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一緒に頑張ってくれる友達がいてくれた方が嬉しい(優香と恵理子)

「恵理子の言う通り、簡単には覚えられないよね」

「……言いすぎちゃったかしら」

「いや、いいと思うよ。教えるには時間がないし、連れて行くわけにはいかないし。治癒魔法使いになりたいなら、それなりに学ぶ方法はあるだろうし。それに、私達だって、看護師だったキャリアがあるからこそ、ここまで使えるんだし」

「気持ちはわかるんだけど」

「ねー」




「エヴァ様、そろそろお屋敷ですよ。泣きやんでください」


 アリーゼがエヴァに泣き止むようにと言う。


「グスッ、グスッ。わーん」


 エヴァは泣き止む気配がない。

 仕方ない。アリーゼはそう思う。


 屋敷の門の前まで来て、アリーゼは門番に言う。


「エヴァ様をお連れしました」

「お嬢様は、どうして泣かれているのですか?」

「えっと、将来の夢について真面目に考えているみたい?」


 アリーゼが代わり答える。


「お嬢様、おかえりなさいませ。今、侍女に来させますので」


 と、門番は他の門番を屋敷へと走らせる。


「エヴァ様、それでは私達はこれで」


 アリーゼとナディアが帰ろうとするが、エヴァは二人のメイド服を左右の手でつまんで離さない。


「エヴァ様?」


 エヴァは黙ってアリーゼとナディアのメイド服をつまんだままだ。


「お嬢様、おかえりなさいませ。どうなさいました。お顔を洗いに行きませんか、ご主人様も奥様も心配なさいますよ」


 やってきた侍女がエヴァに話しかける。


「友達ともう少し話をする」


 エヴァはうつむいたまま答える。


「そうでございますか。それでは、お友達もご一緒にどうぞ」

「「え?」」


 アリーゼとナディアも一緒に屋敷に連れ込まれてしまった。しかも友達扱いされて。

 自分達が崩壊させた屋敷である。しかも、ここの騎士達をお玉で殴ってしまった。完全にアウェーである。正直、いづらい。


 結局二人は、エヴァにつかまれたまま、エヴァの部屋まで連れてこられてしまった。


「あの、アリーゼ様、ナディア様」

「メイドに様付けはやめてくださいます? それに、さっき友達と」

「それでは、私のこともエヴァと呼んでほしいです」

「……エヴァ」

「はい。アリーゼ。ナディア」

「で、それで、話というのは?」

「お二人は、どうして勇者様に付き従っているのですか? というより、どうやって付き従えることが出来たんですか?」


 アリーゼとナディアは視線を合わせるが、どちらも言葉を発しづらい。とはいえ、聞かれたからには答える。今となってはつらい過去ではない。


「私達は、盗賊に捕らえられていたのよ。それを勇者様が助けてくれた。だから付き従っている。それだけよ。身寄りもないしね」

「そうなのですか。すみません」

「いいのよ。今、ものすごく幸せだから」

「そうなのですね。お二人は魔導士なのですよね?」

「それが?」

「勇者様に魔法を教えてもらえているのですか?」


 アリーゼとナディアが顔を見合わせる。


「私達、魔法の才能があると思って、得意げだったの。だけど、勇者様達に実力の差を見せつけられちゃってね」

「そうよね。高かった鼻がぽきって折れちゃってね」

「それ以来、勇者様に魔法を教わっているわ。最近はほぼ自主トレだけど」


 アリーゼとナディアが顔を見合わせて笑う。


「うらやましいです。お二人が」

「そう見えるかもね。実際、私達は今の生活に満足しているわ」

「どうしたら魔法を教えてもらえるのでしょう」

「無理よ。マオ様を怒らせたよね? 廊下まで聞こえてきたわよ」


 アリーゼが言うと、エヴァはまた泣き顔になる。


「それに、私達、そんなに長居しないわよ、この街に」

「お二人は、治癒魔法を使うことが出来るんですか?」

「ほんの擦り傷切り傷程度ならね」

「それは教わったからなのではないのですか?」

「そうよ。教わったから。でも、治癒魔法ってものすごく複雑で、結局勇者様達にはかなわないのよ」

「だから、私達が自分以外に治癒魔法を使うことはほぼないわ」


 ナディアも続けてそう言う。


「でもね、私達も治癒魔法を覚えたいの。今回、私達は三回死に目にあった。エヴァが受けた氷の槍、あれ、私達は三回ずつ受けたの。そのたびに治癒魔法をかけてもらった。だけどね、四回目を受けていたら、たぶん死んでいたの。さすがの勇者様も魔力切れを起こしそうになっていて。だから、勇者様のメガヒールを私達も使えるようになりたい」

