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ドラゴン族を従えし勇者、タカヒロとマオ(優香と恵理子)

 リピーと母は、戦場へと飛ぶ。

 両国の国境では、両軍が入り乱れての戦闘を行っていた。

 その上空を旋回する二体のドラゴン。


「二人とも、許す。背に立て」


 と、母ドラゴンが言うので、優香も恵理子もドラゴンの背に立つ。


 すると、リピーとその母は背中合わせとなり宙に浮いたまま、リピーは王国の王都の方角へ、母は帝国の帝都の方角へとブレスを撃った。


 ドゴーーーーン!


 戦場全体で空気が揺れる。戦場で戦っていた兵士も魔族も皆、動きを止め、上空を見る。

 上空には、二体のドラゴンとその背に立つ二人。

 さらに、超高速で十数のドラゴンが飛んできて、二体を中心にホバリングする。


「聞け! 今すぐ戦をやめ、両軍引け」

「でなければ、我々がこの二人の名のもとにお前達の相手をする」


 優香と恵理子は、冷や汗を流す。私達の名のもとにドラゴンが暴れると?

 しかし、地上からは、そう見える。十数のドラゴン達の中央に飛ぶ、そのドラゴンの背で優香と恵理子は腕を組んで立っているのだ。


 両軍は慌ててそれぞれの陣へと戻っていく。

 しかし、逆に中央へと走っていく者達もいる。

 ミリー達だ。

 ミリー達は、両軍の真ん中、ドラゴン族が舞うその真下にきて膝をつき、両手を組んで祈るような格好をし、


「「「勇者様!」」」


 と、叫んだ。そう。彼女らにとって優香達はもとから勇者だった。

 その言葉は、両軍の中へ浸透していく。


「勇者?」

「勇者だと?」

「あれが勇者か?」

「バカ、勇者様だ!」

「勇者様!」

「勇者様!」

「勇者様―!」


 完全に戦闘が終了し、両軍が空を見上げる中、二体のドラゴンを残して他のドラゴン達は遠く東に離れた山脈の方へと飛んで帰っていく。

 残った二体は、低くまで降りてくると人型に変わる。それと同時に、優香と恵理子も地上に降り立つ。


「ミリー、ただいま」

「あぁ、勇者様、勇者優香様、勇者恵理子様」


 ミリー達十二人が手を合わせる。


「ミリー、今はちょっとあれだから、後にしてくれる?」

「はい! 勇者様!」


 はふ、と、優香がため息をつく。


 すると突然、リピーの母が帝国軍に向かって叫ぶ。


「貴様らが私達にした仕打ちは忘れん。だが、今すぐにはお前達を滅ぼすのをやめておいてやる。ただし、今後、この二人に逆らってみろ。確実に消し炭にしてやるからな。わかったら国に帰れ!」


 帝国軍は、クモの子を散らすように走って帝国へと帰っていく。

 優香は思う。この二人に逆らったらのこの二人って、私達だよね、と。


「リピー、そして、リピーのお母様。今日はありがとうございました。おかげで、被害は両軍最小限にとどめられたと思います」

「何を言っている。助けられたのはこっちの方だろう。ありがとう。感謝する」

「いえ、助けになれたのなら、こちらもうれしいです」

「お二人はこの後、ドラゴンの里に帰られるのですか?」


 リピーは母親と顔を見合わせる。


「いや、お前達について行く」

「え?」

「さっき言っただろう。お前達に逆らうものは消し炭にすると。それに、我々の寿命は長い。お前達が死ぬまでくらい、付き合ってやれる」

「ですが、さっきのドラゴン達は?」

「あれは里の者だ。奴隷になっていた間は迷惑をかけるといけないと、連絡を絶っていたが、こっちに来るまでの間に念話で呼んだ。あの者達もお前達の力になろう」


 その会話を、ミリー達は、目を輝かせて聞いている。


「ドラゴン族を従えし勇者様」

「いやいやミリー、ドラゴン族を従えるなんて恐れ多いから」

「いや、それでいいぞ。私達はお前達に助けられた。喜んで従おう。名乗るのが遅くなった。私はネフェリだ。ご主人様は、優香様と恵理子様でよろしいか?」

「……身内ではそれで。外では私はタカヒロと。こっちはマオと呼んでほしい」

「事情があるのだな。わかった。ここではタカヒロ様、マオ様と呼ぼう」

「えっと、確認ですが、本当にいいのです?」

「嫌なのか?」

「いえいえ、滅相もない。他にも二人メンバーがいるから後で紹介するね」

「うむ。わかった」


 すると、突然、


 キーン!


