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私達のために争わないで(優香と恵理子)

「貴様、騎士団長! お前、あの悪魔の使いになんて言った? 「あなた様」? 悪魔の使いに「様」付けだと? 魅了されたのか? それともお前も悪魔の使いか?」


 マイナン伯爵が騎士団長に対して、怒りをまき散らす。


「も、申し訳ございません。あの剣技に心当たりがあったので、つい、昔の記憶で」

「悪魔の使いに心当たりだと? 誰なんだ、それは」

「はい。ユリア・ランダース。元王国騎士団長です」

「な、そんなわけがあるか。あの女は、業火に焼かれて死んだはずだ。宰相殺しの罪でな。本人もその罪を認めていたということだぞ? もしあれがユリア・ランダースだということであれば、もともと悪魔だったということか? 業火に焼かれても生きている、それを悪魔と言わずになんというんだ? 悪魔であることの証拠ではないのか? 早馬を出せ! ヘブンリー公爵様と国王様にこの事実を伝えるのだ!」

「し、しかし」


 騎士団長は、言いよどむ。ユリアは自分にとっても憧れであった。恋愛感情ではない、純粋な騎士としての憧れ。


「命令だ。急げ」


 しかしながら、命令されてしまっては仕方がなかった。


「承知しました。今すぐ」


 騎士団長は、早馬を出すよう、騎士達に指示した。




 マイナンの街の外で待っていた優香達にブリジット達が合流する。


「ブリジット、遅かったね」

「すみません。ちょっと伯爵に呼ばれて稽古をつけていました」


 その後ろでリーシャがうんうん、と頷いている。


「何かあった?」


 ブリジットは、伯爵邸であったことをすべて話した。


「うーん。悪魔かー。そう言われちゃったか」


 優香は腕を組んで悩む。


「そうね。そうじゃないって証明はできないもんね」


 恵理子も否定はしたくとも悪魔ではないということの証拠となる物は何もない。


「まあ、僕らは何か悪いことをするつもりじゃないし、していないし、そんなことでは有名にはならないと思いたいけど」

「でもクサナギが力をつけているのも事実だわ。多分、リオル達魔族、高位魔族が味方をしてくれるというのもその一つかもしれないし」


 リーシャが同意の頷きをする。


「まあ、タロとジロを隠せるものでもないし、隠したいとも思っていないし、悪いことをするわけでもないから、堂々としていようか」

「それしかないわね」


 優香と恵理子はそのようにふるまうことに決めた。

 クサナギ一行はとりあえず、馬車を回収したことだし、ヘブンリー公爵領を目指す。




 ヘブンリー公爵領領都へと近づくが、雰囲気がいつもと違う。ヘブンリー公爵領は公爵領なだけあって、それなりにいつもにぎわっている。

 しかしながら、今は周りに誰もいない。街道にも誰もいない。


「こんなに人がいないってことある?」


 恵理子が不思議がる。


「そうだよね。普段は商人さんとか、畑を管理する農家さんとかいるけど、全然見ないね」


 と、一行は領都に近づいて行くが、誰にも会わない。


 ついに、領都の城壁、門にまで近づく。

 が、しかし。城壁の上に集まっている弓兵達。弓の先端がこちらに向いている。


「これは、やばいのかな?」


 優香が恵理子に対してつぶやく。


「うん。やばい奴だと思う。どうする?」


 タロとジロを止め、馬車を止め、皆で顔を見合わせる。

 すると、城壁の上に中年の貴族が立ち上がる。ヘブンリー公爵だ。


「貴様らが、我が息子を陥れた悪魔か!」


 優香と恵理子は顔を見合わせ、相談する。


「えっと、ヒックリだっけ? バカ息子」

「そうそう、ヴェルダとメリッサをさらった」

「息子もバカなら親もバカだったか」

「親バカの典型ね」

「だけどどうする? 完全に悪魔扱いだけど」

「うん。これ、誤解を解かないと、アストレイア王国全体的に敵に回しちゃう可能性があるわよね」

「でも、誤解を解く方法が無くない?」

