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ユリア、今までありがとう。大好き。そしてさよなら(優香と恵理子)

「ほんとだ。騎士の格好してるけど、マティが私達と戦うの?」

「どうだろう」


 マティ達の動きを見ていると、ちょうど両者の中間くらいで立ち止まった。


「これは、僕らも行くパターンかな」

「そうね。行きましょうか」

「ブリジット、リーシャ、一緒に来て。ネフェリは前方を、リピーは後方を牽制していて」

「「「「はい」」」」




 優香と恵理子が二人を連れて、マティの下まで歩いて行く。

 すると、マティが先に言葉を発する。


「冒険者パーティクサナギ、我が国民のため、ここで死ぬか我が国に従属するか選べ」

「なっ」

「マティ、どうしたの?」


 優香が驚きの声を上げ、恵理子が慌てて聞き返す。


「我が国は、冒険者パーティクサナギを脅威と認定した。他国に流出させるくらいなら、殺してしまうことにした」


 ブリジットとリーシャは黙っている。


「マティ、どういうこと? 僕らが人探しのために旅をするって、知っているよね。それは、旅に出るなって言ってる? そうでなかったらここで死ねって?」

「そうだ」


 マティは唇をかみしめる。


「それはマティの考えなの?」


 恵理子が聞く。


「国民のためだ」

「マティ、何で?」

「これは戦いだ。もし、お前達が我が国に従属しないのであれば、我が軍がお前達を全滅させるか、お前達が我が軍を率いている私を殺すまで戦いは終わらん。いいな」


 と言って、マティは優香達に背を向けて歩き出した。

 優香と恵理子はどうしていいかわからず、たたずみ、マティの背中を見続けた。



 マティは、五十メートルほど歩いて立ち止まる。そして振り返った。

 マティは大声を上げる。マティらしからなぬ大きな叫びを。顔はひしゃげ、涙を我慢していることがあからさまにわかる。


「私は! 私は、友人であるあなた達の自由を奪うことはできない。さっき言ったように、私が死ねば我が軍の負け。だから! ユリア、今までありがとう! 大好き! さよなら!」


 そう言って、マティは腰から剣を抜き、そして、自らの首を貫いた。


 首から血を吹き出したまま崩れ落ちるマティ。


 だが、戦いが終わるわけではなかった。


「「「「マティ!」」」」


 優香達が叫ぶ。そして、それを見ていた王国軍も公爵軍も声を上げる。


「「「王女殿下!」」」

「なぜ!」

「悪魔が魅了したんだ!」

「悪魔が!」

「悪魔が!」

「悪魔が!」……

「王女殿下のかたきを!」

「我に続け!」


 王国軍と公爵軍がどちらもクサナギ一行に対して攻め込んできた。


「マオ! ファイアトルネード!」

「はい!」


 恵理子が倒れたマティを取り囲むようにファイアトルネードを発動させる。

 そこへ、優香が飛び込む。


「メガヒール!」


 優香はマティを抱きかかえて治癒魔法をかけ、そして、傷がふさがったのを見て、団服にマティを包み、ファイアトルネードから脱出した。


 多くの血を失ったマティは気を失ったままだ。


「ブリジット! マティを馬車へ!」

「はい!」


 ブリジットはマティを抱えて馬車へと急ぐ。


「マオ、リーシャ、王国軍を魔法で牽制しながら下がるよ。下がったら、逃げよう」

「「はい」」


 優香達は、王国軍の足止めをするように、ファイアウォールを撃ちこみつつ、馬車へと下がっていく。

 馬車の向こう側では、アリーゼとナディア、そしてマロリーとルーリーが同じように魔法を撃ちこんでは公爵軍を牽制する。


「よし! 北側へ逃げるよ。最高速度で! ミリー、オリティエは馬車を!」

「「はい」」


 ミリーとオリティエはそれぞれ馬車に乗り込み、馬車を北側へ向ける。


 それぞれの馬車にアリーゼ達が二人ずつ乗り込み、牽制の魔法を撃ちまくる。ブリジットはマティと馬車に乗っている。残りのメンバーは、ひたすら走る。


「ネフェリ、リピー、ごめん、地面に向かってブレス!」

「「はい」」


 ネフェリとリピーはドラゴン形態になると飛び上がり、馬車と追ってくる王国軍、公爵軍との間に、線を引くようにブレスを放った。


 ドゴーーーーン!


 地面が線状にえぐれ、追っ手を阻む。


「よし、このまま北に逃げよう」

「北に逃げてどうするの」


 恵理子の質問に対し、優香が答える。


「スティングレー伯爵にかばってほしいところだけど、そうすると、伯爵まで悪者になりかねない。だから、北へ北へと行ってどこかに潜伏しよう」

「ところで、馬車、どうするの? キザクラ商会に行けって言われていたわよね」

「僕が後で王都に潜入してキザクラ商会に連絡を入れてくるよ」

「そのお役目、私にお任せください!」

「私にも」


 ヴェルダとメリッサが手を上げる。


「私達が普通の冒険者のふりをして王都に潜入して馬車を受け取ってきます」

「だけど、その後の合流はどうする?」

「北へ北へと向かえばいいのですよね?」

「リピー、二人の護衛を頼める? リピーならネフェリと連絡を取れるでしょ?」

「わかりました。二人について、王都に潜入してきます」




 クサナギ一行は、王都の西側を通り過ぎ、北へと向かう。そして、北の森の脇を沿うように馬車を走らせる。

 その途中、馬車から飛び降り、森に駆け込むヴェルダとメリッサの二人。それと、リピー。


「リピーさんにお願いがあります」

「なんだ?」

「私達が王都の門をくぐるには、冒険者カードを見せる必要があります。ですが、これを見せると、クサナギだということがばれてしまいます。なので、申し訳ないのですが、夜中に私達を運んでもらえませんか? 空から」

「それでどうするのだ?」

「リピーさんは森に戻って潜伏していてもらえませんか? 私達は、馬車に潜んで脱出したいと思うのですが、リピーさんが馬車に隠れることが出来るかどうか、疑問で。いや、すみません。決して、リピーさんが重いと言っているわけでは……」

「そんなことはいい。私のために最西端にいった結果がこれだ。私にも原因がある」

「ごめんなさい。それでは、それでお願いします。あとは、夜まで、初心者冒険者パーティを装って、森に潜んでいましょう」




 深夜になる。

 ドラゴン形態になったリピーの左右の足に、ヴェルダとメリッサがつかまる。


「リピーさん、足の爪にロープをまいても構いませんか? それで降下したいと思いますが」

「いいぞ。降下した後、ロープはそのまま持って行こう」

「よろしくお願いします」


 リピーはなるべく音を立てないように飛び上がり、王都上空へと飛び上がる。

 そして、羽ばたかないように滑空しつつ、高度を下げていく。


「では、降ります」


 と言って、ヴェルダとメリッサは降下する。それを見届けてリピーは再度上昇して森へと戻った。




 ヴェルダとメリッサは、真っ黒のポンチョを羽織り、気配を消したまま、細い路地をキザクラ商会に向かって歩く。

 キザクラ商会は、すでに店を閉めているものの、裏の居住区は明かりがついていた。

 二人は、裏口に近づき、そして、ドアをノックする。


「はーい、どなた、こんな夜遅くに」


 中から声がかかる。


「クサナギのヴェルダとメリッサです。タカヒロ様とマオ様のお義母様のライラ様より、こちらの商会に馬車を取りに行くよう言われました」


 ドアがそっと開く。


「その団服、確かにあのお方の関係者……。わかりました。中へ」


 商会の従業員は、二人を中に招き入れた。


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