謝罪(優香と恵理子)
「うわっ!」
「ぎゃあ!」
「アリーゼ!」
「メリッサ!」
優香と恵理子は再びアリーゼとメリッサからアイスランスを抜き、そして、治癒魔法をかける。
「「メガヒール!」」
「「ハアハアハア」」
「「ハアハアハア」」
朝から、全力のメガヒールを二連続である。アリーゼとナディアが小さいとはいえ、傷が胸に限定されているとはいえ、魔力をかなり消費する。
アリーゼとメリッサは、この二回のアイスランスで、かなりの血を失っている。
「恵理子、まずいわ。このまま何回もやられると、たとえ体の小さいアリーゼとメリッサだとしても、私の魔力がなくなる」
「私も危ない。どうしようか」
「急ぐしかないんじゃないかしら。これ、逃げられなさそう」
「そうよね。森の湖に行きましょうか」
「ヨーゼフ、ラッシー、お願い」
「「わふ」」
ヨーゼフとラッシーはかがんで四人を乗せる。
優香がアリーゼを、恵理子がメリッサを抱える。
「荷物はいいから。急いで!」
「「わふ!」」
ヨーゼフとラッシーは森に突入し、木々の間を駆ける。ひたすら北へ、ひたすら前へ。
走る走る走る。ヨーゼフとラッシーは全力で前へ。
「ヨーゼフ、頑張って」
「ラッシーも頑張って」
優香と恵理子の二人は、それぞれヨーゼフとラッシーに声をかける。しかし、
ザシュ! ザシュ!
三発目。
アリーゼとメリッサはもう声も出ない。
「「メガヒール!」」
三回目の最上級治癒魔法。魔力がなくなることなんて、気にしてはいけない。優香も恵理子も魔力がなくなりかけて気を失いそうになる。だが、ダメだ。歯を食いしばる。
しかし、無いものは無い。
「優香。ごめん、もうメガヒールは無理かも」
「私も同じ。メガヒールをかけるほどの魔力は残ってないわ」
優香と恵理子は、アリーゼとメリッサに覆いかぶさるようにして、ヨーゼフとラッシーに背に体を預ける。
そのヨーゼフとラッシーは、ひたすら走る。
「お願い、ヨーゼフ。急いで!」
「わふ!」
返事をするヨーゼフとラッシー。だが、ヨーゼフとラッシーはすでに全力で走っている。
つまり、スピードをこれ以上速めることなんて出来ない。
それでも、ヨーゼフとラッシーは頭を下げ、足を踏みしめて走る
少しでも速く、気持ちだけでも速く。
優香と恵理子はヨーゼフとラッシーの背に体を預けてアリーゼとメリッサを守っている。前を見ていない。見えていない。
そのため、気づかなかった。
ヨーゼフとラッシーが息を切らし、そして、
ザザザー
と、足を滑らせ、倒れこんだ。それと同時に、優香達も投げ出される。
ヨーゼフとラッシーは、息を切らしたまま起き上がることが出来ない。
アリーゼとメリッサも同じだ。目をつむったまま、何とか呼吸をしている。
優香が転がったまま周りに視線を向ける。
恵理子も倒れたままだが、そういう状況もおいておいて前を向く。
そこには、湖があった。
ヨーゼフもラッシーも、アリーゼもメリッサも、そして、優香と恵理子も、湖のほとりの砂浜に投げ出されていた。
「うう」
なんとか、優香が立ち上がる。
恵理子もそれに続く。
二人が周りを見回して、それに気づく。
大量の目に囲まれている。
日中にもかかわらず、光る眼。それが木の上に並んでいる。
優香が声を張り上げる。
「ごめんなさい。この子達があなた達の仲間を殺してしまった。そのことについては謝罪します。この通りです」
そう言って優香が頭を下げる。
「お願いします。どうか許してください」
恵理子も頭を下げる。
だが、優香と恵理子を囲む目は何も、鳴き声も羽ばたき音も発しない。
優香も恵理子も頭を下げ続ける。
何分か何十分か、ただ、頭を下げる。
すると、背後、湖の方から声が聞こえてきた。
「おぬしらが、我が眷属の卵を奪い、挙句に殺した者達か?」
ハッ! と、優香と恵理子が振り向くと、湖の上に人が立っていた。
女性だ。
青い髪、水色のワンピース。白い肌。
思わず、ディーネ義母様? と、声が出かかるが、声が違う。姿も違う。姿はどちらかというとドライア義母様に似ている。
「はい。卵を盗んだのはわかりません。私どもは、あなた様の眷属と言われるこのゴクラクチョウに襲われている商人を助けるため、ゴクラクチョウを殺してしまいました。その商人が何を持っていたかはわかりません」
「そうか、だが、眷属を殺したことには違いあるまい。おぬしらが殺した眷属は十四。あと八発、受けてもらうぞ」
「お待ちください!」
優香が声を張る。
「勝手な申し出で申し訳ありません。貴方様の眷属の命を奪っておいて本当に身勝手なお願いではございますが、どうか、助けていただきたい」
「本当に勝手だな。だが、チャンスをやろう。ここから奪われた卵は八個。お前達に撃ちこむべき魔法は八発。取り返した卵の数だけ免除してやる。それでどうだ?」
「は、ありがとうございます。それで、卵を取り返してこればよろしいのでしょうか」
「そう言っておる。明日の日暮れまでに卵を取り返して来い。ただし、ここに人質を残せ。帰って来なくても、八発の魔法を撃ちこんでやる」
「はい。ありがとうございます。必ず、必ず取り返して見せます。私の家族達が」
優香が言う。
「「え?」」
アリーゼとメリッサが倒れたまま、声を何とか発する。
「その通りです。私の家族が取り返してきます」
恵理子も優香に同調する。
「「え?」」
「アリーゼ、メリッサ、皆に伝えてほしい。あの商人を探し出し、卵を取り返すようにと」
「明日の日暮れまで、ここで待っているわね」
優香と恵理子が二人に言う。
「優香様! 恵理子様! 人質には私達が!」
「ううん。二人を、みんなを信じているから。ヨーゼフもラッシーもいい?」
「「わふ!」」
「アリーゼ、メリッサ、二人の方が軽いから、ヨーゼフ達の走るのも速いわ。お願い。行ってきて」
「そうよ。二人ならあっという間に街に帰れるわ。私達だと、行くのも戻るのも一日かかるの。お願いね」
「「優香様、恵理子様……」」
「いいから、早く行きなさい」
「私達は、私達なら大丈夫だから、お願いね」
アリーゼとメリッサは、目元をぬぐう。
泣いてなんかいない。泣いちゃいけない。
私達は、勇者様に頼られた。身を挺して私達をかばってくれた優香様に、恵理子様に。大好きな優香様に、恵理子様に。
絶対に目的を達成して見せる。卵を取り返して見せる。
「アリーゼ!」
「メリッサ!」
「「行くよ!」」
アリーゼとメリッサは、震える足に力を入れて立ち上がり、ヨーゼフとラッシーにまたがる。
「ヨーゼフ、お願い」
「ラッシーもお願い」
「「勇者様のために!」」
「「わふ!」」
ヨーゼフとラッシーは、ここまでかなりの体力を消耗しているはずだが、二人を背に乗せ、走り出した。そして、街へ帰るため、再び森へと突入した。




