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マティ出陣(優香と恵理子)

 王都にて、御前会議が開かれる。


「マイナン伯爵からの報告では、冒険者パーティクサナギは、悪魔の従者であるケルベロスを従えているとのこと。また、メンバーの一人がユリア・ランダースではないかとのことだ。あの業火によって焼かれなかったことが、悪魔の証明ではないか、とも書かれている」


 貴族の一人が、マイナン伯爵からの報告を読み上げる。


「ユリア・ランダースと言えば、前宰相を殺した罪人でしたな。たしか、処刑の時に予期せず業火が起こり、灰燼に帰したと記憶しているが」

「悪魔がその灰燼から復活させたのではないか?」

「業火を起こしたのが悪魔で、それが死人復活の儀式ということは考えられるか?」

「業火が起こった時はまだ、ユリア・ランダースは死んでいないのだろう?」

「ところで、悪魔なら、死人を呼び戻せるのか?」

「悪魔ならできるのではないか?」

「もしそうなら、悪魔の利用価値は高いのではないか?」

「だが、そのメンバーが元騎士団長だという証拠はない」

「悪魔だぞ? そもそも人類の敵ではないのか? 取り入ることなんかできんだろう」


 貴族達があれやこれやと、自由勝手に発言をしている。

 この場にはマティも同席しており、その様子を眺めている。

 マティはブリジットがユリアであることを知っている。サウザナイトに行ったときに同行した近衛達も知っている。

 だが、ここでは、そのことを口に出さない。どう言っても、悪魔ではないという結論には達しそうにもない。

 マティ自身も、どうしてユリアがいるのかがわかっていないのだ。

 ユリア自身は、タカヒロとマオに救われたと言っていた。

 それが事実だとすると、罪人を逃がしたことから、タカヒロもマオも犯罪者扱いされてしまう。


「マティルダ王女殿下は、先日の遠征の時に、クサナギを同行させたとのことでしたな。どうでしたか? 彼らは悪魔でしたか? 悪魔であることの何か、気配や様子などは見て取れましたか?」

「い、いえ。そのような様子は見られませんでした。そもそも、悪魔の特徴と言うのはどういうものなのですか?」

「資料上の話ですが、肌が浅黒く、角を生やし、背には翼、腰には尾が生えていると言われております」

「そのような特徴も見られませんでした」

「では、王女殿下は、彼らが悪魔ではないと?」

「そう考えています」

「しかし、ドラゴン族、魔族、そして、悪魔の従者を従えておるのですよ?」

「悪魔の従者についてはわかりませんが、ドラゴン族と魔族については、彼らが奴隷と言う立場から救ったことに起因していると考えられます。決して悪魔だからというわけではないのではと」

「「「うーん」」」

「それでは、王女殿下は、話し合う余地はあるとお考えですか?」

「はい。話し合うことは可能だと思います。ですが」

「ですが?」

「彼らは目的があって旅をしています。我が国に引き留めることもできなければ、我が国の戦力になってくれることもないでしょう。そもそも彼らは冒険者ですから」


 マティは喧嘩別れをしてしまったことを思い出し、奥歯をかみしめる。


「では、彼らが他国に渡る可能性があると?」

「どういう意味かは分かりませんが、他国を旅することにはなると思います。他国に味方をするのかという点については、わからないとしか言いようがありません。彼らは冒険者でありながら、確かに我らの味方をしてくれましたから」

「では、他国に渡ることで我が国の脅威になる可能性があるということであれば、マイナン伯爵の報告にあるように、ここで殲滅してしまう方がいいのではないか?」


 そこで、会議室に飛び込んでくる者がいる。


「伝令! ヘブンリー公爵より、王都の軍と協力して、悪魔を撃ち滅ぼしたいとのこと。後ろからヘブンリー公爵軍が追うので、王都軍と挟撃したいとのことです」

「どうする、皆」


 国王が声をかける。


「私は反対です」


 マティが声を上げる。


「彼らとは、友好的な関係を築き上げることが重要だと思います」

「だが、お前はいつだったか、殴られて帰って来ただろう?」


 ザワザワザワ


「あ、あれは、私が……」

「な、王女殿下を殴ったと?」

「そんなことが許されるのか?」

「やはり悪魔は悪魔ではないか? 話し合いなんぞ、できないだろう!」

「国王様、ぜひ、我が騎士団に一番槍を!」

「いや、私にお任せください!」

「「「私にお任せを!」」」

「や、やめてください。あれは私が悪いのです。ですから」

「王女殿下、何をおっしゃいますか、悪魔ですぞ。倒さねば、我々人類の危機なのです」

「そうですぞ。確かクサナギは十八名と悪魔の従者。我らが結託すれば、倒すことなど容易だろう」

「ドラゴン族が二名いるんだぞ? どうするんだ?」

「「「……」」」

「王女殿下、人質のふりをしていただけませんか? 王女殿下と奴らは仲がいいのでしたな?」

「な、私に彼らをだませというのですか? そんなことが出来るわけがありません」

「国王様、ご決断を」

「うーむ」


 国王は、悩む。確かに、マティの言うことを聞くかもしれない。しかし、他の貴族が言うように、倒してしまうのがもっとも脅威をなくす方法でもある。


「よし、わかった。マティ、お前が王国軍を率いろ。そして、悪魔達を倒すか従属させるかどちらかをお前がやれ。奴隷の首輪が必要なら準備させる」

「なっ!」


 マティは声を上げる。


「父上! そんなことは私にはできません。友人を殺せと? 友人を奴隷にしろと? そんなことがどうして出来ましょうか!」

「我が国民のためだ。国民と冒険者十八名、どちらが重要だ? お前の言うことなら聞くかもしれないのだろう? だったら、お前がやれ。お前は我が国の王女なのだ」


 マティは、悩む。父親の言うこともわからなくはない。

 確かに、殴られもした。しかし、それは自分が悪かったのだ。

 どうして友人を殺せようか、どうして友人を隷属させられようか。

 ユリアは、小さなころから自分をいつも守ってくれた恩人なのだ。




 クサナギ一行が王都に到着する日、マティは、王都西門から出兵する。サザンナイトに出兵した時と同じく、約一万の騎士と兵士を連れて。


 西の街道を進み、王都からおよそ二キロ。そこに王国軍を展開させる。




 その様子を見つけ、恵理子が優香に相談する。


「ねえ、あれ、軍隊が出迎えてくれているけど、どうする?」

「とはいえ、後ろから公爵軍が来ているんだよね」


 うーむ、と、優香と恵理子が悩む。


「ここまで来たらすべて吹っ飛ばしたらいいのではないか? 命じてくれたら即、やるぞ?」


 ネフェリが提案してくる。


「できれば争いたくないんだよね」

「では、どうする?」


 クサナギ一行は王国軍からおよそ一キロのところに馬車を止める。

 公爵軍がクサナギ一行の後ろ一キロのところに布陣する。

 すると、王国軍から数名の貴族と騎士が出てきた。

 その中心には、小柄な騎士が。


「あれ、マティじゃない?」


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