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ケル(シン)ベロスは悪魔の従者。なら、それを従えているのは……(優香と恵理子)

 何日もしてマイナンの街にたどり着く。

 しかし、シンベロス二匹を先頭に街に入ったところ、門兵も含め、通りには誰もいなくなった。

 厩舎に行っても、誰も出てきてくれない。

 押し入ることもできずにたたずんでいると、マイナン伯爵を先頭に、数十人の騎士団にかこまれる始末。しかもマイナン伯爵も騎士団もおよび腰でかなり遠巻きに。


「お、おい、お前達。お前達は勇者一行で間違いないか?」


 離れたところから、マイナン伯爵が声をかけてくる。

 そういう聞かれ方をすると、優香と恵理子は、自分達を勇者と認めることになるので、返事がしづらい。


「そうだ。ここに預けた馬車を引き取りに来た」


 ブリジットが優香と恵理子に代わり声を上げる。


「では、その魔獣は、人に害をなさないのだな?」

「勇者様はそんなことはしない」

「では、申し訳ないんだが、その魔獣を街の外に出してくれないか。領民が皆おびえてしまう」


 タロもジロも「へっへっへ」と舌を出していて、決して威圧的な様子はとっていない。ただの犬である。ただし、首が三つ無ければ、五メートルと大きくなければ。

 優香は、「はぁ」と、ため息をついて。


「ブリジット。ミリー達と馬車を引き取って来て。僕らは先に街を出ているから。それから、ミリー、旅に必要なものの補充をお願い」

「「はい」」

「ヨーゼフとラッシーも一緒に行こう」

「「わふ」」


 優香と恵理子は、ネフェリとリピーと一緒に街を出た。




「もう街に入れなくなっちゃうかしら」


 恵理子が頬に手を当てつぶやく。


「そうかもね。この子達が害をなさないってことをみんなに理解してもらう必要があるけど、それをどうやって証明したらいいか」

「そうよね。街に入れてくれなくなっちゃったら、危害を加えないってことも、証明しづらいものね」


 これまでヨーゼフとラッシーは馬車の中に入れていたり、そこまで大きくなかったりで、問題視されることはなかった。実際にはあったのかもしれないが。

 だが、シンベロスは五メートル級。隠すわけにはいかない。

 そんな空気を察してか、


「「キュウン」」


 タロとジロが寂し気な声を上げる。


「タロ、ジロ、心配しなくていいよ。二人とも私達の家族なんだから」


 と、優香と恵理子は二匹をわしゃわしゃしてやる。




 街の外でしばらく待っていると、キザクラ商会の職員が一人、優香達の方へと駆けてきた。キザクラ商会の職員かどうかは、その制服でわかる。


「勇者様!」

「えっと、キザクラ商会の方ですよね。どうされました?」

「はい、会長の奥様であられるライラ様より伝言を承っております」

「伝言? あれ、ブリジット達が商会に買い出しに行っているはずだし、伝えてくれればよかったのに」

「はい。ブリジット様方は、領主に説明をすると、領主の館へ行かれてしまいまして。それで私が来た次第です」

「えっと、ブリジットがそうしろと言ったの?」

「はい」

「まあいいや、伝言を先にお願い」

「はい。「アストレイア王都の支店に馬車を用意しておくので今後使うように」とのことでした」

「わかった。王都の商会に行ってみるよ」

「よろしくお願いします」


 と、キザクラ商会職員はそれだけ言って帰って行った。


「それより、ブリジット達だけど。ちゃんと帰って来るよね」

「伝言くらい受けて戻ってくればいいのに」

「リーシャも一緒にいるから大丈夫だと思うけどね」

「リーシャが余計なことを言っていなければいいのだけど」




 マイナン伯爵邸。


「話をするなら応接室とかせめて会議室に通してほしかったんだが、何で訓練場なんだ?」


 ブリジットは、仮面の下で怪訝な表情を浮かべながら、数メートルの距離を置いて対峙するマイナン伯爵に言う。


「お前達はいったい何者なんだ?」

「ただの冒険者パーティだ。パーティ名はクサナギ。知っているだろう?」

「それだ、その口調。お前達は伯爵である私に対してもその口調。貴族を何だと思っている?」


 ブリジットは元王国騎士団長である。

 確かに貴族は守る対象だった。しかし、守る対象と言うことは、自分より強いわけもなく、また、その役職柄、口調はいつもそんなものだった。一方のマイナン伯爵も、悪魔の従者だけでなく、勇者もドラゴン族も街から出たことにより、態度が大きくなっている。


