あー、アイスランス出ちゃった(優香と恵理子)
「えっと、この冒険者パーティのリーダーは誰だい?」
前髪をさっとかき上げながら、ヘルメットをかぶっていない気障な騎士が声をかけてくる。
それに対して、優香が一歩前に出る。
「僕がこのパーティのリーダー、タカヒロだ」
「そうかい。タカヒロ、よろしくな。俺はグリム。フレム辺境伯家、第一騎士団の団長をやっている。どうして君が仮面をつけているかは聞かないでおくよ。でも、こんなにたくさんの女の子に囲まれて、うらやましいじゃないか」
「みんな家族だからな。ところで、何か用があるのか?」
「ああ、辺境伯から提案がある」
「聞こうじゃないか」
「全員まとめてノーレライツに仕えないか? 成人前の子は高等学園に入ってもらうことになるけど。その場合、王都までの宿代は辺境伯がもつってさ。いい提案だろ?」
「いや、僕らは旅をしているんだ。王都には行こうと思っているが、ノーレライツ王国に仕えようとは思っていない」
「まあ、王都に行って話を聞いてもらって、それから決めてもらってもいいんだけどな。いいんだけどさ、フレム辺境伯が推薦したってことにしてもらいたいんだよね」
「仕える気はないんだけど?」
「いやいやいや、きっといい話だからさ、聞いてみたらいいよ」
「僕らは旅をしているんだ。この国に仕える気はない」
しつこいグリムに優香がいら立つ。
「そっかー。じゃあ、二番目の提案と三番目の提案になるんだけど」
「……」
「二番目は、僕らが君らを連れて行く。どういうことかわかるよね。三番目も僕らが君らを連れて行く。」
「二番目と三番目は同じじゃないのか?」
「わかんなかったか。二番目は、実力差を思い知らせてついてこさせる。三番目は、半殺しにしてでも連れて行く。かな」
「こっちから提案していいか?」
「ん? なんだい?」
「僕らはどのみち王都に行く。それについてきたらいいんじゃないのか?」
「おー、なんて平和的。だったら一番目の提案でいいだろう?」
「いや、仕える気もなければ、話を聞く気すらないから」
「そっか。まあ、それがいいかもね。って、言いたいところだけど、それじゃ、つまらないじゃないか」
グリムがそう言って腰の剣に手をかけると、他の騎士も同じように剣に手を
かけた。
「それでどうするんだ?」
「まずは半分くらいを叩きのめすぐらいを目指してみるかな。それくらいで言うことを聞いてくれるか見てみようかと」
「マティ、エヴァ、タロとジロを馬車から外して背中に乗っていて」
優香は振り向くことなく二人に指示を出す。離れていろと。
「「はい」」
「魔獣ごときが俺らにかなうとでも?」
「あのね、たった二十一人相手に百人も連れてきたあんたが言う?」
「まあ、手は抜いてやるよ。まずは殺さないようにな」
「えっと、話が長くなっちゃったから、そろそろかな、って思うんだけど。グリムって言ったっけ? 誰とやるか、選ぶ?」
「そんなのは決まっている。お前だよ」
「よし。決まりね。マオ、みんなと有象無象をお願い」
「おっけー」
「さあ、グリム、やろうか」
優香とグリムが向かい合って剣をかまえる。
「んじゃ、行くぜ。おりゃー」
グリムが上段から切りかかってくる。
この世界の騎士はなんでみんな上段から切りかかって来るのか。
優香は剣を寝かせて、両手でグリムの剣を受ける。
ガキン!
「ほう。腐ってもプラチナか?」
「えっと、これが第一騎士団長の剣と。軽いなー」
グリムはほほを引くつかせる。そして、剣を引いて、右上段、左上段と、繰り返し優香に切りかかってくる。
カキン、カキン、カキン……
その一つ一つを優香が剣で受けていく。
その一方で、およそ百人の騎士が恵理子達に襲いかかろうと剣をもって迫ってくる。
しかし、
「アクア!」
という恵理子の一言で、騎士達の足が止まる。
ズドドドドドド!
