ノーレライツ王国国立魔導士高等学園?(優香と恵理子)
魔力を計る?
優香と恵理子はエヴァが計ったことがないみたいなことを言っていたなと思い出す。もちろん、自分達も計ったことはない。気になるといえば気になる。
「はい、この水晶に手を当ててください」
エヴァがそっと水晶に手を置く。すると、水晶が白い光を放つ。しかもかなり明るく。
それを見ていた受付嬢が目を見開いている。
「あ、ありがとうございます。貴方、回復・治癒魔法の素質がありますよ。しかも、魔力は結構多い方です。まだ、冒険者登録をしていないんですよね。いや、していてもいいんですが、もしよかったら、ギルドの推薦ということで、国立の魔導士高等学園に通いませんか?」
「え?」
「そうです。この国では人を増やして強い国になるため、騎士高等学園と魔導士高等学園を設立しました。特に力を入れているのが治癒魔導士の養成です。卒業後はかなりの地位を約束されているみたいですよ。学園では、実用的で実践的な授業も多く、それは上達が早い……」
実践的? と優香と恵理子が顔をしかめる。すると、受付嬢の肩に後ろから手が置かれる。
「リタ、休憩の時間だ」
「え、あ、ギルマス。わかりました」
リタと呼ばれた受付嬢が席を立ち、別の受付嬢が席についた。
「えっと、どこまで話が進んでいます?」
「この子の冒険者登録と、うちのパーティ参加の手続きをしてもらうところです」
「はい。承知しました。それではお名前と年齢を」
「エヴァ、十二歳」
「十二歳ですか? 国立の高等学園に……」
「その話はもういいです。手続きを」
優香がため息をついて先へと進める。
「はい。承知しました」
「一応聞きますが、どの程度の強さなのですか?」
「現状、ヒールが使えるくらいです」
「では、えっと、魔導士の特例ですが、シルバーランクでいかがでしょうか」
そこに待ったをかけるのが優香。
「私達のパーティランクはプラチナです。この子がシルバーランクでパーティのランクがプラチナから落ちませんか?」
「えっと、皆様のランクは?」
「現在、プラチナAが六、プラチナが十四です」
「え、あの、それ、すごくないですか? この子以外がプラチナランク以上ってことですよね?」
「はい。そうです。」
「うーん。現状、この子をプラチナにするには実力の確認ができません。ですが、プラチナAが六人もいれば、というか、半分以上がプラチナランクなので、この子がシルバーランクでもパーティランクはプラチナのままです」
「エヴァ、どう?」
「私は、皆様のご迷惑にならないことと、皆様と一緒にいられればいいので、ランクは何でもいいです」
「あの、一点、注意が」
と、受付嬢が割って入る。
「というのも、この子以外がプラチナランク以上ですよね。ということは、このパーティで依頼をこなしても、プラチナランクが協力したということで、この子のランクが上がらないのです」
「私は構いません」
「ということなので、それでお願いします」
エヴァに続いて優香も了承する。
「はい。それでは、シルバーランク、えっと、じゃあ、プラスにしておきます。シルバープラスランクのエヴァさん。これが冒険者カードです」
と言って、受付嬢は、エヴァに冒険者カードを渡した。
「ひとつ、聞いていいですか?」
優香が質問をする。普通にしていたらエヴァはランクが上がらないのだ。
「はい。何なりと」
「ランクを上げるのに依頼を受けるというのはわかりますが、それ以外の方法がありますか?」
「実力を示す。というのがいいかと思います。ギルマスに対して実力を示す。それとか、各地で行われる大会でいい成績を収めるとかです」
「「あー」」
優香と恵理子が納得する。リーシャは得意げだ。
「了解した。エヴァ、それくらいになれるよう、がんばろう」
「はい」
「……」
受付嬢は、口を開けて固まった。そんな簡単になれるもんじゃないだろう、と。
「あと、もう一個お願いがあるのですが」
「なんでしょう」
「貼り紙をさせてください」
「一か月、銀貨一枚です」
「はい。これで」
優香はいつもの通り、銀貨十枚を払って一年間の貼り紙をさせてもらった。
用事も済んだので、優香達はギルドを後にする。
そのギルドのギルマスの部屋では、ギルマスが壁に向かって話をしている。
「十二歳。魔力はおそらく上位。属性は回復・治癒。ええ。アストレイアから旅をしている冒険者パーティです。他の者? ここに来たのは、プラチナランクが七名。は? 疑っておいでですか? 違いますよ。門兵の話では、二十一人パーティで、うち二十名がプラチナランク以上。残りの一人が今日登録したシルバーです。え、知りませんよ、アストレイアのプラチナがどの程度かなんて。ええ。いや、そっちでやってくださいよ。もし本当なら、うちの冒険者ではかなわないでしょう。もちろん、アストレイアの基準レベルが低いのかもしれません。はい。門兵の話では、成人前が何人か。はい。そうです。手に入れられるならかなり有望かと」
優香達は、宿に戻り、食堂で食事を取ることにした。そこへ、宿の給仕が話しかけてきた。
「お兄さん、仮面をしているのに器用に食べるね。そっちのお姉さんと女の子もだけど」
「慣れだよ慣れ」
「そうなんだ。でも、怪我したのかやけどしたのか知らないけど、うちの最上階を占有するくらいお金を持っているなら、司祭様にでもお願いしたら治ったんじゃない?」
「うーん。これ、呪いなんだよ。三人で呪われちゃってね」
「え?」
給仕は一歩下がる。
「大丈夫だよ。移らないから。うちの他のメンバーが無事なのがいい証拠でしょ」
「そうね。そのようね。ちょっとびっくりしたけど」
「お兄さん達、旅の人?」
「うん。そうだよ。アストレイアからやって来たんだ」
「へー。この国になにか用事?」
「すごくすごく強い人を探してるんだ」
「そうなんだ。会ってどうするの?」
「うーん。会いたいだけなんだけどね」
「そっか。なら、この国で見つかるかもね」
「「……」」
優香と恵理子が視線を合わせる。
「あれ、聞いてなかった? この国、二十数年位前から子供を増やせ増やせって政策を始めて、しかも、騎士や魔導士を養成する専門の高等学園を作ったんだよ。それで、高等学園の好成績者は王国の騎士団とか魔導士団に入れるんだよ。政策を始めてから二十年以上だから、その高等学園を出た人が五年間以上の分いるんだよね。だから、そこにきっと強い人がいるよ」
「お姉さんもその世代なの? 若く見えるけど」
「あははは、わかる? いわゆるベビーブーム第一世代。私はあんまり強くもなくて、魔力もなかったから、一般市民にしかなれなかった。っていうかね。一般市民が一番普通で幸せなんだよ。戦争にも行かなくていいしね」
戦争に行く?
優香と恵理子がマティに視線を送る。しかし、マティは、そんなことは知らないと、首を振るだけだ。
「ざっと見たところ、まだ十五歳になってない子が何人かいるよね。もし興味があったら、ギルドに行って推薦状を書いてもらったら? きっと高等学園に入れると思うよ」
「そうなんだ。ありがとう。でも、みんなで一緒に旅をしているんだ。だから、誰かを高等学園にいれて、おいて行くなんてことは考えられないよ」
「そうだよね。あはは。ごめんごめん。っていうか、あんまりしゃべっているとお母さんに怒られるから行くね。何か頼んでくれたらまた持ってくるんだけど」
「その時は頼むよ」
「りょーかい」