「そう。私達は何度も勇者様に助けられた。だから、勇者様の助けになりたい。違う。足手まといになりたくない」


 アリーゼとナディアの二人はこぶしを握る。


「私も、私も使えるようになりたいです。私自身を治した、お父様の全身骨折を治した、あの治癒魔法を」




 廊下で聞き耳を立てていた二人、ロイマンとカミラが屋敷から出かける。そして、クサナギ一行が宿泊する宿を訪れる。


「クサナギのリーダーのタカヒロ君とマオ君はいるかね」


 二人は、優香と恵理子の部屋へと通される。


「領主様、それと奥様。このようなところまでお越しいただき、どのようなご用件だったのでしょうか」


 優香が聞く。


「東門と屋敷の賠償についてだ」

「その話は昨日終わったはずでは? 領主様があのように卵を欲しなければ起こらなかったと、そうなったのではないのですか?」

「まあ、そうだが、私達は屋根のない家に暮らして寒い思いをしているんだ。少しくらい望みを言ってもいいだろう」

「「……」」


 すると、ロイマンとカミルが立ち上がって、優香と恵理子に頭を下げた。


「あの子、エヴァは治癒魔導士になることを望んでいる。それには、お二人に師事すること、それこそ選ぶ道だと思っている。だから、お願いする。あの子を連れて行ってくれないか」

「よろしくお願いします」

「できません」


 優香は即答する。


「なぜ?」

「私達の旅は、私とマオ、この二人のわがまま。私達が人探しをしたい、ただそれだけを目的にしています。そのような私達のわがままにエヴァ様を付き合わせるわけにはいきません」

「他の従者はどうしているんだ」

「私達について来てくれている者、家族ですが、家族はそれに納得してついて来てくれています」

「それならエヴァもついて行っていいのではないか?」

「いえ、エヴァ様の目的は治癒魔導士になること。目的が違います。私達の目的のために、私達の危険な旅に付き合わせることはできません。エヴァ様にはエヴァ様の選ぶ、他の道があるはずです。私達は、移動するたびに人を殺しています。つまり、殺されそうになっています。そんな危険な旅にご息女を出しもいいのですか?」

「それでも、それでもエヴァが望むのなら、行かせてあげたい。それが親としての希望です」


 カミラが答えた。


「あの、一人っ子ですよね」


 そう恵理子が聞くと、ロイマンとカミラは顔を見合わせ、ほほを染め、カミラが自分のおなかをなでた。


「いや。後継ぎはちゃんといる」

「ハァ。あの、さっきも言いましたように、危険な旅なのです。治癒魔導士になりたいうんぬんではなく、私達は毎日、剣術や武術の訓練をしています。いざと言う時に身を守ったり、逃げたりするときに必要だからです。だから、治癒魔導士になりたいというだけでは、旅に不満を持つのではないでしょうか」


 これに答えたのは、ロイマンでもカミラでもなかった。


「私も、私も足手まといになりたくない。私も強くなりたい。だから、剣術も武術も教えてほしい。鍛えてほしい。それには、一緒に頑張ってくれる友達がいてくれた方が……うれしい」


 マティだった。


「マオ、いいじゃないか。もう一度聞いてみよう」

「わかったわ。マティ、友達を迎えに行ってきて」

「はい!」


 マティが部屋を飛び出した。


「ブリジット、ついて行って!」

「承知しました」

「タカヒロ君、マオ君、ありがとう。娘のこと、よろしく頼む」


 ロイマンとカミラが再び頭を下げた。


「領主様、奥様、頭を上げてください。エヴァ様に話を聞いてからです」

「わかっている。それに、タカヒロ君。もしよかったら、そのままエヴァを娶ってくれて構わない」


 ギンッ!


 あちらこちらから殺気が漏れる。


「あらあら」


 カミラはそれを感じたのか、ほほに手を当てる。しかし余裕そうな笑みを浮かべている。


「それでは、私達はお暇する。こんなことを親が頼みに来たなんて、子供に知られたくないんでな」


 そう言って、ロイマンとカミラは部屋を出て行った。




 結論として、エヴァはクサナギに入り、一緒に旅をすることになった。


「えっと、私達二人でしょ、ミリー達十二人、リーシャとブリジット、ネフェリにリピー、マティにアクアにエヴァ。二十一人。ベッド足りないじゃん」

「キザクラ商会へ行って、ベッドを増設してもらいましょう」

「そうね。それしかないよね」


 クサナギ一行は、もうしばらくキリルに滞在することになった。



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