奪還作戦!(優香と恵理子)
「私達はどうしたらいいの?」
優香が精霊に聞く。
「好きにしておれ。逃げられはしない。なぜなら、あの二人に精霊をつけた。逃げた瞬間、あの二人は死ぬ」
「わかったわ。ここでのんびりしていればいいのね」
「そういうことだ。じゃあな、明日までそこにいろ」
精霊は、湖へと帰って行こうとする。しかし、優香が声をかける。
「あの、精霊さま」
「なんじゃ?」
「ディーネという名の精霊をご存じです? 水の高位精霊、いや、大精霊様ですが」
動揺する精霊。
「だ、大精霊様だと? 知らん」
精霊がそう返事をする。
そうか。ディーネ義母様はかなり高位。大精霊というくらいだ。それを知らないということは、精霊ネットワークがあまり広くないか、義母様達がこの世界にいないか。
「そうでしたか、申し訳ありませんでした」
「ディーネというのはどういう精霊なのだ?」
「私達の母様です。義理のですが」
「そ、そうか。まあ、知らん」
といって、精霊は、そそくさと湖の中へ帰って行った。
「優香、こんな時に何を聞いているの?」
「義母様達がどこにいるのかな、と思ってね。あれだけの精霊様が精霊界で知られていないってことは、この世界にはいないんじゃないかって」
「どういうこと?」
「私達、どこから来た?」
「地球だけど」
「そう。で、この世界と地球のあった世界は多分異なる世界。同じように、義母様達、おそらくパパも、違う世界にいる」
「それって、いくつも世界があるってこと?」
「多分ね」
「で、それが何なの?」
「地球に帰れるかも、ってこと。違う世界が存在するってことなら、そこに地球があるかもってこと」
「帰るの?」
「え?」
「帰ったとしても、あの世界、地球、私達の体はもうないし、この世界であっても、どこであっても、私はあの子達と一緒にいられるなら楽しいと思うわ」
優香はそれを聞いてなるほど、と思う。
「確かに、そうかも。私達にも家族が出来たし。みんなで仲良くこの世界で暮らすのも楽しいのかもね」
「うん。ただし、この状況が解決したらだけど……」
「そっか。私達、人質だった」
ヨーゼフとラッシーは来た道を逆に、キリルの街に向け駆けていく。野営した場に置いた荷物はそのままに。
「ヨーゼフ、ラッシー、お願い。頑張って」
「「わふ」」
そして、その日の夕刻には街に戻る。
「ヨーゼフ、よく頑張ってくれたね」
「ありがとう、ラッシー」
「「わふ」」
「あとちょっと、みんなのところまでお願い」
「「わふ」」
もうひと頑張りとばかりに、ヨーゼフもラッシーも走った。
「アリーゼ! メリッサ!」
宿で、帰ってきた二人を見つけたミリーが声をかけてくる。
「勇者様は?」
「あの、リーシャ様とブリジット様方は?」
逆にアリーゼが聞く。
「部屋にいらっしゃるわ。急ぐ?」
「「はい」」
ミリーは、アリーゼとメリッサを連れて、宿の階段を駆け上がる。クサナギが確保した部屋は最上階だ。
ここまで、ヨーゼフとラッシーに走ってもらった。自分達は階段を駆け上がるくらいの体力が戻っている。血は減っているかもしれないが、そんなことは言っていられない。アリーゼとメリッサは、階段を駆け上がる。そして、
「リーシャ様、ブリジット様!」
ミリーが、部屋のドアをノックもせずに開ける。
「なんなの、慌てて」
リーシャが声をかける。
「勇者様方が帰ってきません。しかし、アリーゼとメリッサが」
「え? 優香様と恵理子様が?」
リーシャが顔をしかめる。そして、少し怒気を含ませた声で問いかける。
「アリーゼ、メリッサ、話しなさい」
「「は、はい!」」
「お二人は、私達を助けるために……」
思い出して涙が出そうになるが、堪える。
「北西の森の中にある湖に、人質として残られました」
「何でそんなことに」
「はい、お話しします」
アリーゼとメリッサは、少しずつ交代しながらあったことを話した。
「それじゃ、その卵を回収して、明日の夕刻までその湖に行かなきゃいけないってことね」
リーシャが怒っている。誰の目にも明らかだ。
「リーシャ、怒るな。勇者様だって、アリーゼとメリッサを人質に取られているようなものなんだろうさ。だから、我々がやることは一つ。卵を回収して、届けることだ」
ブリジットは、アリーゼとメリッサに問いかける。
「お前達は、ゴクラクチョウを倒した時、その商人がその近くにいたな?」
「はい。その馬車と並走しました」
「ということは、ヨーゼフとラッシーは、その匂いを覚えているな?」
「わかりません」
ブリジットは、窓に近づき、
「ヨーゼフ、ラッシー、来い!」
と、叫んだ。
ヨーゼフとラッシーは宿に駆け込み、階段を駆け上がる。
そして、部屋までたとりつく。
「ヨーゼフ、ラッシー、お前達、あの商人のにおいを覚えているか?」
「「わふ!」」
「そしたら、捜して来い。連れてこなくていい。教えに戻って来い。その後は、私達の仕事だ」
「「わふ!」」
ヨーゼフとラッシーは窓から飛び降りた。
ここは最上階だって、と、リーシャは思ったが、止められなかった。おかげで少し冷静になれた。
「アリーゼ、メリッサ、ご苦労だった。あとは休んでいい」
「そんな? お手伝いをします」
「そうです。私達が早く帰らないとあのお二方が!」
「焦っても仕方ない。少なくとも、ヨーゼフ達が帰って来るまでは休め。でないと、強制的に休ませるぞ?」
と、ブリジットは右手を手刀の形にして、二人を脅した。
「「は、はい」」
「それでは休ませていただきます。しかし、商人が見つかった際には、同行させてください」
「わかった。それまで寝ていろ」
「「ありがとうございます」」
アリーゼ達は、自分の部屋へと戻って行った。
「リーシャ」
ブリジットが声をかける。
「わかっているって。とりあえず、タロとジロをいつでも出せるようにしておくから」
「武器は?」
「乙女のたしなみよ。ちゃんとスカートに入ってまいすよ。いつでも」
と、リーシャは手をひらひらさせて出て行った。
「私達は何をしたらいい?」
ネフェリがブリジットに声をかける。
「ネフェリもリピーもヨーゼフ達が戻って来るまで休んでいていい。ただ、卵を見つけたら、頼む。一刻も早く持って行ってほしい。ネフェリ達なら、飛んでいけるだろう」
「わかった」
「私は?」
マティがそっと言う。
「マティは、ここで待っていてほしい」
「……私だって、役に立ちたいのに」
ブリジットは、マティのつぶやきを聞かなかったことにする。実際、このメンバーでは、マティは足手まといになりかねない。
「ミリー、オリティエ!」
「「はい!」」
ミリーとオリティエが部屋に入って来る。
「両隊は出撃準備。いい? 完全武装で」
「「はっ! 承知しました」」
と、ミリーとオリティエは仮面を顔につけて下がっていった。




