私達は家族なんですから(優香と恵理子)
「優香様、恵理子様! マティを」
ブリジットがマティを抱えてやってくる。
「ここではなんだから、馬車でやろうか」
「はい」
ブリジットは、優香達を待てないように、マティを抱きかかえたまま馬車へと走って行った。
優香達が泊まっていた部屋は、悪魔のせいで窓も部屋も破壊されてしまっている。
「メガヒール」
優香がマティに治癒魔法をかける。
すると、マティの呼吸が落ち着く。
「血の量はそうそう回復しないから、とりあえず、そのまま寝かせておいてあげて」
宿泊部屋が破壊されてしまったので、全員が馬車で寝ることになった。
翌朝
「ネフェリ、リピー、昨日はありがとう。ドラゴン族のみんなにもお礼を伝えておいて」
「役に立ったなら幸いだ。しかし、約束をした子爵が死んでしまったぞ?」
「って言うか、それも聞きたいんだけど。何で、心臓が二つあるってわかった?」
「音だ」
ネフェリが答える。
「え? 心音ってこと?」
「ああ。集中すると、聞こえてくる。特にあの悪魔の心臓は大きくてな。音が二重に聞こえてきたから二つだとわかったんだ」
「なるほどね。悪魔対策には使えるスキルだね」
「ところで」
恵理子が割って入る。
「ねえネフェリ、子爵って、悪魔だったの? それとも、悪魔になったの?」
「それはわからない。だが、どちらの可能性もあると思う」
「ふーん」
「この世界に悪魔っているの?」
「いる。というか、いただろう」
「人が悪魔になったのかもしれないでしょ? そうじゃなくて、悪魔として暮らしている悪魔よ」
「聞いたことがないな」
リピーも首をかしげる。
「兄さまも言っていたじゃない。魔族は悪魔の系譜だと。だから、絶滅していなければ、いてもおかしくないわ」
リーシャも追加で意見を言う。
「わからないってことね」
「おーい、勇者様―」
馬車の外から声が聞こえてくる。
「ミリー」
ミリーが馬車から出て、確認をして戻ってくる。
「はい、ウォルフ様のようです」
優香と恵理子は馬車を出る。
「ウォルフさん、どうしたんですか?」
恵理子が声をかける。
外には、フードをかぶって頭を隠したウォルフが立っていた。
「一応、お礼をと思ってな。ありがとよ。猫人族三人を助けてくれて」
「亡くなられた一人は残念だったわ」
「まあ、仕方ないさ。俺達だって、元気に働いているんだと思い込んでいたわけだしな」
「三人は元気なの?」
「ああ、一人はもともと昨日捕まったばっかりだったし、残りの二人も、食事を取ってゆっくり寝たら、なんとかな。あ、一人、風邪を治してもらったって聞いたが?」
「具合悪そうだったからね」
「治療費はどうしたらいい?」
「いらないわよ。魔力なんて一晩寝れば元に戻るしね」
「おいおい、貴重な治癒魔法をそう安売りするんじゃねえよ。教会の神父が泣くじゃねえか」
「あはは。まあ、いいじゃない」
「そっか。それもありがとよ」
「ところで、交渉の方はどうなりそう?」
「それがな、昨日の夜に子爵が急死したらしくてな、交渉相手が国になりそうなんだと。元々子爵が罪を犯していたわけだから、犯罪者というか、処分される奴に交渉なんてさせられるわけがない、とも、この街の代官が言っていた。何にしろ、こっち側の交渉するのが国なんでな、うちも国がやるんだと。時間がかかりそうだぜ」
「そうなんだ。被害者とか亡くなられた方の家族への補償は?」
「それは子爵の財産からちゃんとやるって、代官が言っていた」
「まあ、そんなものじゃ、生き返るわけでもなし、心の傷が癒えるわけでもないんだろうけどね」
「ま、その通りだ」
ウォルフは一拍置いて、優香と恵理子に聞く。
「お前ら、旅をしているんだってな」
「人探しのね」
「ムーランドラにも来るのか?」
「こっちの大陸を一通り見てまわって、見つからなかったら行くと思うわ」
「その時は、俺達の船に乗れよ。快適な船旅を約束するぜ」
「ふーん。あれを乗せてくれる?」
恵理子は、シンベロス二頭を指さす。
「お、おう。大丈夫だ。任せておけ」
「頼もしいわね。その時はよろしく。で、ウォルフさんは、この街と獣人の国を往復しているの?」
「ああ、そうだ。だから乗るときは、この街に来てくれよ」
「楽しみにしているわ」
「あ、最後に一つだけ。子爵を倒したのは、お前達なんだろ?」
「なんのことかわからないわ」
「そうか。じゃあ勘違いだ。じゃあな、また会おう」
「ええ、ウォルフさんもお元気で」
ウォルフは、手を振って帰って行った。
「あ、貴博さん達の情報があるかどうか聞くの忘れたわ」
「僕らもそろそろ出ようか」
優香が皆に声をかける。
「東へ進むのよね。次はキリルだっけ?」
恵理子がマティに聞くが、マティが考え込んでいる。
「マティ?」
「そうです。キリルです」
「だってさ。ほら、みんな行くよ。馬車に乗って。ほら、ヨーゼフとラッシーも乗って」
「「わふ」」
「ヨーゼフとラッシー、昨日活躍できなかったから、走って体力使いたいらしいです」
ヴェルダが教えてくれる。
「街から出たら、外を走ってもいいって言って」
「はーい」
「よし、出発!」
「タロ、ジロ、よろしくね」
「「ばふ」」
「あーあ、お店もいっぱいあったし、海鮮もおいしそうだった。もうちょっといたかったな」
御者台の上で優香が空を仰ぐ。
「そうね。ずっと内陸にいたし、新鮮な海鮮なんて、なかなか食べられなかったものね」
「うん。海鮮ってさ、いつも真央ちゃんが鍋を食べていたなって、思い出しちゃうんだ」
「そうだったわね。自分で釣ってね。おいしかったわよね。真央ちゃんのお鍋」
「クリスマスにも食べたよね」
「そうそう。シャンパンに合う料理って言っていたのに、全員が和食を持ちよって」
「あははは、そうだそうだ。懐かしいな。あの子らどこにいるのかな」
「すぐに会えるわよ。そしたらみんなでまた鍋を食べましょう」
「ねえねえ、食べ物の話? おいしそうなもの? 今度食べさせてよ」
リーシャが二人の間に顔を突っ込んで聞いてくる。
「そういえば、リーシャって猫なのに、あんまり魚食べないよね?」
「あの、お言葉ではございますが、猫ではありません。猫の恰好をしているだけです」
リーシャはメイドらしく丁寧に答えてみる。
「あははは、そうだったね。でも昨日、久しぶりに聞いたよ。孤高の野良猫? かっこいいよ」
「むう。まあ、気に入っているからいいんですけど」
「そうそう、話を戻すけど、食べ物の話。魚の煮込み料理をみんなで食べたいねって話」
「絶対に作ってくださいよ。楽しみにしていますから」
「リーシャ、ありがとう。リーシャ達のおかげで、旅が楽しいよ」
「あ、当り前です。私達は家族なんですから」




