ようこそノーレライツ王国へ(優香と恵理子)
「エヴァ、遅いー。早く手伝って」
「はーい。ごめんなさい。えっと魔力操作が……あっ」
ドタッ!
エヴァが魔力操作に気を取られてつまずいてしまう。
「いつつつつ、あー、すりむいちゃった。エイッ、ヒール!」
すりむいた膝に治癒魔法をかける。緑色の光が膝を包み、そして怪我が治っていく。
「うふふふふ」
エヴァは自分の上達っぷりがうれしくて仕方ない。たった一週間でヒールが使えるようになったのだ。
このパーティには頑張っている人達がいる。一緒に頑張ってくれる人達だ。だから、私も頑張ろう。
「エヴァ、早く―」
「はーい。今すぐー」
エヴァは駆けだした。
「えっと、それじゃ、東に行くとして、ノーレライツ王国に入るのよね? マティ」
優香が道をマティに尋ねる。
「はい。そうです。まずは我が国の砦を抜けて、そして、ノーレライツの砦へと行きます」
「通してもらえるのかな?」
「タロとジロが微妙なところ。あとは、冒険者なら大丈夫じゃないかと」
「で、どういう国なの?」
「非常に穏やかな国です。穏やかすぎて、国家間の交流がないくらいです。商業的な取引はあるようですが」
「よくそれで攻められずに大国を維持していられるよね」
「まあ、我が国が攻め込まないのと、サウザナイト、サザンナイトとの間には、深い森がありますから」
「そっか。じゃあ、大丈夫かな。ノーレライツに向かおうか」
「「「はい」」」
馬車は街道を東へ進む。時々北の森へミリー隊やオリティエ隊が入っては、肉や野菜、果物などを調達してくる。
街道は、時々商用の馬車とすれ違うだけで人通りが多いとは言えない。
数日して、アストレイアの砦を抜け、そして、ノーレライツの砦へとたどり着く。
「おーい、おめえさん方、どこさいくだ」
「えっと、人探しの旅をしているんです。ノーレライツ王国にも探しに入りたいのですが、どうでしょうか」
「そのでっけー犬はおとなしいのけ?」
「ええ、私達が指示しない限りは人を襲ったりしませんよ」
「そうけ。んだば、通ってけ」
「ありがとうございます」
砦の門が開く。そして、そこへ馬車を進めていく。
砦の中を進んでいくと、気になることがある。
「ここ、おじいさんしかいない」
「本当だ。若者がいない。女性もいない」
砦のあちらこちらで日向ぼっこをしているおじいさんがいる。散歩しているおじいさんもいる。ボードゲームをしているおじいさんもいる。しかし、おじいさんしかいない。
優香は、馬車を下りて、日向ぼっこをしているおじいさんに話しかける。
「あの、ここ、どうしておじいさんしかいないんですか?」
「あ? ここか、アストレイアのおかげだぞ。まったく攻めてこないもんだからよ、年寄りでも務まるっちゅーわけだ。平和がいちばんだぞ」
「なるほどね。ありがとうございます」
「気にすんな、よかったらまた話をしにこい」
優香は馬車に戻った。おじいさんばかりだが、平和だから、と言われれば、そうなのだろう。
しかし、みんな口調がめちゃくちゃだな。優香はそう思った。
しばらくすると、最初の街が見えてきた。しかし、城壁などは何もない。畑が広がり、転々と住宅が建っている。畑で作業しているのはやはりおじいさん。街道を歩いているのもおじいさん。店番をしているのもおじいさん。
「こういう街では、キザクラ商会ってどうなっているのかしら」
「ないんじゃない?」
「見た感じ、なさそうね」
「しかし、のんびりしているわね」
「それだけ平和ってことよね。しかも、おじいさん達、楽しそう」
「そうね。いいことじゃないかしら」
「でも、おばあさん、どこにいるのかな」
「っていうか、若い人もいないよね」
「不思議な感じ」
優香と恵理子はそう感想を漏らしながら、街を通り過ぎた。
その後数日して、大きな城壁が見えてくる。
「やっと大きな街が見えてきた」
「本当ね。冒険者ギルド、ちゃんとあるかしら」
「ここもおじいさんってことないわよね」
「まさかね。冒険者までおじいさんとか?」
「えー?」
「はい、身分証だしてー」
門兵が身元チェックを求めてくる。
「あれ、普通のお兄さんですね?」
「ん? なんだい、その疑問は」
「砦やその隣の町にはおじいさんしかいなかったから」
「あー。この国の政策なんだよ。砦とか農作業のような遠いところはおじいさんにって。平和だしさ。おじいさんで務まるんだよね。おじいさんの方も、仕事があってお金をもらえるからいいみたいだしさ」
「じゃあ、おばあさんは?」
「おばあさん達は保育所や加工工場だな」
「役割分担が出来ているんですね」
「今は、国王が子供を産めや増やせやって言っているから、保育所なんて助かってるよ。男達も遠くへ出稼ぎに行かなくていいしな」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「で、身分証」
「あ、すみません。あの、冒険者なんですが、一人だけまだ登録してなくて」
「ん、そうかい。じゃあ、一人分銀貨一枚もらおうかな。後は冒険者カードを持っているんだろ?」
「はい。冒険者カード二十枚と、銀貨一枚」
「ふーん、ずいぶん大きなパーティだな。ふむふむ。みんなプラチナじゃないか。すごいな。アストレイアでは有名なパーティなのかい?」
「いえ、そんなことはないですよ」
「で、どうしてここへ?」
「旅をしているんです。人探しの。ところで、冒険者ギルドってどこにあります?」
「この通りをまっすぐ行って、大通りにぶつかった角にあるよ。まあ、探し人が早く見つかるといいな」
「ありがとう」
優香達は門兵にお礼を言って、街の中へ馬車を進めた。
「マティ、今更だったけど、マティって年はいくつだっけ」
「十二です」
「あれ、そうだっけ?」
「はい。冒険者マティ、十二歳です。体は小さいですが十二歳です。十二歳にならないと冒険者になれないのがいい証拠です」
「そうだったそうだった。ごめんよマティ」
優香たちと出会った時が十歳。なので、実際には今は十一歳だ。
「エヴァも十二歳になっているんだっけ?」
「……はい。なっています」
王立学園の六年次なので間違っていない。
「じゃあ、後で冒険者登録しよう」
「はい」
とりあえず、いつものように宿をおさえる。
ミリー達は馬車のメンテや買い出し等に忙しくする。
優香達はエヴァを連れて冒険者ギルドへと出かける。
「すみません。冒険者登録を一人お願いしたいのですが」
「はいはい。パーティに新しいメンバーを入れるんですか?」
「はいそうなんです」
「えっと、その子かしら。ずいぶん小さいけど」
「十二歳になったんで、冒険者登録をしようと思って」
「えっと、見ない顔、というより仮面もだと思うのですが、この街の、もしかしてこの国の方ではなかったりします?」
「はい。アストレイアから来ました。旅をしています」
「そうなんですね。それで、この子が得意なのは……」
「魔導士を目指しているんです」
エヴァが答える。
「え、魔導士ですか? まだ冒険者登録をしていない。えっと、魔力を計ってみません?」
 




