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嘘~奴隷にされた猫人族(優香と恵理子)

 優香と恵理子は、その兵士越しにトリシャ達が塔へ入っていくのを確認する。

 意外と思い通りになるんだなー、と恵理子は思う。


「猫人族がいるだろう。会わせてほしい」


 優香が要求する。


「いるからなんだって言うんだ。奴らは夜勤なんでな、今は部屋を暗くして寝ているだろうぜ」

「そうか。猫人族は何人雇っているんだ?」

「俺らは労働環境をちゃんと整えてやっているからな。一晩で三人を二人ずつローテーションさせているんだ。優しいだろう?」

「三人いるのか?」

「あ、そうか、この前一人死んだな。二人だ」

「なぜ死んだんだ?」

「なに、十年契約で働いてもらっていたんだが、その契約を更新したら、塔から飛び降りちまった。二人になったおかげで、休憩なしだぜ。今は補充待ちだ」

「更新は猫人族の意思だったのか?」

「は? お前馬鹿だろう。奴隷にそんなことを決める権利なんかあるわけない。死ぬまで働いてもらうさ。それが想像以上に早く死んじまったってだけだ」

「じゃあ、何で十年契約なんだ?」

「嘘に決まっているだろう。誰にだって働き甲斐は必要だろう。十年働いたら解放してやるってな。優しい職場だろう? 食事は出すし、寝るところもある。一晩を三人でローテーション」

「じゃあ、なぜ食料を買い付けに来なかったんだ?」

「今は教育中だからな。勝手に死んだら後に残った者が苦労するっていう。五日間の絶食中なんだよ」


 優香の怒りゲージが上昇していく。恵理子も怒ってはいるが、優香の怒り具合を見ると、優香より少し冷める。よって、恵理子が疑問に思っていることを聞く。


「何でそんなことをペラペラと?」

「ん? お前ら人間だろう。それとも、獣人の味方なのか? まあ、その場合でも、ここは崖だしな。事故の一つや二つ、起こってもおかしくないだろうさ」

「なるほど」


 優香の返事を聞いて恵理子は、あーあ、とため息をつく。




 塔に入ったトリシャ達は、ハンドサインで行動を開始する。トリシャとヴェルダは上へ。ウルリカとメリッサは下へ。


 トリシャ達は、階段を上る。二階、三階、さらに上へ。ひとの気配を感じたら瞬間的に近づいて、延髄に手刀を落とす、もしくは、腹にナイフの柄を撃ちこんで気を失わせる。


 屋上にまでたどり着くと、そこには二人の兵士がいた。一人は眼下の優香達のやり取りを見ている。もう一人は海を警戒している。


「なんか面白そうなことしているぞ」

「隊長も、監視が嫌だからってそういうのに飛びついて仕事を放りだすんだからな。お前もちゃんと海を監視しろよ」

「まあ、そう言っても、そうそう何かあるわけじゃないだろ。お前も見てみろって」


 二人の兵士はどちらも塔から外を見ており、階段の方向には気を向けていない。

 トリシャとヴェルダはうなずき合い、三、二、一で、音もたてずに飛び出し、兵士達を沈黙させる。


「よしっと」


 ヴェルダが他に兵士がいないことなど状況を確認する。


「さすがに昼間は猫人族は監視に回っていないのね」

「じゃあ、下だったのかな」




 一方のウルリカとメリッサは階段を下りる。明かりはろうそくが一つだけ。薄暗く湿度が高い。吸い込む空気が重い。


 地下一階には何もない。さらにもう一階降りて地下二階へ。より一層空気が重くなる。

 階段から覗き込むと、廊下に置かれた机に突っ伏して寝ている兵士が一人。廊下の左右には鉄格子。つまり、牢屋。


 ウルリカとメリッサは音を立てずに牢屋へと近づく。左に一人、右に一人、奥の牢屋には誰もいないことを確認した。

 ウルリカは右の牢屋に近づき、そっと声をかける。


「猫人族さんですか?」


 すると、牢屋の奥からボロボロのフードをかぶった少女が一人しずしずと歩いてくる。

 そして、少女がフードを取ると、そこには猫耳。

 しかし、ウルリカが目を向けたのはその首。

 あー、これ、優香様が怒るやつだ、と、ため息をつく。


「この牢のカギは?」


 と、猫人族に聞くと、猫人族の少女は寝ていた兵士の方を指さし、そして目を見開いて手で口を押える。

 ウルリカが振り返ると、兵士が剣を振り上げていた。

 が、兵士はそのまま崩れ落ちる。

 その後ろからメリッサが姿を現す。


「最初から気を失わせておけばよかったです」

「そうだったね。ま、今はいいや」


 ウルリカは少女にもう一度聞く。声を出して。


「カギは?」

「その兵士が持っています」


 メリッサが嫌な顔をしながら男の腰回りを探る。そして、鍵束を取り出す。


「えっと、これかな」


 ガシャン


 牢屋の入り口のカギが開く。


「メリッサ、そっちもお願い」

「はいです」


 メリッサが向かいの牢屋を開ける。しかし、中にいる猫人族が動く気配がない。猫人族はベッドに寝たまま息を荒くしている。


「向かいの猫人族は?」

「体調を悪くしているんです。にもかかわらず、毎晩労働をさせられて……」

「そうか」


 ウルリカは向かいの牢屋へ入り、猫人族を抱え上げる。


「メリッサ、先導を」

「はいです」

「外に出るよ」

「……」

「どうした?」

「私達は奴隷です。というより奴隷にされました」


 と、首にはまった首輪をなでる。


「逃げたら逃亡奴隷にされませんか?」


 ウルリカが苦い顔をする。


「お前達は今のままでいいのか?」

「帰りたいです。故郷に。あと五年働けば帰してくれると、約束されていましたが」

「約束されていた?」

「ここにはもう一人猫人族がいたのです。その人は、十年間働けば故郷に帰してもらえると言われていたそうです。先日、ついにその日がやって来たのですが、兵士からそれが嘘だと伝えられ、そして、塔から身を投げてしまいました。私達も同じかもしれません。帰りたいです」


 猫人族の少女が泣く。

 ウルリカは改めて思う。これ、絶対優香様が怒るやつだと。


「とりあえず、ここから出てから考えよう」


 ウルリカは、猫人族を一人背負い、階段を上っていく。後ろからもう一人の猫人族がついてくることを確認しながら。


 一階に出て、トリシャ達と合流する。


「えっと、その娘達は?」

「牢屋に入れられていた猫人族。夜に働かされていたらしい」

「奴隷?」

「に、させられたらしい」

「強制? それなら違法じゃないの?」

「ということで、出てからタカヒロ様達と考えようと思って」

「わかった」

「メリッサ、どう?」


 塔の入り口から外を覗いていたメリッサが報告する。


「兵士達はタカヒロ様達と向かい合っていて、こっちに気づいていない様子」

「そう。じゃ、タカヒロ様かマオ様と連絡取れる?」

「やってみます」


 メリッサは、兵たちの向こうでこちら側を向いている優香と恵理子に視線を送る。

 そして、両手を耳にして頭の上にのせてぴょこぴょこさせる。次いで、ピースサインを出して二人を示し、そして、最後に両手の指で、首に首輪がはまっていることをジェスチャーで伝えた。



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