事の顛末と和解~遊びに来たよ(優香と恵理子)
馬車が屋敷へとたどり着く。
優香と恵理子、リーシャとブリジット、ネフェリとリピー、そしてマティとエヴァ、アクアが馬車から降りる。が、リーシャが、
「あんた達も来なさい」
と、商人の二人に声をかける。
「「はい!」」
二人が馬車から飛び降りてきた。
当然のように、庭には騎士達が剣に手をかけて並んでいる。
屋敷の玄関には、エヴァの母親が立っていた。
「お母様!」
エヴァが走って母親にダイブする。
「エヴァ、無事でよかった。本当に無事で」
「お母様、無事だったのもですが、病気も治ったようです」
「え、本当に?」
「はい。体も軽く、咳も出ません」
母親はエヴァのおでこに額をくっつける。
「本当ね。熱もないわ」
「んん」
優香がわざとらしい咳払いをする。
「あなた方は……」
後ろにいる猫耳を見てあからさまに母親が警戒する。
「お母様。病気はこの方達に治してもらいました」
「え?」
「今回の騒動の顛末をお父様にも聞いていただきたいのですが、お父様は?」
「寝込んでいるわ。全身骨折、打撲。動くことが出来ないわ」
「「……」」
優香と恵理子がリーシャを見るが、視線をそらされるだけだ。
「あの、信じていただけないかもしれませんが、お嬢様と同じように治癒魔法をおかけし、その上でお話をさせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか」
恵理子がエヴァの母親に話を聞いてくれるようお願いする。
「お母様、お願いします。この方達を信じて」
「はぁ」
エヴァからのお願いもあり、母親はため息をついて、
「こちらへ」
と、優香たちを屋敷へと導いた。
「夫は、来客室で寝ております。寝室はすでにありませんので」
母親はとげのある言い方をする。しかし、吹き飛ばしたのはこちらだ。
来客室に入ると、全身包帯の領主が寝ていた。
「失礼いたします」
そう言って、優香が領主の手を握る。優香は今、男性設定なので、問題はなかろう。
「ウッ」
触っただけで痛みが走ったのだろうか。
「あの、教会の方々には見てもらったのですか?」
「見てもらいましたが、重症すぎて治癒魔法では治せないと」
「そうでしたか。それでは、治癒魔法をかけますね。メガヒール」
領主の体が光る。
「どうですか?」
優香が領主に声をかける。
領主がきょろきょろと周りを見回したかと思うと、ガバッと、立ち上がった。全身に包帯を巻かれたたままで。そして、
「エヴァ!」
と、エヴァに抱き着こうとする。
「ギャ―」
ミイラ男のような領主に襲われ、エヴァは悲鳴を上げて母親の背に逃げる。
「エヴァ、ひどいじゃないか」
その声は確かに領主の声だ。
「お父様、ごめんなさい。ちょっとびっくりして」
「エヴァ、元気な姿で戻ってきてくれてよかった」
「お父様もご無事で」
「無事じゃなかったけどな」
「あなた、エヴァは病気も治ったみたい」
「なに? やっぱり卵は効いたのか?」
パシン!
エヴァが父親の頭をはたいた。
「効きません。ゴクラクチョウの卵は病気には効かないんです」
エヴァははっきりとした口調でしっかりと伝える。
「そ、そうなのか?」
「あの、申し訳ありません。大丈夫そうでしたら、その件も含めて、情報共有をお願いしたいのですが」
優香の呼びかけに対し、領主は、部屋を見回し、リーシャやブリジットがいることを確認すると、ぎょっとしたが、逆らってもいけないし、体を治してもらった手前、それに同意するしかなかった。
「それでは、会議室で待っていてくれ」
「こちらです」
エヴァが案内してくれるようだった。
会議室で席につく。と言っても座るのは優香と恵理子だけ。その他のメンバーは後ろに控える。マティもアクアも。それに、商人の二人も。
しばらく待っていると、着替え終わった領主とその妻、エヴァの三人が入ってきた。そして、優香達と向かい合って座る。
「私は、この領を治めている辺境伯、ロイマン・キリルだ。それと妻のカミラ、娘のエヴァンジェリンだ。それで、今回の件だが」
優香が、アリーゼ達が商人を助けたところから話をする。
説明が終わったところで、ロイマンが口を開く。
「その二人が、私の依頼を最終的に引き受けてくれたんだな。とりあえず、ありがとう」
商人の二人は頭を下げる。
「それから、私が依頼した商人は賊とつながっており、その賊はすでにいない」
リーシャがうなずいて肯定する。
「ゴクラクチョウを殺してしまったあなた方の仲間が、後ろにいらっしゃる高位精霊様からの呪いから解放されるため、卵の回収が必要だった。エヴァがその一つを食べた後だったから、エヴァを連れて行った。その後、なぜかわからないが、和解し、エヴァの病気も治った。それでいいかな」
「おおむねそのご理解でよろしいかと思います」
「被害は、賊に関してはいい。だが、城門とこの屋敷……」
「お嬢様の病気が治ってよかったですね。教会の司祭にも治せなかったのですよね」
優香がすかさず意見する。
「……はぁ。そうだな。そもそも、私が卵を依頼したのが事の発端だしな。わかった。今回の件、不問とし、感謝する。ありがとう」
ロイマンが頭を下げた。
「それで、今後はどうしたらいい?」
ロイマンが優香に聞く。
「ゴクラクチョウの保護をお願いします。殺したら呪われます。それに卵は病気には効きません。そのあたりを周知してください」
「なるべく広く伝えることを約束する。他には?」
「ないと思います。ということで、私達はこれで」
と言って、優香と恵理子が立ち上がる。
「今回の件、重ね重ね感謝する。この街でゆっくりしていってくれていい。騎士達にも伝えておく」
「ありがとうございます」
優香達は、宿に戻る。
「今日は遅くなっちゃったからみんな寝ようか」
「「「はい」」」
そう、各自部屋へと向かった。
優香と恵理子は同室だが、そこへアクアがついて来た。
「あ、アクアの部屋、用意していなかったね」
「あの、私はお二人のおそばで。実体が煩わしければ、精霊化しておりますが」
「ベッドが二つしかないからさ。今日のところは精霊化でいい?」
「はい」
そう言って、アクアは青い光と化す。
「それじゃ、寝ようか」
そう、言って優香が灯りを消そうとしたとき、
「優香、恵理子、遊びに来たよ」
と、実体化する三人の女性。
 




