなる。そして、腰を落として槍を下段に構える。

 そして、ヘイマンとオキストロが剣を叩き込むため、剣を上段位置まで動かした瞬間、ヴェルダとメリッサは飛び出した。


 ドゴッ! ドゴッ!


「その振りかぶる動作が無駄なのです」

「遅いのです」


 ヴェルダとメリッサがそれぞれヘイマンとオキストロの横を通り過ぎると同時に、腹に槍の柄を叩き込んた。

 ヘイマンとオキストロは、その場に倒れ込んだ。


 ルーベルグは、目を点にする。


「あの、学園長?」


 優香が学園長に声をかける。


「しょ、勝者、ヴェルダとメリッサ」


 そう宣言しても、誰も歓声をあげない。それより、第一位と第二位があっさりと倒されたことに、声も出ないようだ。


「あの、学園長? 私達、強い人を探しているんです。この程度ではなくて。学園の先生とか、騎士とか、強い人はいますか? あ、失礼なことを。学園長はお強いのですよね?」

「わ、私は、引退した身。だから学園長などやっておるのだ。教師、教師か?」


 ルーベルグが見回すと、訓練場にいた教師たちが背を向けた。


「いないのですね。では、帰ろうか。ヴェルダとメリッサがここで学ぶことは何もなさそうだし」

「ま、待ってくれ、この二人の師というのはお前……あなたか? この学園で教師をやらないか? この国に勤めないか?」

「嫌です。私達は旅をしておりますので」


 優香達は、学園長に背を向ける。


「最後に、一つ聞かせてくれ。アストレイアの騎士はどれくらい強いのだ?」

「私なんてひよっこですよ」


 優香は適当な答えを返し、学園を後にした。


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