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エヴァの旅立ち(優香と恵理子)

 プラチナランク冒険者パーティクサナギ一行は、キリルに滞在している。

 旅の途中ではあるが、メンバーが増えたことにより、馬車のベッド増設が必要になったためである。

 新メンバーとなったエヴァは、すでに実家の屋敷を出ており、一緒の宿に泊まって寝食を共にしている。


「おーい、朝練の時間だよ」


 ちなみに、朝練は、自主である。そのため、寝坊する者もいる。アクアだ。とはいっても、アクアは高位精霊であるため、トレーニングが必要というわけではない。


 優香と恵理子、リーシャとブリジット、それにネフェリとリピーは、朝食の前から戦闘訓練を行う。基本的に、ネフェリとリピーに四人が胸を借りるという状況だ。

 なにせ、ネフェリとリピーはドラゴン族なので、優香や恵理子であってもかなうものではない。


 新メンバー、マティとエヴァを加えたミリー達は、朝食前はとにかく走る。しかも、魔力操作のトレーニングをしながら。

 彼女らは、魔法少女隊でなくても魔法が使える。また、魔法少女隊であっても武器を使いこなす。得意不得意があっても、どちらの鍛錬も欠かさない。


「えっと、魔力を感じて、これをんーと、まず右手に、それから……」


 ゴイン!


「いったー!」


 新人のエヴァが街路樹にぶつかる。


「ほら、エヴァ、ちゃんと前見て。体を動かすことと、魔力を動かすこと、同時にやらなきゃだけど、自分が怪我しちゃダメでしょ、未来の治癒魔導士さん」


 アリーゼが声をかける。


「うう、わかっているんですけど。今まで、誰もこんなこと教えてくれませんでした。魔導士って、集中して魔法を詠唱すると思っていたんですけど」

「そんなんだから、普通の魔導士は近接戦闘に弱いんだよ。これはクサナギの極秘事項だからね。内緒でやるんだよ」

「はーい」


 エヴァは頭をさすり、お尻をはたいてまた走り出した。




 先日、クサナギパーティへの加入をなぜか許された。その後、優香様と恵理子様に魔力操作の方法を習った。正直、目からうろこだった。今の走りながらの魔力操作は、いつでも自然に魔力を操作する、魔法を使えるようになるための訓練だ。

 ここにいたら絶対に魔法の技術が向上する。それを教えてもらえるなら、この人達にずっと仕えよう。

 これまで運動をろくにしてこなかったエヴァではあるが、頑張って走る。絶対について行くんだ。


「ほら、エヴァ、そろそろ戻って朝食の準備をしないと。うちら当番だからさ」


 今度は、ナディアが声をかけてくる。


「うう」


 優香様と恵理子様に治癒魔導士になりたいと言った。そしたら、肉料理を担当するように言われた。治癒魔法を上達したい他の魔法少女隊も同じだ。これまでもみんなで肉料理を担当していたらしい。二人が言うには、魔物でも動物でも魚でも、自分達でさばいて、その体の構造をちゃんと理解することが大事らしい。これまで料理なんてしたことはない。でも、これも勉強。頑張ろう。



 朝食の準備をして、食べて、片付けて、午前中は掃除に洗濯。

 お昼ご飯を準備して、食べて片付けて、午後は武術と体術の訓練。晩御飯の準備をして、食べて、片付けて。

 夜は、優香様と恵理子様から魔法の講義や体の仕組みについての講義を受ける。この間、ずっと魔力操作の練習も並行して行う。そして、全魔力を放出してから就寝。


 こんな日が続く。





 一週間もしたころ、


「馬車が出来たみたいです」


 と、ミリーがキザクラ商会から帰ってくる。


「結構かかったね。それじゃ、出発準備をしようか。明日でいいかい」

「「「「はい」」」」

「エヴァ、ご両親に、明日出発するからって言っておいで。今晩は帰って来なくても大丈夫。ただ、明日の朝ご飯の準備には戻って来てね」

「はい。ありがとうございます」




 エヴァは自宅に戻る。


「お父様、お母様、明日の朝、この街を出ることが決まりました。ですので、今晩はここで過ごすようにと、タカヒロ様、マオ様がおっしゃってくださいました」

「そうかい。それじゃ、食事にしよう。そのコートも脱ぎなさい」


 ロイマンがエヴァに声をかけ、団服を脱ぐように言う。が、その下から出てきたのは、メイド服。


「……やっぱりあのパーティではメイド服なのかい?」

「はい。最強の服だと教わりました。見てください」


 と言って、エヴァはスカートの中から、ナイフも三分割された槍も取り出して見せる。


「そうなんだ。まあ、今日は楽な恰好をしなさい」

「はい。着替えてまいります」




「で、どうなんだい。冒険者パーティは」


 食事をしながらロイマンが聞く。


「はい。新しいことだらけで、今まで習っていたことは何だったのかと思うくらいです」

「……それは、王立学園で教わることとは違うということかい」

「はい。全く違います。ですが、確実に魔導士に近づいていることが実感できています。王立学園では全然魔法の成績が上がりませんでしたが、今なら上位になるのではないでしょうか」

「それは何をどうやっているんだい?」


 自領の魔導士の育成に使えるんじゃないかと、つい聞いてしまう。


「申し訳ありません。お父様とはいえ、お話しできないことになっています」

「まあ、そんなお堅い話はもういいじゃありませんか。エヴァ、パーティの方々はどうなの?」

「はい。皆さん優しくって。わからないことは何でも教えてくれますし、励ましてくれます。それに、皆さん、上達するのがうれしいのか、頑張り屋さんなのです。私もそこに混ざりたいです。追い付きたいです」


 カミラは、娘が目標をもって頑張っている姿をとてもうれしく感じる。屋敷は破壊されてしまったが、娘の成長のため、あのパーティがこの街に来て、よかったのではないかと思う。


「さ、今日はエヴァの大好きなものばかりだから、たくさん食べてね」

「はい、ありがとうございます。それでね、お母様。先輩のアリーゼがね……」


 あはははは、うふふふふ。




 翌朝


「お父様、お母様、行ってまいります」

「うん。元気でね」

「怪我とか、病気とかに気を付けてね」

「誰に言っているんですか、未来の治癒魔導士ですよ!」


 エヴァは、元気に家を飛び出した。




「あのパーティ、どういう人達なのかしら。今一つよくわからないのですけど。大きな三つ首の犬も連れているし、それにあの大きな馬車」

「うちの訓練場に来ていただろう。その中に、タカヒロ以外にも二人、仮面をつけていたメイドがいたじゃないか」

「それがどうしたのです?」

「背の高い方、あのメイドは、剣筋からの予想だが、ユリア・ランダース」

「え? 元王国騎士団長の? 処刑されたのでは?」

「それから、背の低い方。声からの推察だが、マティルダ王女殿下」

「は? 王女殿下も亡くなられたはず」

「王女殿下のサウザナイト、サザンナイト遠征時に、冒険者パーティクサナギが同行していたというのは知られた話。そして、ユリア・ランダースは騎士団長兼マティルダ王女殿下の側近中の側近。二人がこのパーティにいても不思議ではないよ。亡くなられたことになっているからこその、仮面だろうさ。それに、国王からのお達しで、国に敵対したクサナギを認める方向へ簡単に方針転換しただろう」

「そのことは……」

「憶測でものを言っちゃダメだろ、カミラ?」

「そうですわね。ドラゴン族を従えた勇者パーティクサナギ。その中でかんばっていらっしゃい、エヴァ」


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