「ないわね。バカ息子が悪いって言っても、信じてもらえないだろうし」


 ヘブンリー公爵から再び声がかかる。


「我が軍が貴様ら悪魔どもを討伐してくれるわ。門を開けよ!」


 門から馬に乗った騎士が数百を超えて出てくる。その後から数千の歩兵が続く。

 騎士が横に並び、その後ろに歩兵が列をなす。

 そして、その前に馬に乗った公爵が出てくる。

 冒険者パーティクサナギ側は、リーシャとブリジット、ネフェリとリピーが先頭に並び、その後ろにミリー隊六名、オリティエ隊六名が陣取る。優香と恵理子を守るように。


「なるべくなら平穏に終わらせたいんだけど」

「そうよね。でも、もう、一触即発よね」

「前提として、うちの家族は誰一人として傷つけない。そのうえで、相手もなるべく殺さないように」

「そんな難しいことをできると思って?」

「はぁ」


 優香は、公爵軍に向かって歩く。リーシャ達の前にまで出て公爵に向かって叫ぶ。


「おーい、公爵、様。話し合いで解決しないか?」

「悪魔の分際で話し合うだと? そんなことが出来るか! 皆のもの出る! 続け!」


 公爵が優香達に向かって馬を走らせようとする。騎士達も同様だ。歩兵も走り出そうとする。その瞬間。


「待て待て待て! その戦い、待て!」


 と、両者の間に馬に乗って飛び出してきた者がいた。

 さらに、それを追うように、冒険者が百人ほど出てくる。

 その後ろから、走ってくる冒険者ギルド職員達。


「ヘブンリー公爵。この戦い、待ってもらいたい」


 そういうのは、馬に乗ったギルマス。


「ギルマス風情が邪魔をするな!」

「あの者らは冒険者だ。ならば冒険者ギルドが出張るのは当然。貴族だから、国だからと言って、冒険者に対して勝手なことをしていいわけではない。我ら冒険者ギルドは、国に属しているわけではない。全大陸中に広がる、冒険者の集まりだ」

「それがどうした。我が領にギルドをかまえていられるのは、私が許可しているからだろう? 追い出してもいいのだぞ?」

「ギルドを、冒険者を追い出して困るのは、この領の領民達だろう。冒険者は領民の依頼を受けているんだぞ」

「領民から金を奪ってるの間違いじゃないのか?」

「それは領主である公爵だろう。税金が高いって評判だぞ?」

「貴様、言っていいことと悪いことがあるぞ! 冒険者ギルドも冒険者も我が領にはいらん。滅ぼしてくれるわ」


 と、公爵軍と冒険者が向かい合う。数的には完全に公爵軍が有利。その様子を見て、


「ちょっと待ったー」


 と、優香も声を上げる。


「領民を守る貴族と、領民のために働く冒険者と、目的は一緒でしょうに。争ってどうするのさ」


 ギルマスの「誰のせいで……」というつぶやきは聞こえない。


「僕らは、このまま素通りする。だから、争うのはやめろ」

「私はお前達を殺すために軍を出している。それを冒険者風情が邪魔をするというなら、先に叩きのめすのみ。あくまでも目的はお前達だ。覚悟しろ」


 優香と恵理子はこそこそと相談をする。


「あれ、聞いてもらえそうにないわね」

「ね、どうする?」

「相手をする?」

「できれば、無視して欲しいけど」


 優香は、公爵に向かって叫ぶ。


「おーい。見逃してくれないかな。出ないと、牽制するよ」

「何を言っている。殺すと言っているんだこっちは!」

「ギルマス―、帰ってもらっていい?」

「……何しに出てきたんだ、俺達は」


 ギルマスと冒険者はとぼとぼと公爵軍とクサナギの間から移動する。

 優香は、ドラゴン族の二人にお願いをする。


「ネフェリ、リピー、威嚇して」

「「はい」」


 ネフェリとリピーは、ドラゴン形態に戻る。そして飛び上がると、双方、ブレスを領都上空へと撃ちこんだ。


 ドゴーーーーーン!


 空気が、地面が震える。そして、公爵軍の足が完全に止まる。


「よし、今のうちに逃げよう」


 クサナギ一行は、王都に向かって走り出した。



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