「おっも!」「女性に対して重いとはなんという恥を!」(優香と恵理子)
優香は手を止めない。
位置の下がった女性の顔に右のこぶしを撃ちこむ。が、そのこぶしをつかまれ、投げられる。しかも、手を離さずに。こはる母様によくやられたあれ。背中から地面にたたきつけられる。
「グッ」
優香は、何とか体をひねって立ち上がる。
「残念。あなたの方が魔力が多そう」
優香が魔力量の分析結果を告げる。
「はっ、ドラゴン族をなめるなよ」
優香はマイナス距離魔法を試したが、発動しなかった。そのため、ゼロ距離を使っているのだ。
とはいえ、一度使ってしまえば、魔力を感知され、よけられてしまう。
しかし、優香は手も足も魔法も止めない。ゼロ距離ファイアランスを撃ちこんではよけさせ、そこにこぶしを撃ちこむ。しかし、それすらガードされる。
こうなると、不利なのは、身体能力で劣る優香だ。
少しずつ、女性のこぶしも蹴りも当てられ、何とか致命的なダメージは避けるものの、優香は蹴り殴り飛ばされては体力が削られる。
「はぁはぁ。久しぶりだよ、こんな風に死を覚悟するのは」
「あはははは、私とここまで張り合った人間はいないぞ。誇るがいい。すぐに死ぬがな」
次の瞬間、女性は高速のスピードで踏み込み、優香の腹にこぶしを撃ちこんだ。
「グハッ!」
優香が崩れ落ちる。そこへ、
「リリース!」
恵理子が声を上げる。その次の瞬間には、女性の首から奴隷の首輪がゴトッと、落ちた。
「はっ? 何をした?」
女性が恵理子に視線を向ける。
「ちょっとしんどい。この距離を魔力飛ばすの」
そう言って、恵理子が膝をつく。
「まさか、あの指輪にまで魔力を飛ばしたのか?」
「そうよ。魔力は多い少ないも重要だけど、いかに操作するかも大事なのよ」
恵理子は、よろよろと立ち上がり、
「さ、魔力はもうあんまりないけど、まだ戦えるわよ。今度は私の番。よくも私の旦那をぼこぼこにしてくれたわね。覚悟なさい」
と、こぶし上げ、かまえる。お玉はしまって。
優香も、
「まだ終わってない」
と、立ち上がった。
「お前達、それ、もう一度できるのか?」
「私は無理よ。もう魔力がない」
「僕は距離次第だな」
「わかった」
女性は突然、ドラゴン形態になる。
「げ、さすがにこれは無理じゃないかな」
優香が引く。
「でも、やらないとまずいよね」
恵理子が構える。
「お前達、背中に乗れ」
「「え?」」
「頼む、帝都の城に飛ぶ。もし、母上とその契約者が出てきたら、さっきのを頼む」
優香と恵理子は顔を見合わせ、そしてうなずき、ドラゴンの背中へと飛び乗った。
ドラゴンは二人を乗せたまま舞い上がり、そして、帝都の城へと高速で飛んだ。
「な、何が?」
優香達とドラゴン族の女性との戦いを見ていた帝国の将軍が叫ぶ。
「首輪が外れたというのか? なぜだ?」
奴隷の首輪のサイズから、首輪が外れない限りはドラゴン形態にはなれないはずだ。
将軍は、指輪に魔力を流すものの、なにも起こる様子がない。
「ちっ、仕方ない。我らはこのまま進軍!」
将軍の指令により帝国軍三万が進軍を開始した。
それに対し、
「ようやく動いたぜ、ドラゴンもいなくなったことだし、やるぞお前ら!」
と、声を上げるのはリオルだ。リオルは王国軍の先頭に百名の魔族と共に並んで前進する。
そして、両軍は激突する。
「私はリピー。首輪を外してくれてありがとう。だが、母が人質の間は、私はいつ裏切るかわからんぞ。そのうえで頼む。母を助けてほしい」
「あのね、私達じゃあなた一人にもかなわないの。あなたが王国を滅ぼすぞ、って言えば、できちゃうんだろうし、そうなったらあなたを助ける以外の選択肢はないのよ」
「そうかもしれんな。そういうわけだ。よろしく頼む」
「できなかったらごめんね。先にちょっと休ませて。殴られたおなかが痛い」
優香が先に謝る。
「お前、治癒魔法が使えただろう」
「これから大量に使うってのに、先に使っちゃう馬鹿がいる?」
「そうか。すまない」
ドラゴンは帝都の城を目指して飛ぶ。
帝城。
「皇帝陛下、ドラゴンが一体飛んできます」
「な、まさか、あいつか?」
「わかりません。色はグリーン、可能性はあります」
「あれを連れてこい。人質が必要だろう」
リピーは、帝城の周りをぐるりと旋回し、最上階近くのテラスへと降り、人型に戻る。
そこへ出てくる、皇帝と騎士達、そして、一人の女性。奴隷の首輪をつけられている。
リピーと恵理子が一歩前に出て、優香を後ろに隠すように立つ。
すると、皇帝がリピーに話かける。
「リピー、仕事はどうした。王国軍を滅ぼしてくるんじゃなかったのか?」
「ちょっと母様成分を補給しに戻ってきた。母様に触れさせてほしい」
「お前、首輪はどうした?」
「知らない。勝手に落ちた」
「で、そいつらは何者なんだ?」
「さあ。付いてきちゃったからな」
恵理子も時間を稼ぐ。
「お初にお目にかかります。冒険者パーティ、プラチナランクのクサナギ、そのメンバーでプラチナAランクの冒険者、マオと申します。以後お見知りおきを」
「で、そのプラチナAランク冒険者が私に何の用だ?」
「いえね、ドラゴンって、珍しいので会わせてもらいに来ました。そちらのチャイナドレスを着た女性がドラゴン族の方ですね」
「おいリピー、その女を殺せ。殺さないとわかっているんだろうな」
皇帝は、指にはまった指輪を掲げる。
「リピー、ちょっとごめん。作戦変更。場所もわかったし」
優香が立ち上がる。
「さすがにこれだけ距離が近いところまでこられちゃうとさ。マオ! 三、二、一」
ボフッ!
皇帝の手首が吹っ飛ぶ。
恵理子が飛び込んで、皇帝の手首をかっさらう。そして指輪を外し、
「リリース」
と、唱える。
すると、リピーの母の首輪がドゴリと外れる。
あっけにとられたリピーの母を恵理子は抱きかかえ、抱きかかえ、抱きかかえようとして。
「おっも! これ、無理」
「女性に対して重いとはなんという恥を!」
「母様、そんなことで怒っている場合では」
「ああん?」
「母様!」
恵理子はリピーの母親を動かすことをあきらめ、奴隷の首輪を拾って、手首を抑えている皇帝の首にはめてしまう。
「アタッチ」
恵理子は、再び指輪をはめた皇帝の手首をフリフリしながら言う。
「さあ、騎士の皆さん、下がって下がって」
リピーとその母がテラスでドラゴン形態をとる。
「乗れ!」
リピーが声をかけるので、恵理子がリピーに、優香が母に乗った。
二体のドラゴンが宙に舞い上がると、恵理子は、ポイっと、皇帝の手首をほおり投げた。




