卵の行方(優香と恵理子)
日が沈み、夜も更けたころ、ラッシーが戻ってきた。
「わふ!」
「よし、皆、出撃する。ラッシーに続け!」
ラッシーが走ると、その後ろをタロとジロが走る。
夜中とはいえ、タロとジロをはじめ、クサナギのパーティメンバー全員が疾走する。メイド服に団服を着用して。そして、街のほぼ真逆、北東の倉庫群へと近づく。
ラッシーはスピードを保ったまま倉庫群も走り抜け、その隅にある一つの倉庫の前、ヨーゼフが待っているその場所まで走った。
「ヨーゼフ、ラッシー、お疲れ様。ここにいるのか?」
「「わふ」」
「よし。よくやった。ありがとう。休んでくれ」
ブリジットは、ヨーゼフとラッシーにそう声をかけると、倉庫の扉の前に立ち、ミリー達に合図をした。ミリー達は、その倉庫の周りを囲む。
そして、ブリジットが、倉庫の両開きの大きなドアの前に立ち、そのドアを思い切り蹴とばした。
バァーン!
ドアが倉庫の中へと吹き飛ぶ。その音を合図にして、倉庫の全方位から、窓を突き破ってミリー達が飛び込む。
正面からは、ブリジットの脇をすり抜け、リーシャが飛び込む。
リーシャ、そしてミリー達が取り囲んだのは、倒れた少年と少女だった。
二人とも、ひどく汚れている。しかも、暴力を振るわれた跡がある。
しかし、そんなことを気にしている暇はない。
リーシャは、少年の襟首をつかんで持ち上げ、そして、思い切り顔をぶん殴った。
ドォン!
少年は、吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
「リーシャ、そんな風に殴ったら、気を失うだけで気が付かんだろう」
ブリジットがリーシャをなだめる。
「ちょっと感情がこもっちゃった。えへ」
とは言っても、リーシャは笑っていない。
「ミリー、その女を連れて来て」
ミリーとリシェルが少女の両脇を抱えて立たせ、そして、引きずってきた。
リーシャは容赦なく、
「ウォーターボール」
と、少女の顔に水をぶつけた。
「ウッ」
少女が目を覚ます。そして、少女は事態を把握する。自分は両腕を抱えられ、立たされている。そして、水をかけられた。おそらく、暴力の続きだ。だが、暴力をふるおうとしている者達の姿が違う。顔は仮面で隠れていてわからない。
「ねえあんた。あんたら、卵を北西の森から奪ってきたよね。それ、返してもらおうか」
リーシャがすごむ。
「え、あの、その」
バシン!
少女が言いよどんでいるのを待てないかのように、リーシャが平手で少女のほほを打つ。
「さっさと返しなさい」
「あの」
バシン!
リーシャが再び平手で打つ。
「早く返せって言ってるんだ!」
「もっていかれました!」
ドスッ!
「グハッ!」
リーシャが今度は腹にこぶしを撃ちこむ。
「どこへだ」
「わかりません!」
少女は声を上げる。
ドゴッ!
「ゲフッ!」
リーシャが少女の腹に蹴りを入れた。
「ヨーゼフ、ここにいた者達のにおいを追えるか?」
「わふ!」
「ミリー、そいつらを縛ってジロの上にのせて連れてこい。逃げられても面倒だ」
「はっ!」
ミリーは、気を失った少年と少女を縛り上げ、ジロに乗せた。
ヨーゼフとラッシーは再び走りだす。
今度は、東の城門へと向かう。しかし、夜も更けているため城門は閉められている。
「ファイアランス!」
そんなことは構っていられないと、リーシャがファイアランスを撃ちこみ、城門を破壊してしまう。
「お、お前ら、止まれ!」
門兵が出てきても無視である。火が燃えさかる城門にそのまま突っ込み、クサナギのメンバーは、街の外へと出て行った。
ヨーゼフは東へと走り、しばらく走ったところに現れた森へと突入した。そこには、馬車が通れるほどの道があった。おかげで、タロもジロも走れる。
森の中を進むと、古ぼけた屋敷があった。ところどころ窓は割れ、壁は剥がれ落ち、とても人が住めるとは思えないような屋敷だ。
ヨーゼフはその屋敷の前で止まる。
「ヨーゼフ、ラッシー、ご苦労。後はこっちでやるから、そこで休んでいて」
「「わふ」」
リーシャがヨーゼフとラッシーをねぎらうと、二頭はお座りをする。
「さて、行くよ」
リーシャが後ろを振り向かずに声をかけ、屋敷へと前進する。そして、門を過ぎると、ダッシュして、屋敷に飛び込んだ。ドアは閉まっていたが、蹴り破って。
それに、ブリジットが続く。ネフェリとリピーも続く。
ミリー隊とオリティエ隊は、左右に分かれて壊れた窓から突入している。
「ミリー、オリティエ! 敵は気絶させて中庭へ。殺しちゃったら仕方ない。それでも中庭へ!」
「「はい」」
ミリー隊とオリティエ隊は、屋敷の左右に分かれて、部屋を開けていく。
賊らしき男達がいた場合は、捕まえ、こぶしも蹴りも何発も叩き込み、中庭へ捨てていった。その数、十数人。
リーシャ達は、中庭を抜け、奥の建屋に突入する。ようやく、本命っぽい声を聞くことが出来た。
「誰だ!」
少し裕福そうな服を着た男がすごんで叫ぶ。
「誰でもいいだろう。お前達は今日ここで死ぬ。その前に、卵を返してもらおう」
リーシャが卵を要求する。
「卵? 何のことだ?」
と、男がふざけた瞬間、リーシャの上段蹴りが男のこめかみに突き刺さった。男は吹っ飛ばされて動かなくなる。
「さて、次はどいつだ? それとも、卵を返すか?」
部屋にいた男達が一斉に剣を抜き、剣の先を向けてくる。
「もういい。探させてもらう。ネフェリ、お願い!」
バシュッ!
ドゴーン!
ネフェリが男達ごと、ブレスで屋敷の壁も屋根すらも吹き飛ばした。
「さてと」
と、リーシャは、始めに蹴り飛ばした男を拾ってくる。
「さあ、起きてもらおうか。ウォーターボール」
バシャッ!
「う、うう」
男が目を覚ます。そして、周りを見渡して固まる。
「あの、これは?」
「そんなことはどうでもいい。ゴクラクチョウの卵を出せ」
「ひっ、あの、あそこの箱の中に!」
男は、震えながら答える。
リーシャが、男から目を離さず、顎で指示をする。すると、オリティエ達がその方向へと走り出した。
「卵がありました。しかし、六つしかありません」
リーシャは男をにらみつけ、そして、
バシン!
男のほほを平手で殴った。
「二つ足りんぞ? 死ぬか?」
「は、はいっ! 二つは、この街の領主に渡しました!」
「そうか。じゃあ死ね!」
ドスッ!
リーシャは、男の腹にこぶしを叩き込んだ。
「リピー、六つの卵をもって先に届けて。アリーゼ、案内をよろしく」
「「はっ!」」
アリーゼは卵をかごに入れて持ち、ドラゴン形態に戻ったリピーの足につかまる。
そして、リピーは飛び立った。
「私らは、領主の屋敷に向かう!」
「「「はい」」」
リーシャ達は古ぼけた屋敷を出る。
「ネフェリ、やっちゃって」
「はい」
ネフェリはドラゴン形態になると上空へと浮かび上がり、そして、
バシュッ!
ドゴーン
ブレスで屋敷を賊ごと吹き飛ばした。




