「私にもその服と仮面をください」(優香と恵理子)
「マティ、気が付いたんだね」
優香と恵理子が馬車にやってくる。
「はい。この度はお助けくださり、ありがとうございました」
「私が助けたと?」
「えっと、覚えてはおりません。気づいたらここにいました。ですが、ここにいる、クサナギ一行の馬車にいるということは、そういうことではないのですか?」
「ところで」
優香は、話を変えてしまう。
「マティはこの後どうするの? 王都に戻るのだったら、近くの街まで連れて行くけど。この馬車は王都には戻れないし」
マティは、優香と恵理子、そしてブリジットを順にみてお願いをする。
「私にもその服と仮面をいただけませんか? 連れて行ってください」
「え?」
と、優香が苦い顔をして見せるが、仮面のせいで見えたりはしない。
「優香、どうするのかを聞いた段階で、その選択肢もあったんでしょ?」
恵理子が優香に問う。
「そうだけどさ。そう簡単に言われちゃうとね」
「優香?」
マティが首をかしげる。
「マティ、あなたは私達と一緒に旅をするということでいいの?」
恵理子がマティに確認をする。
「はい。私はあの場で死んでしまいましたから、私は生まれ変わったものと考えます。私は、ユリアと、ブリジットと一緒にいたいです」
「わかったわ。じゃあ、あなたは今日から私達の家族。ということでいいかしら?」
「はい。お願いします」
「じゃあ、説明するわね」
「???」
マティが首をかしげる。何を改まる必要があるのか、と。
「まず、私。マオと名乗っていますが、本名は恵理子。恵理子・佐々木。タカヒロとマオという名前は、捜している人の名前なの。その名前で有名になれば探し人の方から集まって来るかなって思って。他の探し人は千里、それから桃香。この四人を探しているの」
マティは、ぽかんと聞いている。何とか口を動かして質問をするマティ。
「えっと、恵理子様とお呼びしたら?」
「あの、王女様が私に様付けっておかしくない?」
「ですが、私は家族にしてもらいましたし、恵理子様は勇者様ですし。ブリジット、ブリジットはなんて呼んでるの?」
「外ではマオ様。内では恵理子様」
ブリジットは、マティに気を使って自分も様付けをして恵理子のことを呼ぶ。さすがにこれから先、マティが優香や恵理子を呼び捨てはおかしい。従者はマティの方だ。
「じゃあ、恵理子様でいいじゃないですか」
「……それはちょっと置いておくわね。それで、こっち、タカヒロ。本当の名前は優香、優香・一ノ瀬。女性よ」
「え?」
マティは再び固まる。口をあんぐり開けて。
優香はそんなマティを気にすることなく仮面を外す。
「初めまして、マティルダ王女殿下」
それでも、マティは動かない。
優香と恵理子は顔を見合わせ、そして、マティの顔の前で手を振ってみる。
「はっ!」
マティが正気に戻る。
「じゃあ、じゃあ、お二人は夫婦じゃ?」
「ないわね」
恵理子がフゥとため息をついて答える。
そこへリーシャがやってくる。
「でも、愛に性別なんて関係ないわよ」
と言って、優香のほほにキスをしようとし、
ゴチン!
「調子に乗らない!」
恵理子がリーシャの頭に拳骨を落とし、リーシャが頭を抱える。
それを見たマティは、真っ赤な顔をする。
そして、グリンと首を回してブリジットを見ると、ブリジットはマティの頭をつかんでグギッ前を向かせた。
マティは、
「あてててて」
と首をさすりながら、
「大体のところを理解いたしました。家族として迎え入れてくださったこと感謝します。優香様、恵理子様」
そう、優香と恵理子にお礼を言った。
「で、どこまで逃げるつもりですか?」
マティはこれからの行動を問う。
「リーシャ」
優香はリーシャに状況を聞く。
「王国軍が追ってくる様子はありません。そろそろ止まってもいいのかもしれません。そうしないと、ヴェルダ達が大変かと」
「そうね。そろそろどこか休めるところを探そうか。ところでマティ、このまま北に行くとどうなるの? マティ」
「この先、ずっと北に行くと、海に出ますが、そこから東に行くと、海に面した街があります。フィッシャー子爵領です。北の平野部にあるため、農業も漁業も盛んな街となっています。本来ならより高位の貴族が治めるべき土地ではありますが、逆にフィッシャー子爵が昇爵を望んでいないのです。爵位が上がるとその分責任が増しますから」
「それじゃ、とりあえずヴェルダ達と合流して、フィッシャー子爵領へ向かおうか。大きな街なら冒険者ギルドも大きいだろうし、情報も得られるかもしれない」
優香が方針を皆に伝える。
「ところで、ですが、私も一員となりましたがこの冒険者パーティクサナギ、おそらくお尋ね者です。どうやって街に入ります?」
「「……」」
「えっと、マティが言う?」
「あの、えっと、ごめんなさい?」
「素直にお金を払う?」
「どのみち、タロとジロを連れては入れないわ」
「じゃあ、少人数で情報収集と食材等の購入のために入るだけ、って感じかな」
と、街に入るにあたり、どうするかを悩んでいると、ミリーが声をかけてきた。
「優香様! 左前方に森の合間にちょっとした崖が見えます。そこで休憩でどうですか?」
「ミリー、ありがとう。そこへ馬車を回して」
「はい。承知しました」
「ネフェリいる?」
「はい。ここに」
「リピー達はどのへんかわかる?」
「……はい。王都を無事に出て、こちらを追っかけているようです。どのくらい離れているかはわかりませんが。問題もなさそうです」
「わかった。じゃあ、僕らは休んで待っているからって、連絡しておいて」
「はい」
優香達は、崖の下で野営の準備を始める。食材の内、肉類はいつも通りヨーゼフとラッシーが獲ってきた。
一晩をその場で過ごし、翌日の午前はネフェリとの特訓をして過ごす。
昼を過ぎたころ、
「優香様、もうすぐリピー達が到着します」
「ん。ありがとう」
しばらく待っていると、遠くから大きな馬車が二台走ってくるのが見えてきた。
「あれ? あの馬車、大きくない?」
「っていうか、馬車?」
優香と恵理子が首をかしげる。
当然他のメンバーも同じ反応をする。
馬が四頭で引いているそれ、優香が唖然として言う。
「あれ、トラック?」
「に、見えるわよね。しかも、あれ、よく馬四頭で引けているわ」
ヴェルダとメリッサが座って操縦している御者台、それを見る限り馬車だ。しかし、その後ろに巨大なコンテナが乗っている。車輪は前後左右に一つずつ、四輪だ。




