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討ち入り(優香と恵理子)

「ちょっとまって、ヴィクトリア」


 優香が止める。


「なんでしょうか。これから緩急をつけた攻撃をと」

「……緩急ね。ごめん。止めちゃって。続けていいから」

「はい、気を取り直して、始めるわよ。よーい、始め!」

「えーい」


 ひょろひょろひょろ、ペシン!


「ちょっと待って、ヴィクトリア」

「二度までも何です?」

「僕に向かって全力で打って来て」

「いいんですか? シュッて行きますよシュッて」


 ヴィクトリアは、木製レイピアをかまえ、そして、


「シュッ!」


 って、口で言った。

 突き出されたレイピアの方は、ペシン、と、優香に手ではたかれた。


「ちょっと、作戦タイム」


 と、優香は、恵理子とリーシャ、ブリジット、そしてオリティエを集め、円陣を組んで相談をする。


「どうする?」

「どうするも何も、基礎からだと」

「体力づくりでは?」

「えっと、間に合う? かたき討ちまでに」

「うーん」


 五人は悩んだ挙句。


「ヴィクトリア、君の特訓はミリーやオリティエ達が順番に行う。とにかく、実践あるのみね。ひたすら剣を振ってほしい」

「はい。頑張ります」


 その素直さが痛い、そう思う優香達であった。

 これにて、ヴィクトリアのファイトアンドヒールが決定した。




 こうして日が過ぎていく。本格的に冬に突入し、雪が高く積み重なる。


 優香達は、他の道場へ行っての情報収集を行ったが、貴博達四人の情報を得ることはできなかった。

 また、第十道場への道場破りも減り、ビルガーの騎士ギスターが来るのと、後は恵理子にリーシャ、ブリジットの小銭稼ぎが毎度あるくらいだった。それでも生活するには十分な金貨がたまる。


