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メイドクリーニングサービスです(優香と恵理子)

 優香と恵理子はギルドに入る。


「あ、クサナギのお二人!」


 ギルドのカウンターから受付嬢が声をかけてくる。


「何かあった?」

「何かあったって……まあ、ギルマスが呼んでいますので、こちらへ」


 受付嬢に連れられ二階へと上がり、ギルマスの部屋へ入る。


「おう、お前ら、何をしたんだ?」

「えっと、僕らを引き渡すとか?」


 ギルマスが何を聞いているのかを理解し、優香が逆に聞き返す。


「いや、冒険者ギルドは冒険者の味方なんだよ。お前らに正当性があれば、突き出したりしない」

「すまないが、正当性があるかどうかも、こっちでは判断がつかないんだ」

「そんなことやったわけ? まあ、話してみ」


 優香と恵理子があったこと、やったことを話す。


「ふーん」


 ギルマスは、平静を取り繕いつつ、冷や汗を流す。


「違法と考えられる奴隷を開放して、ついでに兵士二十人程度を灰にして、海の監視をするための塔を焼却処分、と」


 ギルマスが声に出して要点をまとめると、一緒に話を聞いていた受付嬢も苦笑いしかできない。


「証拠がないじゃないか! 解放したっていう猫人族だって現状逃亡奴隷だろう? どうすんだよこれ」


 ギルマスが憤る。


「冒険者ギルドは冒険者の味方だと」

「冒険者ギルドは確かに冒険者の味方だけどな、犯罪者の味方じゃねえんだよ」

「僕らが犯罪者だと?」

「だから、証拠がねえって言っているだろう。何でもかんでも燃やすんじゃねえ」


 フウフウ、と息を荒くするギルマス。


「すみません」


 それは確かに、と、焼却処分をした本人である優香は反省する。


「今のところ、あっちにも手掛かりがない。まだ、疑われはしていないだろう。で、どうする? 今のうちに街を出るか?」

「僕らが街を出たら、ギルマス達はどうするの?」

「決まってる。知らぬ存ぜぬだ」

「助かる。それじゃ、なるべく早く街を出る」

「その方がいい」




 優香と恵理子はギルドを出て宿へと向かう。

 しかし、見覚えのあるフード姿がうろうろしているのを見つけてしまう。そのフード姿は決して港から出ないはずだ。


 優香と恵理子は、向きを変え、急いで港へ戻る。




「ウォルフ!」

「ん? 戻って来たのか? 早く帰れよ」


 船の上でウォルフは手を振り、背を向ける。


「何があった!」


 優香がウォルフに向かって声を上げる。

 はぁ、とため息をついたウォルフは二人に手招きをした。

 優香と恵理子は船に上がる。


「お前ら、黙って街を出ろ」

「何でだ。何があった」

「聞いたら帰れよ。あのな、うちの猫人族の娘が一人いなくなった。マタタビのにおいに釣られたらしい。悪いが、においをたどるのは俺らの専売特許。もう、どこにいるのかは突き止めている。後は、行動に移すだけなんだ。いいか、俺らの邪魔をするな。絶対にだ」

「あの二人から話は聞いたのか?」

「当然聞いた。その上での行動だ。だから、俺らがどこまでやろうとしているのか、どこまで覚悟しているか、お前らならわかるだろう。ほら、さっさと帰れ」




 船から降りた優香は奥歯をかみしめる。


「ねえ、どうする?」


 恵理子が優香に聞く。


「わからない。何をしたらいいのか」


 二人は、宿に向かいつつ、話をする。


「優香はどうしたい?」

「話し合いをしたうえで、猫人族の救出と平和的調整」

「それだと、よっぽどの補償とか反省がないと獣人達は納得しないでしょうね。簡単なのは?」

「両者を争わせないように、猫人族を救出したうえで、ネフェリとリピーに頼んでドッカン」

「……現実的なのは?」

「私達がドッカン」

「変わらないじゃない。最悪は?」

「両者入り乱れての戦闘からの国家間の戦争への拡大」

「ちなみに、このままだと?」

「戦争」

「急いで戻りましょう」




 宿に戻ると、全員が馬車に集まっていた。


「ミリー、宿は?」

「まだ引き払っていません。なので、街を出ることが決まったら宿へと連絡を入れます」

「よし。じゃあ、馬車に乗って。ちょっと話し合い」


 優香の掛け声に、全員がベッドのある方の馬車に乗り込む。


「マティ、おそらくこの後、ウォルフ達が子爵邸に攻め込む。理由は、猫人族の救出。さあ、どうなる?」

「え?」


 マティが深刻な表情をする。


「子爵側は、騎士、兵士、衛兵等を集め、およそ数千。身体能力が高いとはいえ、獣人側は、数隻分の船員を含めても数百。およそ十倍の開きがあります。どちらが有利かというと」

「優香様、あの船の船倉で見た武器は、どれも使い込まれていました。しかも丁寧に整備も。あの獣人達はおそらく商人が本業ではありません」


 ミリーがマティの話を遮って情報を追加する。


「じゃあ、十倍の戦力相手でもいい勝負をするかもか」

「現状、獣人側が攻め込むとして、子爵側が悪いという証拠はありません。状況証拠的に、猫人族が子爵邸にいるということだとしても、ただ、迷子を保護していたという可能性もあります。獣人が一方的に攻め込んだと判断された場合でも、国家間の問題になります」

「救出したあの二人の発言だけでも、国家間の戦争になりそうだけどね。そのうえで、新たな誘拐でしょ?」

「本当に誘拐ならです」

「マティ、冷静に、客観的な意見を聞かせて。私達はどうすべき?」

「客観的な意見ですよね。静観です」

「戦争が起こるかもしれないのに?」

「これは、子爵と獣人の、ひいては国家間の問題なんです。一冒険者が手を出すことではありません」


 マティが苦い顔をする。そして、


「私が王女であったのであれば、今この場で子爵のしたことを明らかにした上で子爵に処罰を下して獣人たちに謝罪を。そして、何とかして、子爵と私の首を差し出してでも、ことを納める。というのが平和な解決方法ですが、私は死んだ身。のこのこ出ていっても偽物扱いでしょうけど」

「じゃあ、どうしようか。やっぱり見て見ぬふりして逃げる?」


 恵理子が意地悪そうな顔をして優香の顔を覗き込む。


「恵理子、家族が悲しそうな顔をしているの。そんな意地悪言わなくても」

「ふふ。じゃあ、作戦会議をしましょうか」




 夕刻、建物の陰に隠れて子爵邸玄関を見張る獣人がいる。


「おい、子爵邸に怪しげな集団が来たぞ。なんだあれは、俺達の作戦に影響が出るか? 一応お頭に伝えておけ」

「はい!」


 獣人が一人、走り去る。


 子爵邸の門には、十四人の仮面をつけたメイドが。うち一人は猫耳だ。ブリジットもネフェリもリピーも、戦闘時は特に邪魔だと猫耳は外してしまっている。

 そのメイド達は、エプロンをつけているところまではいい。しかし、その両手に持っているもの。お玉だ。


「こんにちわ、メイドクリーニングサービスです。子爵様はいらっしゃいますか?」


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