おりひめとこはる登場(優香と恵理子)
麓にたどり着き、森を抜け、そして、屋敷へと行く。
「「……」」
屋敷は確かにそこあった。
しかし、かつて野菜などを栽培した畑はもうない。飼育していた動物ももういない。
ただただ、誰も住まなくなった屋敷がそこにあるだけだった。
「アンヌさんやサーナさん、ユーリさんもいないのかな」
「いなさそうね。と言うより、しばらく誰も住んでいないみたい」
優香と恵理子は、無駄足だったか、と、顔を合わせてお互いに残念な顔をする。
しかし、ここまで来てしまった以上、今日は、屋敷の中で泊まりたい。
トントントントン
優香が玄関ドアをノックしてみる。
だが、屋敷の中では、物音ひとつしない。
「うーん」
と、優香が首をかしげる。
「開いてないかしら」
と、恵理子がノブに手を伸ばし、ひねる。が、当然のように、カギがかかっている。
「ねえ、どうするの?」
リーシャが二人に尋ねる。
「どうしよっか」
と、優香が腕を組んで悩み始めたところで、ようやく、屋敷の中から音がした。
ドタドタドタドタ
バタン
「いったーい」
「ほら、サーナ、早く立って」
ドタドタドタ
足音が近づいてくる。そして、玄関扉の裏で足音が止まったと思ったら、
ガチャ
っと音がして、玄関扉が開いた。
「優香様、恵理子様、おかえりなさいませ」
「長旅お疲れさまでした」
アンヌとサーナが、何とか息を整えて、何事もなかったかのように挨拶をする。
「アンヌさん、サーナさん! お久しぶりです!」
「お二人に会えてうれしいです」
優香と恵理子はそれぞれ、二人の手を取って再会を喜ぶ。
そうしていると、他のメイド、チーコ達が現れ、少しずつ優香と恵理子を迎えるメイドが増えていく。
「さあ、お疲れでしょう。とりあえず、中にお入りください。皆さまもどうぞ」
と、リーシャやブリジット達をも中へと招き入れる。
優香達は、人数も人数なので、とりあえず、食堂へと案内された。
「えっと、優香様に恵理子様。本日は、お戻りになられて、今後はここにお住まいになられるということでしょうか? 突然のことでしたので、私どもも準備ができておりません。今日の夕食すら遅くなることをご容赦ください」
「アンヌさん。ありがとう。夕食が遅れるのはいいよ。僕らも何の連絡もしなかったから」
「皆さん、こちらにずっと住まわれていたのですね。畑が荒れていたから、ちょっと心配したんですけど」
「あ、え、ええ。そうです。ここに住んでいました。畑はあくまでもお二人の教育目的でしたので、用が済んだ後は、かたづけてしまいました」
恵理子の質問に、サーナがこの件について回答する。
「それで……」
と、アンヌが話を戻す。
「あ、ごめん、アンヌさん。僕ら、当初の目的通り、旅に出ようと思っているんだけど。って言うか、正しくは、行って戻って来たんだけど。それには理由があって」
「ここを出るときに、アンヌさん達が私達にヨーゼフとラッシーをくださったじゃないですか。ヨーゼフとラッシーは私達を乗っけて走ってくれて、とても助かったんです」
「で、その時に、アンヌさん、ヨーゼフ達が小型に改良されたって言っていましたよね?」
優香と恵理子が順番にここへ来た理由を話す。
「「……?」」
言ったかしら、とアンヌもサーナも首をかしげる。
「僕達の仲間、家族に、ドラゴン族が二人加わってくれたんです。一緒に旅をしたいんです。それで、二人の移動用に大きなケルベロスはいないだろうかと、聞きに来ました。たしか、こはる母様はパパと一緒に旅をしているんですよね? その時はどうしているんですか?」
「こはる様はケルベロスに乗って移動していたと聞いておりますが」
「やっぱり。ヨーゼフとラッシーも大きくならないかしら?」
「「え?」」
「「わふ?」」
「えっと、それは難しいかと思います」
「そうですよね。残念です」
恵理子の思い付き発言に唖然とするアンヌとサーナ、ヨーゼフ達をよそ目に、恵理子が残念がる。
「他の方法を考えなくちゃね」
優香は恵理子の肩に手を添える。
「お力になれず、申し訳ありません」
がっかりした二人に、アンナが頭を下げる。
「ところで、お食事まで、お風呂でもいかがですか?」
サーナが入浴を進めてきた。
「ありがとうございます。それでは皆でいただきます」
皆はあてがわれた部屋に荷物を置いて、風呂に入った。
「すまない。私達の足のために。だが、私達は歩きでもいいんだぞ。歩くのに疲れたら飛べばいいしな」
ネフェリが優香と恵理子の気づかいに感謝する。
「飛ぶって、ドラゴン形態になるってことでしょ?」
優香が確認をする。一応。
「そうだが」
「パニックになるよね?」
ドラゴン族が飛んだらどうなるか、恵理子が想像する。
「人が、と言うことか?」
「そうよ」
「だが、メイド服と猫耳を渡された時点で、私達はすでに脳内がパニックなのだ。それくらいいいのではないか?」
「「……ごめんなさい」」
リーシャやブリジットがやったことだが、一応、優香と恵理子は謝っておく。
「嫌なら断っていいのよ?」
「いや、この軍隊の制服だというのなら着よう」
「冒険者パーティね」
軍隊ではない。恵理子が訂正する。
「でも、最悪ずっと歩くことになっちゃうわね。申し訳ないけど」
「いいと言っている。体力的にも我らは人間を大きく上回るからな」
「ありがとう。その時はまた何か考えるわ」
この日は、夕食を取って就寝した。
翌日、朝食後。
ザワザワ
跳ねるように立ち上がったネフェリとリピーが優香と恵理子の前で構える。
その周りをミリー達が囲み、その最前線にリーシャとブリジットがそれぞれ剣をかまえる。
ここは、食堂だ。
廊下から、何かが来る。殺気をまとった何かが。
バンッ!
と、食堂のドアが開いた瞬間、クサナギのメンバー全員が身構える。しかし、
「「おりひめ母様、こはる母様」」
と、明るい声をあげる優香と恵理子。
「「「は?」」」
と、警戒を解くことはできないが、二人の反応に戸惑うメンバー。
「みんな、母様達だから、心配しなくていい。楽にして」
という優香の言葉に、二人を除いたメンバーが剣を、ナイフをしまう。
しかし、緊張を解けない二人。ネフェリとリピー。
二人にはおりひめとこはるからピンポイントで殺気を当てられている。
「お前達が優香と恵理子を守ってくれているのか?」
おりひめがネフェリに問う。
「この二人に助けられた。この二人が命をまっとうするまで付き従い、守ると誓った」
「そうか。お前達、緑ドラゴン族だな」
と、おりひめが言った瞬間、おりひめとこはるが消える。
ドゴーン! パリン!
おりひめとこはるにより、ネフェリとリピーが殴り飛ばされ、ガラスを破って外に強制的に出されてしまう。
それをおりひめとこはるが追いかける。
「ちょっとちょっと、お母様!」
庭を覗くと、おりひめがネフェリと、こはるがリピーと対峙していた。




