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旅の準備と王女の願い(優香と恵理子)

 馬車の中でマティが苦い顔をする。


「どうしたんだ、マティ」


 そんなマティにブリジットが声をかける。


「ブリジット。今回の戦争だけど、サザンナイトから二体のドラゴンを開放しただけなの。それ以外は、どちらも勝っていないし負けてもいない。こちらとしては、ただただドラゴンの威光を使って相手を退けたに過ぎない。しかも、これは、アストレイアの力じゃない」

「そうだな。その通りだ」

「ねえ、ブリジット、勇者様達は旅に出るのよね? あなたも一緒に」

「ああ。ついて行く」

「勇者様達は決してアストレイアの戦力じゃない。勇者様達が旅に出ている間に攻められたら、もうアストレイアはだめかもしれない」

「だけど、ネフェリとリピーは一応牽制をしてくれただろう」

「あのドラゴン族の二人がなんて言ったか覚えてる? 「この二人に逆らってみろ。確実に消し炭にしてやる」よ。我が国にじゃないの。そんな牽制が何の意味を成すの?」

「じゃあ、どうする?」

「ノーレライツと手を組む、さらに東の諸国とも手を組んでサザンナイトを包囲する。それしか……ブリジット、あなたは残ってくれないのよね?」

「この国で、私は死んだから」

「クッ」


 と、マティは唇をかむ。どうしても解決策が思い浮かばない。かといって、目的のある勇者達に残ってくれとは言えない。

 そんな悶々とした日々が続く。




 マティ率いるアストレイア軍は、三日かけて王都に戻った。


 アストレイア軍がサザンナイト軍を追い返したことは、国内ですぐに話題になった。ドラゴンを従えた二人の勇者が活躍したことも。

 これにより、アストレイア王国において、プラチナランク冒険者パーティクサナギの名と、タカヒロおよびマオの名前はさらに広く知れ渡ることになる。


 恵理子と優香が今後の相談をする。


「この国で、私達の名前を売ることには成功したと思うんだけど」

「そうね。思ったより早く売れちゃったわね。勇者ってのはちょっと言われすぎだけど」

「あははは、ほんとに。でも、あの子達が私達の名前を聞いたら、捜しに来てくれるかしら」

「きっと来てくれると思うわよ。特に千里ちゃんなんて猛ダッシュで」

「それで私達だったら、がっかりするかしら」

「そうかもしれないわね。でも、誰が私達のところに来てくれても、残りのメンバーを一緒に探しに行きたいわ」

「みんな、どうしているのかな。ばらばらかな。もう集まっているかな」

「どうかしらね。私達も、旅の準備を始めましょうか」

「一つだけ、心配があるんだけど」

「何?」

「ネフェリとリピーの乗れる馬車がないの」

「……」

「どうしたらいいかしら」

「ずっと歩いてもらうわけにもね」

「あのね、ヨーゼフとラッシーをもらった時のこと、覚えてる?」

「アンヌさんとサーナさんのこと?」

「うん。あの時さ、ヨーゼフとラッシーのこと、小型化したって、言っていたよね。ってことは、大型のケルベロスもいるってことかしら」

「確かに小型化したケルベロスがヨーゼフサイズだとしても、元がどのくらい大きいかなんてわからないわよ」

「一度、戻ってみない?」

「あの屋敷に?」

「うん。何かヒントが見つからないかなって。もしかしたら、パパにコンタクトが取れるかもしれないし。パパなら何かいいアイデアがあるかもしれない」

「一度戻ってみましょうか。急がばまわれよね」

「うん」

 



 二人は、育った屋敷に一度戻ることを決意する。


「ねえみんな。十日後に旅に出ます。とはいえ、ミリー達は戻ることになっちゃうんだけど。いったん西に向かって、私達が十六まで育った屋敷に行こうと思うの」


 恵理子が皆に伝える。


「お二人が育った場所ですか?」


 ミリー達十二人が目をキラキラさせる。勇者である優香と恵理子が育った地である。興味がないわけがない。


「そう。西の山脈を超えたその先なんだけどね」

「馬車ですか?」


 ミリーが聞く。


「マイナン伯爵領まではそうしようかと思うんだけど。馬車で森を越えることが出来ないから、どこかで馬達を見てもらわないとね」


 これには優香が答える。


「そういうわけだから、リシェル、ローデリカ、お願いね。いろいろと買いそろえてね。特に、ネフェリとリピーの着替えとかね」

「はい。それでは、ネフェリ様とリピー様を連れて、キザクラ商会へ行ってきます」

「よろしく。ネフェリとリピーもお願いね」

「「はい……」」


 恵理子の指示にミリー達が動き出し、クサナギのメンバー達は、旅の準備を進める。


 一方で、毎日やって来ては懇願する者もいる。


「お願い。この国に残ってください」


 マティだ。


「マティも知っているでしょ? 私達には目的があるって」


 その一方的な依頼には恵理子が対応する。


「知っています。知っていますとも。人捜しですよね。そっちの方は、私達がやりますから、どうか、残ってもらえませんか?」

「マティの方で情報収集するって、どうするつもり?」

「大陸中に諜報を、諜報を派遣して情報を集めますから」

「マティ、私達は国に仕えているんじゃない。冒険者パーティなんだ」


 ブリジットがマティに自分達の立場を改めて説明する。もちろん、マティもわかっている。


「だって、だって、前帝国を滅ぼすきっかけを作ったのも、今回の騒動の結果も、全部……」


 バチン!


 ブリジットがマティの前に高速で移動して、マティのほほをたたいた。


「え?」


 マティが目を見開き、ほほを抑えてブリジットを見る。


「それ以上言うな。それ以上言ったら、私は二度とこの国には戻らん。もういいだろう。帰れ」


 ブリジットは、マティの襟首をつかんで立たせてしまう。そして、玄関へと引っ張っていく。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。そんな、そういうつもりじゃ、ごめんなさい……」


 マティは泣きながら引きずられていく。そして、玄関の外にポイっと捨てられた。


「「マティルダ様―」」


 お付きが慌てて出ていく。

 マティのお付きが全員家から出て行ったのを確認し、ブリジットは玄関をぱたんと閉めてしまった。


「ブリジット、ありがとう」


 優香はブリジットにお礼を言う。

 ブリジットは、いつもとちがうかしこまったかのような敬語を使って優香に答える。


「いえ。私達は冒険者。自由であるべきです。特に私達クサナギは、お二人の目的を果たすことを第一に行動します。国の都合に振り回されるべきではありません」

「ブリジットはそれでいいの? 個人の考えを曲げなくてもいいと思うし、それを否定したりもしないわよ」


 恵理子がブリジットに改めて聞く。


「はい。私はお二人に付き従い、お二人の目的を果たすことを使命としておりますので」

「もう。自分の意思を尊重していいのよ。嬉しいけどね」

「お二人に命を救っていただいた私の意思です」

「ブリジット、ありがとう」


 優香も恵理子もブリジットに感謝する。


「さあ、出発の用意をしよう。出発は明日だ」




 翌朝、家を出て西門へと向かう。馬車は二台。馬車に乗る者、横を、後ろを歩く者。全十八名、プラス二匹のケルベロス。大所帯である。早朝に出ないと目立って仕方がない。

 冒険者ギルドへは昨日のうちに連絡をしてある。何か伝言があったら聞いておいてほしいということを伝え、それから、改めて貴博や真央、千里と桃香が来た時のために、貼り紙をしてもらう。この四人が来たら、家を使ってほしいと鍵もギルドに預けた。



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