数十のアイスランスが、騎士達の足元に突き刺さった。
しかし、騎士達は
「ひるむなー、行け!」
掛け声とともに、再び迫ってくる。
「うーん。心折れないか。魔法少女隊、当てて良し。てー!」
アクアを始め、アリーゼとナディア、マロリーとルーリーが複数のアイスランスを撃ちこんでいく。相手のフルプレートメイルに当たり、貫くことはできないが、足止めはできている。
「よーし、前衛、メイス装備。行くよ。突撃―。だけど、ネフェリとリピーは手加減よろしく」
「「はい」」
恵理子の掛け声に、リーシャやブリジットが突撃し、次から次へと騎士達のヘルメットにメイスを叩き込んでいく。
ネフェリとリピーは、案の定、騎士達をゲインゲインと殴り飛ばす、蹴り飛ばす。
ミリー達も負けじと騎士達にメイスを打ち込んでいく。
とはいえ、恵理子達の方が人数が少ない。フリーになっている騎士達には、引き続きアクアと魔法少女隊がアイスランスを撃ちこんで牽制している。
「うわー、すごすぎ。アクア様はわかるけど、魔法少女隊もすごい手数。私もあんなふうに撃てたらなー」
と、ジロの上から魔法少女隊の戦闘を見ていたエヴァが見よう見まねで手を振り上げ、
「アイスランス!」
と、その手を振り下ろした。
すると、エヴァの手元からアイスランスが発動してしまう。
「あ、やばいっ!」
そう叫んだ時にはもう遅い。
一人の騎士にアイスランスが突き刺さった。鎧を貫通させて。
「あー、アイスランス出ちゃった。出せちゃった。しかも初めてのアイスランスで、人を殺しちゃった。えっと、どうしよう!」
エヴァがパニックになる。しかし、次の瞬間には、ぱたんとジロの背に倒れた。
「貴様ら、我が騎士を殺めたな?」
「えっと、殺すつもりで来ているよね。だったら仕方ないんじゃない?」
「貴様も殺す!」
グリムが距離を取って再び優香に切りこんで来る。
ガキン、ガキン……
グリムはスピードを剣に乗せ、撃ちこむが、優香にすべてを受け止められる。
「そろそろ飽きてきちゃった。もういい?」
「やれるもんならやってみろー!」
グリムが剣を振り下ろしながら飛びかかってくるが、グリムはそのまま倒れてしまう。
優香は、グリムの鎧の中、ゼロ距離でアイスランスを撃ちこんだ。それが胸に刺さったのだ。鎧の中で。
「魔法少女隊、ゼロ距離用意! てー!」
恵理子が声をかける。すると、騎士達が次から次へと倒れていく。
とはいえ、半数以上メイスでたたきのめされた後だが。
「アリーゼ、ナディア! ヨーゼフとラッシーに乗って森の中へ。二人いる!」
恵理子が二人に隠れいる騎士を討つように指示する。
「「はい」」
「ヨーゼフ」
「ラッシー」
「「わふ」」
アリーゼとナディアがヨーゼフとラッシーに乗って森へと突入する。
隠れていた二人の騎士を見つけると、二人は同じようにゼロ距離アイスランスで倒してしまった。
「ヨーゼフ、ラッシー、咥えて戻ろう」
「「わふ」」
「後はいいかな」
すべての騎士が倒れた。それを優香が見回して確認する。
「もう森の中にもいないと思う」
恵理子も探査魔法で広範囲に確認を行う。
「よし、どうしよっか。燃やしちゃう?」
「フルプレートメイルだから、蒸し焼きになっちゃうかもね」
「ま、いいか。よけていてね。それじゃ、ファイアサイクロン!」
倒された騎士百人の山が恵理子による魔法の炎に包まれた。
クサナギ一行は、炎が鎮火するのを見届けてから再び移動を開始した。
「マティ、この国、全然穏やかじゃないじゃん」
「そうでしたね。思いっきり好戦的でした」
「これって、敵対行為かな」
「正当防衛ですけど、きっとそう言ってくるかと思います」
「そうだよね。この国もいづらくなっちゃうな」
優香は、ため息を一つつく。
「それからエヴァ、アイスランスを撃てたのはすごいけど、危ないからちゃんと練習してから実戦で使ってね」
次いで優香は未だに倒れているエヴァに声をかける。
「はい。ごめんなさい」
「でも、すごいね。ちゃんとイメージできたってことだよね」
「皆さんがたくさん撃っていたので、イメージしやすかったんだと思います」
「そのイメージ力も、イメージしたものを魔法として発動させるのも、エヴァの実力だと思うよ。それに、威力もすごかった。鎧を貫通していたじゃないか」
「はいっ! ありがとうございます。私も攻撃に参加できるよう、頑張ります」
「だけど、全力で攻撃魔法を撃つのはやめてね。その後、倒れるから」
「はい……」
(わんも)「いつも読んでくださりありがとうございます」
(千里)「ありがとうございます」
(わ)「おそらく今回で五十万字を超えます」
(千)「へー」
(わ)「なんと、読むのに千分もかかるんです」
(千)「ほー」
(わ)「千里、なんか反応薄いね」
(千)「まあ、言いたいことはわかるわよね」
(わ)「優香さんと恵理子さん、大活躍ですね。嬉しいですね」
ドゴッ!
(優香)「呼ばれて出てきちゃいました」
(恵理子)「私達の活躍はまだまだ続います」
(優)(恵)「「これからもよろしくねっ」」
(千)「じーっ」
(千)「ねえわんも、覚えてる?」
(わ)「なにをでしょう」
(千)「私が最後に出たの」
(わ)「ep.60ですよね」
(千)「そのタイトルは?」
(わ)「……」
(千)「私、ローレル側って認識されたままなの!」
(ローレル)「それがなにか!?」
(千)「ひぃっ!」
(桃香)「さーて、来週の好き好き人生は!?」
(千)「明日だから。毎日更新してるから」
(わ)「僕がね」