 ミリー達も、天気のいい日は狩りに出かけており、これも食材確保や稼ぎにつながっている。




 とある天気のいい日。浴室の入り口に看板が立てかけられる。「夫婦水入らずのため、立ち入り禁止」と。こうすることで、ヴィクトリア一行は入ってこない。これない。


 優香と恵理子は、露天風呂に浸かり、手足を伸ばす。露天風呂の正面は森だが、その向こうには山脈がある。


「この山脈の向こうで十六年も修行をしたのよね」

「こっちに出て来てからまだ一年も経っていないのに、いろんなことがありすぎて、ずっと前のように感じるわ」

「それでまたこの山脈の下に戻ってきちゃって」

「反対側だけどね」

「なかなか遠くへは行けないわね」

「そうよね。この世界、どれくらい広いのかしら」

「あの子達もどこかにいるのよね」

「もしかして、同じ屋敷で修行してるってことは?」

「じゃあ、今一歳くらいってことじゃないの」

「そっか。でも、可能性がないわけじゃないわよね」

「戻ってみる?」

「ううん。先へ進む。絶対に見つけるんだから」

「この山脈の反対側って何があるんです?」


 優香と恵理子がぎょっと振り返る。油断をして気配を感じ取れなかった。

 そこには、頭にタオルをのせたリーシャと、タオルで前を隠したブリジットが露天風呂へと足を踏み入れた。


「リーシャ、前くらい隠しなさいよ」

「いいじゃない、ここには夫婦しかいないんだし」

「リーシャ、夫婦の意味、分かってる?」

「わかっていますよ。心の持ちようです。異性じゃなきゃ夫婦になれないなんて、ナンセンスです。私は、お二人とも大好きですよ」


 恥ずかしげもなく、さらっと言うリーシャ。

 口をあんぐり開けて固まる優香と恵理子。しかし、追加でブリジットも参加する。


「私も、お二人について行くって決めていますから。家族同然です。家族を夫婦って読み替えてもいいんじゃないでしょうか。添い遂げるわけですし」


 それに、とブリジットが追加する。


「ミリー達も同じように思っていますよ。私達は家族です。っていうか、家族にしてくださいね」

「ふふふ、そうよね。家族なんだし、ずっと一緒にいるんだし。定義なんてよくわからないから、家族でも夫婦でもいいわよね」

「そうよね。リーシャ、ブリジット、ありがとう」


 二人がリーシャとブリジットにお礼を言った瞬間、


「「「わー」」」


 と、ミリー達が露天風呂に突入する。すっかり、気配を消すことが得意になったらしい。


「う、うわ。さすがに狭っ!」

「あー、お湯がー」

「「「優香様―、恵理子様―」」」


 さらに我慢できなくなったものが突入する。


「「わふ」」

「きゃー、ヨーゼフにラッシーまで」

「あはははは」

「「「「あははははは」」」」




 ひとしきり笑ったところで、


「ねえみんな。春になったら旅に出よう」

「私達の都合で悪いけど、ついて来て」

「「「「イエス。マイロード!」」」」


 家族みんなでこぶしを高く突き上げた。




 厳しい冬も去り、日差しが暖かくなってきたころ。


「ちょっとギルドへ行った後、道場破りして帰ってくるから、よろしくね、リーシャ」

「はい。いってらっしゃい。ここに来た道場破りの対処はお任せください」


 優香と恵理子が出かけていく。リーシャなら、まっとうな道場破りも、おかしな道場破りも対応可能だ。奥様拳以外。


 朝から、何人かのおかしな方の道場破りをかたづけた後、いつも通り、ギスターとビルガーがやってくる。


「今日は、私がお相手させていただきますが、構いませんか?」


 リーシャが問いかけると、


「構わない。お願いしたい。今日も金貨十枚で頼む」

「わかったわ」


 リーシャとギスターが向かい合っているが、ビルガーはきょろきょろと見回し、壁際にメイドに挟まれて仮面をつけたヴィクトリアがいることを確認し、ニヤリと微笑んだ。


「ところで、今日はお一人ではないのですね」


 リーシャがギスターに聞く。もちろん、ビルガーのことをさしているのではない。


「ああ、主人の都合だ」


 そうギスターが答えた瞬間、


 コン、コン、コン……


 道場の周りにいくつも矢の当たる音がする。そして、匂い、煙。道場の外側が火に包まれる。それと同時に、道場に流れ込んでくる盗賊風の男達が何十人も。


「ミリー、オリティエ、こっちはいい。消火を。メイドはヴィクトリアを守って」

「「「はい」」」


 リーシャの指示にそれぞれが散らばっていく。


「ギスター、その猫を抑えていろ」


 ビルガーはギスターに命じる。


「野郎ども、あいつを捕まえてこい!」


 そういうと、盗賊達はヴィクトリアの方へ向かって走りだす。

 リーシャとギスターは打ち合いを始めているが、ギスターが完全なる時間稼ぎ、受けに撤しており、リーシャは決定打を撃ちこめない。逆に、ヴィクトリアの方へ向かおうとすると、ギスターが切りかかってくる。しかも、ギスターは木剣を捨て、真剣を手にしている。木の槍では完全に不利な状態だ。


「あなた達、逃げなさい」


 ヴィクトリアがメイドに命じる。しかし、メイドは逆に一歩前へと足を踏み出し、両手を広げる。ヴィクトリアのメイドは戦闘訓練など受けていない。

 当然のように盗賊達に吹っ飛ばされるメイド達。


「さあ、こっちに来てもらおうか、お嬢さん」

「あなた達、許しません」


 ヴィクトリアは、隠し武器となっている杖からレイピアを抜く。

 そこへビルガーが前に出てくる。


「お前の剣の腕などたかが知れている。お前に何かできるわけじゃないだろう?」

「試してみるか?」


 と、ヴィクトリアは、ビルガーの後ろに立っている盗賊ののど元を突いてしまう。


「な、なに? お前は本当にヴィクトリアか?」

「あはははは、ばれたか? ヴィクトリア、ビルガーは任せた。盗賊風情は私に任せろ」


 と言うと、道場へと本物のヴィクトリアがでてくる。レイピアをもって。


「ヴィクトリア、道場が燃えているから早めにな」

「はい!」


 ヴィクトリア改めブリジットは、ヴィクトリアのかつらを取り、美しいピンクグレージュの髪をあらわにする。そして、縦横無尽に盗賊の間を駆け抜け、一人、また一人と倒していく。



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