 と、空気を切り裂くような音。そこに現れたのは、赤いドラゴン。

 そして、人型になって降り立つ。


「「あっ」」


 優香と恵理子が気づく。赤いストレートの髪、ワンピース、焼けた肌。山脈の山頂で出会った女性だ。


「おい、ネフェリ、久しぶりに出てきたと思ったら、私が面白そうだと思って見ていた人間になにちょっかいをかけているんだ?」

「久しぶりだな、ルビー。私ら親子はこの二人に助けられた。だから、この二人が生きている間くらいは、私らが助けになろうとな」

「その二人はな、小さい時からずっと私が見てきたんだ。独占しようと思うなよ」

「そうか、お前が目にかけるような人間なのか。それは楽しみだ」

「ちっ、今は預けておいてやる。いずれ返せよ」

「何言っているんだ。さっき言っただろう? この者達が死ぬまで付き合うと。それに、私達が預かるんじゃない。私達が付き従うんだ。上下を間違えるな」

「……マジで?」

「マジで」

「あはははは。そうか。まあいい。いずれまた会おう」


 赤ドラゴンルビーは、再びドラゴン形態に戻ると、西の山脈目指して飛び去った。

 ミリー達はさらに目をキラキラさせる。


「えっと、ネフェリ、リピー、戻るよ」

「「はい。我がご主人様! 勇者様!」」

「「……」」




 優香と恵理子は、二人のドラゴン族とミリー達を従えて、王国軍へと戻る。

 二人が本陣へと歩いて行くと、ネフェリとリピー、そしてミリー達がついてくる。騎士、兵士.達は左右に別れて、そして、膝をつく。

 優香と恵理子は、いたたまれない感情でいっぱいになりながら、マティの前までやってくる。


「マティ、まず、あれ、やめさせてくれる? 騎士も兵士も私達の部下じゃないんだから」


 優香がマティにお願いをする。なんとかしてと。


「私もひざまずきたいくらい慄いているのですが。わかりました。マークス、隊列を整えて砦へ帰還しなさい」

「はい。かしこまりました」


 マークスが飛び出して行く。

 そこへ、リオルがやってくる。


「リオルもお疲れ様でした。来てくれてありがとう」


 恵理子がリオルをねぎらう。


「いえいえ、お二人のためなら私どももいつでも駆けつけます」


 と、リオルまでが膝をつく。


「えっと、リオル?」


 恵理子が疑問の声を上げる。


「ドラゴン族を従えたということは、我々魔族も従うべきかと。そういうわけですから、忠誠の証として、リーシャをお受け取りください」

「あの、リーシャは物じゃないんだけど」

「そう言っていただけるだけ、リーシャはなんと幸せ者なのでしょう」

「リオル、元に戻って。気持ち悪いから」

「ですが」

「じゃないと、魔族、滅ぼすよ」

「……わかった。いいのか本当にこんな感じで」

「もちろん。リーシャの兄上だしね」

「と言うわけで、皆に紹介するね。今日から仲間になったネフェリとリピー」


 代わって優香がネフェリとリピーを紹介する。


「「どうぞ、よろしくお願いいたします」」


 優香が、ふっと、肩の力を抜く。


「えっと、マティ、僕らもう休んでいいよね。疲れちゃった」

「あ、はい。後は、私達のことですので」

「それじゃ、私も休ませてもらうわ。みんな、砦に戻りましょう」


 恵理子もほぼほぼ魔力を使い果たしており、体力的にも限界が近い。


「「「はい」」」


 優香と恵理子は馬車に乗り込む。ネフェリとリピーは馬車に乗ろうとして、止められた。馬車が動かなくなると。

 



 砦に到着すると、優香と恵理子は与えられた部屋に入り、寝入ってしまった。

 その脇で二人を守るように立つネフェリとリピー。その二人に声をかけるメイドがいる。

 リーシャは二人に手でちょいちょいと呼びよせる。

 二人は、リーシャに呼ばれるままに廊下に出る。


「挨拶が遅れたわね。私はリーシャ。こっちはブリジット。後ろに立っているメイド達はミリーとオリティエと……」


 リーシャはそれぞれを紹介していく。そして、


「ようこそクサナギへ。私達はみんな家族だよ」

「だから、交代で見よう」


 ブリジットも優香と恵理子の護衛は皆でやろうと提案する。


「とりあえず、今はお願いするわ。後で交代ね」

「「はい」」


 リーシャの提案に、ネフェリとリピーは口角を上げ、うれしさを表す。




 サザンナイト帝国、帝城


「あいつら、絶対に許さない。ドラゴン族もアストレイアも……何よりクサナギ!」


 左手首を失った皇帝は、右手で顔を抑える。その奥で、両目が赤く光る……




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