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空飛ぶ魔物を倒してみた(優香と恵理子)

 馬車は何もない中、何日かを東へ進む。

 馬車の外では、ヨーゼフとラッシーがヴェルダとメリッサを乗せて走り回っている。


「ヴェルダ、メリッサ、どうせなら、前の方を警戒しながら走って」

「「はーい」」

「行くよ、ヨーゼフ」

「ラッシーも行くよ」

「「わふ」」


 二匹のケルベロスは、ヴェルダとメリッサをそれぞれ乗せて街道の先へと走って行った。

 北国とはいえ、夏が近い。あたたかな南風に吹かれながら、馬車は進む。




 しばらくすると、ヴェルダが戻ってきた。


「あれ、メリッサは?」


 優香の疑問にヴェルダがヨーゼフに乗ったまま報告する。


「あの、報告です。この先で、商業馬車が魔物に襲われています。魔物、やっていいですか?」

「えっと、今すぐ行って助けてきなさい」

「魔法少女隊を連れて行っても?」

「名前が変わっちゃっているじゃん。魔導士隊ってどこいったの? っていうか、いいから乗れるだけ乗せて行ってきなさい」

「はーい。アリーゼ、ナディア乗って」

「はーい、行ってきます」


 ヨーゼフは三人を乗せて走って行った。


「私達も行かなくていいの?」


 恵理子が心配そうに優香に聞く。


「うん。ヴェルダが余裕そうだったし、任せてもいいかなって」

「そうよね。あの子達もしっかりしているものね」


 十三歳だったアリーゼ達も今は十四歳。来年には成人する。


「あの、保護者みたいな発言をしていらっしゃいますが、優香様も恵理子様も十七歳。そんなに変わらないのですよ」


 と、ミリーが言ってくる。

 年齢の話にはリーシャもブリジットも近づいてこない。

 そうだったそうだったと、二人は顔を見合わせて笑った。




 ヨーゼフに乗ったヴェルダとアリーゼとナディアは、空飛ぶ魔物に襲われている馬車を遠巻きに見ていたメリッサに追いついた。


「どんな感じ?」

「相変わらず、女の子が馬車を操縦して、男の子が馬車の上で剣をふりまわして荷を守っている」


 魔物は猛禽類のようなくちばしと、鋭い爪を持つ、オウムのような形態をしている。それが十羽以上。


「どうしようか。優香様には助けてもいいって言われているけど、もしかしたら、獲物の横取りって言われるかもしれないしね」

「聞いてみる?」

「うん。それがいいと思う」


 メリッサは、ラッシーに乗って馬車を追いかける。そして、横に並ぶ。


「おーい」


 馬車を操縦する少女は、ケルベロスを見てぎょっとするが、それに乗っている女の子を見て、危険がないと判断する。というより、そうせざるを得ない。そうでなければ、空と地上の両方から襲われてしまうことになる。


「えっと、何の御用でしょうか?」

「あれ、案外余裕なんだね。帰っていいかな?」

「あの、ご用件は?」

「いや、荷馬車の男の子、魔物の相手が大変そうだなって。もしよかったら、少し引き受けようかなって。だけど、勝手にやると、横取りとか言ってこっちが叱られるでしょ? だから聞いてみたの」


 すると、それを聞いていた少年が叫ぶ。


「少しでもたくさんでもいい。何とかできるならしてくれ」

「全部はダメなのね。わかったわ。ちょっと仲間を連れてくるから」


 メリッサは馬車から離れる。




「少しなら倒していいみたいよ」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ、行く?」


 ヴェルダはアリーゼとナディアに声をかける。


「うん。空を飛んでいるなら、魔法の方がいいもんね」

「それじゃ、少しだけかな、やりますか」


 アリーゼとナディアが少しだけ意気込む。

 



 ヨーゼフとラッシーが再び馬車を追いかける。


「おーい。じゃあ、ちょっとだけ倒すね」


 メリッサが御者台の少女にそう言い、アリーゼとナディアにも魔法による攻撃を指示する。


「アリーゼ、ナディア、詠唱よろしく」

「「え?」」


 アリーゼとナディアが動きを止める。


「手の内を知らない人に見せちゃダメでしょ」


 ヴェルダがこそこそと耳打ちする。


「だって、詠唱、忘れちゃったもん」

「おーい、やるなら早くやってくれよ」


 荷馬車の少年がアリーゼ達にせかす。


「もういいわよ。適当にやんなさい」

「はーい」


 ヴェルダがあきらめ、アリーゼが適当な詠唱をする。


「水の精霊よ、えっと、水を顕現させ、うーんと、熱を奪い氷となし、……なんだっけ、もういいか、敵を打て! アイスバレット!」


 バシュ!


 アイスバレットが魔物を貫く。

 同様にナディアも一羽の魔物を撃ち落とす。


「おーい。まだ減らすかい?」


 メリッサが聞く。


「たくさんでもいいって言ったろ?」

「わかったよ。じゃあ、アリーゼとナディア、やっちゃって」

「「……」」


 バシュ! バシュ! バシュ!……


 詠唱がめんどくさくなったアリーゼとナディアは、さすがに同時はまずいと思ったのか、それでも連続でアイスバレットを魔物に撃ちこみ、次々に撃ち落としていく。


「アリーゼ、ナディア、ストーップ!」


 ヴェルダが二人を止める。


「最後の一羽くらい、残しておかないと、叱られちゃうよ」

「そうね。それは困るね」


 と、最後の魔物を撃ち残しておく。


「くっ! 空からの攻撃、なんて厄介な!」


 少年は、魔物の攻撃を何とか剣で防ぐ。

 メリッサは、少女に声をかける。


「ねえ、あの撃ち落とした魔物、どうする?」

「えっと、あれは、皆さんが撃ち落としたので、あの、皆さんで持って行っていただいても」

「そうなんだ。ところで、このまま走り続けるつもり?」

「はい。魔物が追って来ていますから」

「一羽ね」


 少女は、一羽の魔物に苦戦している少年を見る。やはり、馬車を止めるわけにはいかない。


「それじゃ、私達、行っていいかしら」


 と、ヴェルダとメリッサがヨーゼフとラッシーを馬車から離れさせる。

 それを見た少年。


「おいちょっと、待てよ、待ってくれよ……って、待ってくださいって、この最後のも何とかしてー」


 ヴェルダとメリッサは、ま、何とかなるかな、と、来た道を戻ることにした。




 ヴェルダ達は、倒した魔物をどうしようかと相談する。


「この魔物、捨てておくわけにはいかないわよね」

「そうよね。どうする?」

「燃やしてしまいたいところだけど、一応、優香様達に確認してもらってからかな」

「じゃあ、集めておきましょうか」

「ヨーゼフ、ラッシー、協力してね」

「「わふ」」


 ヴェルダ達をおろしたヨーゼフとラッシーは、魔物を集めるために走って行った。

 ケルベロスは頭が三つあるので、一度に三羽を咥えることができる。おかげで、簡単に魔物を集めることが出来た。


「思ったより大きいね」

「羽を広げたら二メートルくらいかしら」

「それにしてもきれいな羽ね」

「下から見ていたらよくわからなかったけど、表はカラフルなのね」


 などと雑談をしながら待っていると、優香達の馬車が追い付いてきた。



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