「口調については気にしないで欲しい。いつもこんなもんなんだ。だが、我らは冒険者。誰にもへりくだる気はない」

「冒険者? 確かに冒険者登録をして冒険者をしているのかもしれないが、その狙いはなんだ?」

「我らの狙い? 我らはタカヒロ様とマオ様に付き従うのみ。お二人の目的は人捜しだ。決して国と敵対する気はない」

「確かに二度のサウザナイト、サザンナイト遠征では、マティルダ王女殿下の護衛を務めたと聞いている。しかし、二度目の時は、ドラゴンを使って両者を引かせただけ、とも聞いている。我が国に敵対しないのであれば、サザンナイト軍を殲滅しなかったのはなぜだ?」


 帝都で皇帝の手首を吹っ飛ばして、ドラゴンを開放したことは知られていない。


「それにその時は、魔族をも率いていたと聞いているぞ」


 マイナン伯爵の言葉にリーシャがこぶしを握る。

 それに気づいたブリジットは、左手をそっと出して、リーシャをたしなめる。


「勘違いしているかもしれないが、我々は、どこの国の味方をしているわけでもなければ、むやみに人を殺したいと思っているわけでもない。死人が少なくなるのであれば両者を引かせるというその選択をしてもいいだろう。マティルダ王女殿下の護衛も、単なる冒険者ギルドを通じた依頼だしな。それにな、魔族とは協力関係にあるだけだ。サウザナイト遠征の時に奴隷から解放する手伝いをしたからな。協力関係であって、率いているわけではない。それに、あの時もアストレイアに加勢しただろう?」

「魔族は戦が終わった時に、勇者と呼ばれる二人に跪いたと聞いているぞ? お前達は、ドラゴン族も魔族も率いて何をするつもりなんだ?」

「何をと? さっき言っただろう。人探しをしているだけだと」

「さっき連れていた魔獣、あれは、伝説上の魔獣、悪魔の従者であろう? お前達は悪魔なのではないのか? 悪魔の従者を、そして魔族を率いているのがいい証拠だ!」


 ここまで来てマイナン伯爵が剣を抜く。それを見て、騎士団も剣を抜く。


「いったい、どうしたら信じてくれるというのだ? ここには預けた馬車を引き取りにと、物資の補給をするために立ち寄ったのだ。何一つ、この街に害をなしていない」

「我が領民を恐怖に陥れた。それだけで十分だ。お前達! かかれ!」

「「「うぉー」」」


 マイナン伯爵を先頭に、数十の騎士がブリジットに襲い掛かる。


「ブリジットどうする?」


 リーシャがブリジットに声をかける。


「下がっていてほしい。私一人で、こいつらに稽古をつける」


 そう言って、ブリジットは剣を抜く。


 マイナン伯爵をはじめ騎士達が猫耳仮面メイドに次から次へと切りかかる。

 しかし、ブリジットはそれを一つずつ、踊るように受け流していく。

 たとえ数十も騎士達がいるとしても、ブリジットを殺すために集中して挑んでいるにもかかわらず、そのすべてが華麗に受け流されてしまえば、圧倒的な実力差を実感して次第に気力がなえてきてしまう。


「お前達! 手を休めるな。殺せ!」


 一番初めに実力差を感じ取って剣をふるうことをやめた伯爵が声を上げる。しかし、騎士達も同様である。これだけの人数で襲い掛かっても、相手は全く動じなければ、呼吸も乱していない。まさに悪魔である。騎士達の手が止まる。ただ、騎士団長だけは、


「あの剣技は……」


 と、何かを思い出したかのようにつぶやく。


「もう終わりか?」


 ブリジットが剣を肩にかけて声をかける。


「あ、あなた様は?」


 騎士団長がブリジットに名を聞く。


「私か? 私は勇者様の従者、ブリジットだ」


 ブリジットはそう名乗り、そして、もう誰もかかってこないことを確認する。


「リーシャ、行こうか。勇者様方が待っている」

「はーい。みんな行こうか」


 ブリジットとリーシャ、そしてミリー達は、伯爵邸の訓練場を後にした。


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