お出迎え(優香と恵理子)
「マティ、この国は、穏やかな国では?」
「情報があまり入って来てなくて、知りませんでした」
「でもまあ、砦はおじいさんだし、平和なのは間違いないから、いいんじゃないかしら?」
「確かにね。ただ、戦力を増強しているようにみえるけど、何のためか、ってところだけかな」
「だけどね、私達は旅の冒険者。そんなの関係なくない?」
「マオ、その通りだよ。普通に人探しをしてスルーしようか」
ただ、マティだけは苦い顔をしている。
「辺境伯閣下、どうなさいますか?」
「うちの騎士団をあてる。殺してしまってもアストレイアのレベルが知れるというもの。生かしてとらえることが出来たのであれば、我が国、我が軍の強化、そうできなくても、実験や教育のための教材にすればよかろう」
「承知しました。それでは、グリムら第一師団にやらせましょう」
「成人前は学園に入れるからなるべく生かしてとらえろよ。後はどっちでもいい」
「承知しております」
「そういえば、治癒魔法に適性のある冒険者がいると言っていたな」
「はい。本日ギルドで登録した冒険者になります」
「それだけは必ず生かしてとらえろ。貴重だからな。治癒魔導士は」
翌日、優香達は街を見て回る。買い出し部隊のミリー達とは別行動となる。
適当に領主の屋敷を見たり、教会を見たりと、ふらふらと。
「やっぱり平和な街なのね。住人の顔が明るいもの」
「そうだね。みんな、楽しそう」
「昨日話を聞いた感じじゃ、ちょっと嫌な予感がしたけど。杞憂だったみたいね」
「うん。よかった」
そう言って、優香と恵理子は、意識だけを斜め後ろの路地に向けた。
一方のミリーやオリティエ達は買い物にいそしむ。この街には商店街と呼ばれる通りがあり、左右にびっしりと露店が並んでいる。その通りが見えなくなるほど露店の列が続いている。
「この街の市場はすごいね。ずっと向こうまであるよ」
買い出しに来ているリシェルが額に手を当て、通りの先を見ようとする。しかし、通りが先まで続いていること、人が多いことから見通すことはできない。
「えっと、お肉に野菜にお魚の干したのでしょ。どこで買ったらいいか迷っちゃうね」
ローデリカも首をひねる。しかし、買い物というのは楽しいものだ。その顔は笑顔がこぼれている。
「あ、串焼きがあるよ」
「ほんと。でもあっちに果物もある」
アリーゼとナディアは相変わらず食べ物に釣られている。
「市場はにぎやかだし、いい街なのね」
ミリーのつぶやきに反応したのが八百屋の店主。
「お、メイドさん達、わかるかい。この国は、国王が代わられてから、方針転換してね。適材適所だったり、産めや増やせやと人口を増やしたりと、どんどん発展しているよ。野菜も広い農場でプロが管理しているから、品質がそろっているだろう。おいしいんだぞ」
「おいちゃん、この野菜、仕入れさせてもらっていい?」
ローデリカが提案する。
「お、ありがとうよ。どれくらいだい。それに、多いなら運ぶけど」
「おねがい。あの、中心街の宿屋に届けてくれる?」
「え、あそこ、高級宿だろう? お嬢ちゃん方、あんなところに泊まるお方に勤めているのかい」
店主は、メイド服を見て言う。
「はい。ですから、今後ともよろしくです」
「わかったよ。運んでおくな」
「ありがとう」
買い出しに来ていたミリー達は、すぐに買い物が終わってしまう。通りに少し入っただけで、すべてそろってしまった。肉屋も八百屋もたくさんあるが、どこも品質がそろっていて、どこで買っても同じという気がしたのだった。しかも運んでくれる。
「さてと。どうしましょうか。時間が余ってしまいましたね」
ミリーが手を顎に当てて悩む。
「お肉食べたい」
アリーゼが提案する。
「ダメです。勇者様のお金を許可なくそんな風に使っては」
「はーい。わかってまーす」
「でも、どんなものが売っているのか、もうちょっと見てまわりましょう」
「はーい」
「対象は六名。二十前後から成人前くらいまで。メイド服を着ているが、冒険者ランクは、本当にプラチナなのか?」
「そうらしいがな。ただ、あの中に、治癒魔導士候補はいない、と」
「おい、人ごみに消えちまうぞ?」
「大丈夫だって。あんなメイド服、目立ちすぎなんだよ」
監視をしていた冒険者の二人は、通りに出て追いかける。
「おい、四人しかいないけど」
「二人別行動か?」
ミリー達四人が昼食前に帰ってくる。
「ミリー、買い出しはどうだった?」
優香がミリーに買い出しの状況を聞く。
「はい。いろんなお肉も野菜も買えました。こちらに運んでくれることになっていると思いますが?」
「ああ、来ているみたい。さっき、オリティエ達が馬車に運び込んでいたよ」
「そうですか。よかったです」
「で、その他は?」
「えっと」
「ただいまです」
ミリー隊から外れたウルリカとトリシャが戻ってきた。
「その件ですが、私達の方には、二人の冒険者がつけて来ていましたね。私とトリシャがミリー達と離れて、逆に監視をしていたんですが、気づく様子はなかったです」
「そうなんだ」
「ちなみに、宿周辺にも何人かいますが、ほおってあります。いいですよね?」
戻って来たオリティエが報告する。
「うん。明日の朝には出るけど、街を出るまで何もしてこないんじゃないかな。街の中で何かあったら、それはそれで大ごとだと思うし」
「では、手を出されない限りは放置します」
「それじゃ、外での訓練は今日は休みにしましょう」
翌日、朝から行動を開始する。
宿を出て、東の城門から街を出る。
そして街道を東へと進んでいく。
お昼が迫ったころ。
「ミリー、馬車止めて」
優香が御者台で馬車を操っているミリーに声をかける。
「はい」
ミリーが馬車を止める。
馬車の周りにいたオリティエ隊が馬車を囲むように配置する。
ミリー隊も馬車から出て来て同じように配置する。
「それじゃ、出迎えましょうか」
優香がミリーやオリティエ達のその前に歩み出る。
恵理子にリーシャ、ブリジット、ネフェリとリピーも出てくる。
「マティとエヴァは馬車の上で見ていてね。アクアは二人と一緒に」
「「……はい」」「はい」
二人は不服そうだ。しかし、実力差がありすぎて足を引っ張りかねない。
優香達がそこまで配置を済ませたところ、森から、フルプレートメイルの騎士が出てくる。百名近い騎士が、馬車の森側を囲む優香達をさらに囲む。