いいんだ……(優香と恵理子)
「ネフェリ、リピー、どうやって帰る?」
「リーシャが馬車を引き連れ、こっちに向かっていると思いますが」
「そっか。じゃあ、森を出ようか」
「運びますか?」
「ううん。歩いて行こう」
「わかりました」
ネフェリとリピーが人型になる。
「よし、みんな、森を出るよ」
「「はーい」」
アリーゼとナディアが元気に答える。
皆で森に足を踏み入れると、
「おーい、ちょっと待ってくれよ。いや、待ってください。お願いします。お願いしますから」
商人の少年が大声を上げる。
「ん? ごめん、忘れてた。君ら、どうするの?」
「一緒に連れて帰ってほしいです。この縄をほどいてほしいです」
「あれ、よくよく見るとボロボロだね、君達」
少女の方はすでに覇気もない。
「はい。卵を納品に行ったら、そこにいた賊にぼこぼこにされて。その後さらに、猫耳のえっと、その人達にやられまして」
恵理子がブリジットに視線を向けると、ブリジットはすっと目をそらす。
「それからずっと縄に縛られたまま連れまわされて」
ブリジットが殺気を向ける。
「もちろん、私達が悪いのはわかっています。それに、私達に卵を取ってくるように依頼したのはちゃんとした商人だったんです。持って行ったら賊だったんです。私達、決して盗賊とかじゃありません」
と、商人の少女が弁明する。
「まあ、ディーネ義母様から宿題をもらったわけだし、このままおいておくこともできないよね。ヒール!」
優香は二人の頭に手を添えて治癒魔法を唱えた。
「悪いけど、うちのリーシャが君らをぼこしたことは謝らないよ」
「はい。わかっています」
優香が二人を縛っているロープをナイフで切る。
「じゃ、君らも行こうか」
「ありがとうございます」
森を歩いて、南へと向かう。湖へと急いだ道を逆に通る。
森は生い茂っており、日の光を遮って暗い。はず。なのに。
「アクア」
「はい。何でしょうかタカヒロ様」
「……まず、アクアは高位精霊だよね? 僕に様付けってどうなのさ」
「大精霊ディーネ様のご子息なのです。様付けでいいと思いますが?」
「……それから、このついてくる光達は?」
「中位精霊と低位精霊ですが、なにか」
「ついてくるけど?」
「えへへ。私についてくるみたいですね」
「えっと、いいの?」
「精霊を縛ることはできません」
「うーん。そうしたらさ、人の目に見えないようにってお願いできない?」
「はい。お願いしますね」
アクアがそう言うと、精霊たちの光が突然なくなった。
「あ、森を出るまで道を照らしていてもらえるとありがたいんだけど」
「そうですよね。みんな、お願い」
アクアが精霊にお願いすると、再び光の粒子が舞った。
一番後ろで、商人の二人がアリーゼとナディアに恐る恐る声をかける。
「あの、あの時は、助けてくれてありがとうございました。お礼もちゃんとできず、申し訳ありませんでした。それに、あの鳥を殺しちゃいけないことをちゃんと教えるべきでした」
「ううん。いいの。だってあの時、それを聞く前に私達が魔法を撃っちゃったでしょ。そんな余裕はなかったと思うよ」
「許してくださり、ありがとうございます。それで、一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「あのお二人はどういうお方なのですか? ドラゴン族と一緒にいて、それに、あっちの仮面の人も、僕らをぼこぼこにした猫耳の人も、ものすごい強いですよね。もちろん、お二人の魔法もすごかったです」
「あの二人はプラチナランク冒険者パーティクサナギのリーダー、タカヒロ様とマオ様で、勇者様なのです」
「「勇者?」」
「そうですよ。ドラゴン族を従えし勇者様です。私達は勇者様にお仕えしているのです」
アリーゼは胸を張ってこたえた。
森を出ると、もう夕暮れだった。
「さ、一昨日野営したところへ行って、野営道具とか回収しなきゃ」
優香が歩き出す。すると、遠くから砂煙が上がってくるのが見えた。
「あれ、あのスピード、うちの馬車かな」
そう思って見ていると、そのとおりだった。タロとジロが引いた二台の馬車。それを操縦しているのはミリーとオリティエ。
そして、ヨーゼフとラッシーに乗ってくるリーシャとマティ。
優香と恵理子の下までやってくると、リーシャはヨーゼフから降りて、優香に飛びついた。
「タカヒロ様!」
優香は、リーシャを抱き返し、頭をなでなでする。
「リーシャ、頑張ってくれたんだってね。ありがとう。おかげでみんな無事だよ」
「はいっ。頑張りました。お二人のため頑張りました。タカヒロ様もマオ様もご無事でうれしいです」
リーシャは優香の胸におでこをぐりぐりする。
「ところでリーシャ、何をしたの?」
ビシッ!
リーシャが動きを止める。
優香がブリジットを見ても、アリーゼとナディアを見ても、マティを見ても、皆、一様に目をそらす。
リーシャは優香の胸におでこを固定したまま、
「えっとですね。倉庫を一つ壊しました。城門を燃やしました。賊を拠点ごと崩壊させました。領主の屋敷を吹っ飛ばしました……でも、でもですね。賊の拠点と領主の屋敷はネフェリが……」
「あ?」
ネフェリが殺気立つ。
「いやいや、私がやれって言いましたとも。ああ私のせいですね。そうですね」
「エヴァ、ごめんね、家を吹き飛ばしちゃったみたいで。ご両親に謝っておいてもらうことってできる?」
「無事ならですが」
「リーシャ?」
「だって、だってですよ。卵を持っているのに、隠すんですから。そりゃ、ちょっとはやりすぎたとは思っていますけど」
「はあ。ま、いっか。リーシャ。頑張ってくれてありがとう」
「えへっ」
いいんだ……。エヴァは疑問に思う。
「さ、みんな、馬車に乗って。ただし、エヴァと商人の二人は、中で見たことは他言無用で」
実際には、商人の二人は、馬車を見た段階で固まっている。なんだこのバカでかい馬車は、と。
馬車は、野営の荷物を回収して、キリルの街へと戻った。
すでに夜も更けていて、西の城門はすでに閉められている。東は開きっぱなしだろうが。しかも、当然のことながら騎士や兵士達が出てくる。
「エヴァ、説得を頼めない?」
「はい。わかりました」
エヴァは馬車を下り、騎士達の下へ向かう。
エヴァが騎士達を説得し、しばらくすると、騎士や兵士達が左右に分かれ、道を開けた。
エヴァは馬車に戻って来て乗り込んだ。
「それでは、屋敷までお願いします。父上と母上にも話をしていただきたいですし」
「わかった。ミリー、領主の屋敷に向かって」