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奥様拳、爆誕(優香と恵理子)

「ねえ、僕の出番なさそうじゃない?」


 優香が愚痴る。


「もう、猫耳仮面鞭使いメイドのブリジットに全部任せようよ。なんであの人吹っ切れてんのよ。朝から飲んでるの? 本当に元騎士団長? マティが見たら絶対に泣くわ」


 リーシャがあきらめる。


「私、肩書変えたい」


 恵理子が体育座りでつぶやいた。


 そこへできるメイド代表ミリーが恵理子に声をかける。


「マオ様、エプロンでございます」

「いらんわー!」

「ですが、この布地は防火防刃性能に優れた生地を使っており、マオ様ならその程度およけになられるかと思いますが、さすがにソフィローズで戦われるのは……」

「……無駄に性能がいいのね、そのエプロン」

「はい!」


 恵理子はエプロンを手に取る。


「それでは、そのスタイルに合った武器をどうぞ」


 エリーは、木製のお玉を二つ渡した。


「道場破りでは木製を使うことになっておりますので、木製のお玉を用意しました」

「……」


 さすがにそのやり取りを見ていた優香とリーシャ、


「「ぷふっ」」


 思わず笑ってしまう。


「あはははは、本当に戦う奥様だわ。かっこいいじゃない。マオ様なら、それくらいのハンデを与えてもいいんじゃない?」


 リーシャがおなかを抱えて笑う。


「リーシャ―」


 恵理子は立ち上がり、最強エプロンを装備、そして、お玉をくるくる回しながらリーシャに迫った。


 ガンッ!


 そこには頭を押さえてうずくまる野良猫が一匹。

 優香は口をふさいで余計なことを言わないようにと心に誓う。


「ふっ!」


 恵理子がお玉を肩に担ぎ、得意げな顔をしてリーシャを見下ろす。


「「「おー」」」


 パチパチパチ


 メイド達がなんでも使いこなす恵理子に称賛の拍手を送った。


 この世界に奥様拳が誕生した瞬間だった。

 奥様拳は、ミリー達をはじめ、調理中に襲われても対処できるようにとメイド達の間でも浸透していくことになる。一部社会では、嫁入りのたしなみとして……。


「頼もう」

「はいはーい。どのようなご用件でしょうか」

 

 ブリジットが、期待を込めて対応をする。


「王都武闘会優勝者、タカヒロ殿と手合わせを願いたい。ベット金額は金貨十枚でどうだろうか」

「ち、まともな人だったか」


 ブリジットが貴博に視線を送る。


「はい。構いません。私も初めてのことですので、どうぞ、よろしくお願いいたします」


 優香は丁寧に頭を下げた。


「それでは、審判は私でよろしいでしょうか」


 恵理子がやはり丁寧に間に入る。まともそうな客なのだ。エプロンとお玉は装備したままだが。


「奥方様ですね。どうぞ、よろしくお願いいたします。私は、ギスターと申します」

「それでは、タカヒロとギスター様の立ち合いを行いま……」

「ちょっと待ったー」


 外から声が聞こえる。


「はぁはぁ、ちょっと待って」


 少し小太り、だが高級な服に着飾られた貴族が走って道場へと入ってきた。


「き、ギスター、お前、歩くの早いわ。あちこち探し回ったじゃないか」

「申し訳ありません、ビルガー様。王都武闘会優勝者に胸を借りられるのがうれしく、足早になってしまい」

「ビルガー様?」


 優香が尋ねる。


「ああ、私のことはどうでもいい。ここは強いものが立ち会う場所。私は単なる付き添いと思ってくれ」


 そう言って、ビルガーは壁際に下がっていく。


 恵理子は、気を取り直して、声をかける。


「それでは、始めていいでしょうか」

「うん」

「お願いします」

「タカヒロとギスター様の立ち合いを行います。それでは、始め!」


 優香もギスターも両手剣を正面に構える。

 お互い、じりじりと距離をつめていく。物音は何もしない。二人の足音ですら聞こえない。

 少しずつ、少しずつ近づいて行き、


「やー」

「たー」


 お互いが同時に飛び込む。


 ガキン!


 木刀が合わさる。それと同時に、二人ともバックステップで離れ、再び前へと飛び込む。


 ガガン、ガン!


 激しい打ち合いをしては離れ、お互い飛び込んで打ち合う、の繰り返し。

 ギスターは正統的な騎士の剣。

 対する優香は、実践的で流れるように連続して撃ちこむ剣。

 ギスターは、優香の剣を流してはカウンターを打ちこみ、優香は、上段下段、左右から変幻自在に打ち込んでいく。


 ブリジットが、リーシャが、ミリー達が黙って見守る中、


「へっきゅしゅ」


 ビルガーがくしゃみをした。


 優香は、視線を動かしてしまった。ビルガーへと。


 その瞬間、ギスターの剣が正面から迫ってくる。

 優香は後ろに下がることが出来ず、体をそらしたまま、足を前に投げ出して体を倒し、反動で体を回転させ、足でギスターの剣を蹴とばす。


 そして、優香は立ち上がって、剣をギスターに突き立てた。

 剣を蹴りとばされたギスターは、両手を上げて降参をした。


「まいりました」


 ギスターは、一歩下がって、礼儀正しく頭を下げた。


「いえ、こちらこそ申し訳ない。集中力が足りていませんでした」

「「もしよろしければ」」


 二人の言葉がはもる。


「あはは、もしよかったら、また、いや、私の方から挑戦させてください」

「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 と、双方が頭を下げた。


「いい勝負やったけどな。ま、しゃあないな。いい勉強になっただろう。それじゃ、帰ろうか」

「はい。ビルガー様」


 ギスターは、剣を受け取り、そして、道場から去って行った。




「あれがビルガー?」


 優香はヴィクトリアに聞く。ヴィクトリアは今は仮面をつけていない。


「はい。一度、ちらりとこっちを見たので、私がいることの確認だったのかもしれません」

「しかし、いいタイミングのくしゃみだったわね」

「面目ない。集中力が足りなかった」


 恵理子の意見に優香が頭を下げる。


「ところで、あのギスターと言うのは?」

「騎士服を見る限り、叔父の騎士団だと思いますが、見たことはありません。まあ、関わりもないのですが」

「そっか。しっかりとした剣筋だったね」

「ええ、叔父の騎士団にまともな騎士がいるとは思ってもいませんでしたが」

「まあ、まともそうな人で良かった。それに、これだけで金貨二十枚も稼げちゃった」


 優香がそう告げると、ミリー達が喜ぶ。


「ねえ、私達も挑戦する権利があるのよね」

「そうだけど。最初の予定通り、強い相手に挑みたいね。どんな人か」

「私としては、女性がいいわ。当たる確率が高そうだし」

「そういう意味では、情報収集のためなら誰でもいいんじゃない? 特に、さっきマオとリーシャが相手をしたような奴らなら、強い女性のことを知ってそうじゃない?」

「それもそうね」

「どうする? ここには僕がいればいいんでしょ?」

「ええ、じゃあ、私達、出かけてくるわ」




 恵理子はリーシャとブリジットを連れて道場破りに出かける。


「私達が十番目の道場だから、どうする? 九番目に行く?」

「そういうのは一番からじゃない?」

「そうだぞ。一番から行こうじゃないか」


 リーシャとブリジットの意見が一致する。

 三人は、十番から一番離れた一番の道場へと向かう。


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