ゴクラクチョウの卵は万病に効く薬?(優香と恵理子)
リーシャ達は、再び走って街に戻る。
燃やされて破壊された城門が見えてくる。
同時に、兵士が何十人も立っているのも見えてくる。
「全員、お玉装備! 私達に続け! ネフェリは手加減できないからタロに乗っていて」
リーシャとブリジットが先頭へと飛び出す。それに、ミリー隊、オリティエ隊が続く。
ガキン、ガコン、ドゴッ!
お玉で剣をはじき、反対のお玉をたたきつける。走る勢いは止めない。
リーシャもブリジットも、ミリー隊もオリティエ隊も、兵士と叩きのめしていく。お玉で。
「よし、抜けた! このまま領主の屋敷へ!」
カンカンカンカンカン……
敵襲を知らせる鐘が鳴る。リーシャ達は決して敵ではないが、今は卵を取り返すために、なりふりを構っていられない。立ちふさがる者は排除するだけだ。
リーシャとブリジットは、お玉を使って街中で立ちふさがる兵士を殴り飛ばす。タロとジロは蹴り倒す。走る走る走る……疲れたなんて言っていられない。
そろそろ夜が明けてくる。時間がない。
なるべく早く、できるだけ早く、優香様と恵理子様を助けるんだ!
領主の屋敷に到達すると、門の中には、騎士を先頭に兵士が並んでいる。もちろん、その程度のこと、リーシャもブリジットも気にしない。目的は騎士や兵士を倒すことではない。だが、邪魔をするなら蹴散らすだけだ。
鉄格子でできた門を、タロとジロと共に蹴り飛ばし、庭へと侵入する。
「貴様ら、何者だ!」
騎士が叫ぶが構っていられない。
「領主を探せ!」
リーシャが命じると、ミリー隊、オリティエ隊が左右に走っていく。正面はリーシャとブリジットとネフェリ、そして、シンベロスとケルベロスが突入する。
「何者だと聞いているだろう!」
騎士が剣を抜き、かまえ、そして切りかかってくる。
それをリーシャがするりとよけると、
バコン!
ブリジットが騎士の顔面にお玉を叩き込む。
「グハッ!」
騎士が倒れ込む。
正面をふさぐ騎士、兵士をいとも簡単に蹴散らして、リーシャ達は、屋敷に正面から突入した。
「領主はどこにいる!」
そう言われて出てくる領主もそうはいない。
玄関を入って、正面にある階段を上り、二階へと移動する。そこへ、領主が剣を携えて出てくる。
「お前が領主か?」
寝間着姿ではあるが、その風貌、寝間着の質でそうではないかと想像してリーシャが聞く。
「そうだが、お前達の要件はなんだ」
領主は剣を抜き、かまえたまま、問いかけてくる。
「お前、賊から卵を二個受け取ったな?」
「賊? 卵? 何のことだ?」
それを聞いたリーシャが瞬間的に領主の懐にもぐりこみ、お玉を下から顎にヒットさせ、振りきる。
バコン!
「グハッ!」
領主は、後ろへとよろける。
「もう一度聞く、卵はどこだ!」
「知らんと言っておるだろう!」
領主が剣でリーシャに切りかかる。
それをするりとよけて、領主の腹にお玉を撃ちこむ。
「ウッ!」
「卵はどこだ?」
領主はよろよろとよろめくが、返事をしない。
ドゴッ!
リーシャが我慢できなくなり、領主の頭に上段蹴りを叩き込んだ。
領主は吹き飛んで壁にぶち当たる。
「グエッ!」
領主は倒れ込む。
リーシャは、領主の髪をつかみ、立ち上がらせる。
「賊がな、お前に渡したと言っているんだ。答えろ! 卵はどこだ!」
「う、うう」
領主は答える様子がない。
「答えろ!」
ドゴッ!
リーシャは領主の頭を壁にたたきつける。
それでも領主は答えない。
すると、
「やめてください!」
少女の声が聞こえた。
リーシャが振り返ると、そこには、寝間着姿の少女とその母親らしき女性が立っていた。
「お前が答えるのか? 卵はどこだ?」
「や、やめろ。答えるな」
領主が少女に言う。知っていると白状したようなものだ。
「グハッ」
リーシャは少女に見えるように、領主の腹にこぶしを叩き込む。
「やめてください。答えます。答えますから」
「今すぐ答えろ」
「はい。一つはキッチンにあると思います。もう一つは……」
「ブリジット、キッチンへ!」
リーシャが卵を確保するように頼むと、ブリジットは走り出す。
「もう一つはどこだ?」
リーシャが領主を放り出し、少女に近づく。すると、母親が少女の前に立ちはだかる。
リーシャは躊躇することなく、母親のほほを張り倒す。
「どこだと聞いたんだ。答えろ!」
「ごめんなさい。食べてしまいました。私が、私が食べてしまいました」
少女は涙を流しながら答える。
「な、食べた?」
リーシャが驚愕の顔を浮かべて固まる。
「そうだ。娘が食べた」
領主が弱弱しく答える。
「どういうことだ?」
「ゴクラクチョウは死者の魂を黄泉へと連れて行く。そして、魂を輪廻の輪に乗せて生まれ変わらせる、つまり、命をつむぐと言われている。だから同時に、ゴクラクチョウの卵は、あらゆる病に効くと言われているんだ。だから娘に食わせた」
「お父様! ゲホゲホゲホ!」
「一つでは治らんのか。ならば、もう一つを奪われるわけにはいかん」
領主は再び立ち上がる。そして剣をかまえ、リーシャに剣を叩き込んだ。
しかし、その刃がリーシャに届くことはない。リーシャはその刃を左手でつかんで受けた。
そこへ、ブリジットが戻ってくる。
「一つ確保した」
「ネフェリ!」
ドゴーン!
リーシャの合図でネフェリが屋敷の屋根を吹き飛ばすと同時に、ドラゴン形態となる。
空はもう明るくなりつつある。
「ナディア! ナディアはいるか?」
「はい!」
「この卵一つをもって、勇者様の下へ。それからブリジット、この娘も連れてって。卵はこいつが食った。それを話してもらう。あと、あの商人の男女もできたらロープでつるして連れて行け。娘と一緒に身代わりにする」
「わかった」
ブリジットは、右手で少女を抱えると、左手でネフェリの足につかまった。
「先に行く!」
ブリジットとナディアは、ネフェリと一緒に空へと飛びあがった。
「エヴァ!」
領主が叫び声を上げる。
だが、ネフェリはすでに飛び立った後だ。
「ミリー、オリティエ! 私達も行くよ。馬車の準備を!」
「「はい」」
ミリー隊とオリティエ隊が屋敷から出ていく。そして、タロとジロを連れて、宿へと向かう。
リーシャも、つかんでいた剣を離し、そして、ミリー達の後を追った。
太陽が昇り少し経ったころ、森の湖の上空にリピーが現れる。
リピーは、優香と恵理子の姿を確認すると、高度を下げ、そして、湖の畔の砂浜に降り立った。
「アリーゼ、早かったね」
「優香様、恵理子様。申し訳ありません。六個しか見つけられていません。残りの二つは、リーシャ様達が探しておられます」
「そうか。アリーゼ、ありがとう。私達も一晩経って魔力も回復しているから、二発なら耐えられるよ」
そう優香は笑う。しかし、痛いものは痛い。受けないにこしたことはない。




