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野郎ども、次回の挑戦を待っている! にゃん(優香と恵理子)

 優香達は、第十道場へと馬車を移動させた。


 第十道場はなぜか和風のかつて前世で見た剣術道場のような作りになっていた。

 併設された家も和風だ。


 玄関のカギを開けて中に入ると、そこは土間になっており、かまどがあった。さらに、土足厳禁と書かれており、靴を脱いで上がるようだ。


 さて、皆が楽しみにしていた温泉はというと、十人は入れそうな岩を並べて作られた浴槽。それと同じようなものが建物の外にもある。もちろん、外から見えないように竹で作られた塀で囲まれている。さらには、その塀の上には、山脈が広がって見える。


「あの山脈の向こうで十六年間過ごしたんだよね」

「そうよね。戻ってきちゃった感じ?」

「うん。なかなか世界って広がらないんだね」


 と、二人はしみじみとする。

 が、ところでと。


「これを作ったのって……」


 優香が首をかしげる。


「絶対にあの世界の人よね。もしくは影響を受けている」


 恵理子が同意する。

 そう、温泉を眺めながら感想を漏らしている横で、


「タカヒロ様、温泉に入っていいですか?」


 と、アリーゼ達がそわそわしだした。


「いいよ。まだ部屋が暖まっていないから、入ったら。僕らは、部屋を暖めたり、ヨーゼフ達を連れてきたりするから」

「「「「はーい」」」」


 最年少組四人がまず、浴室に飛び込んでいった。


「ミリー達も入っていいからね」

「ありがとうございます。それでは順番に入らせてもらいます」


 ミリーは、オリティエ隊に風呂に入るように言い、自分達は食事の用意をすることとしたようだった。




 優香と恵理子は外へ出て、馬を厩舎に移す。それから、


「ヨーゼフ」

「ラッシー」


 と、馬車から二頭のケルベロスを呼び、足を拭いて家に上がらせた。

 すると、そこに受付の婆さんがやってきた。


「ほら。ネームプレートだ。道場にかけておけ。いるときは黒い方、いない時は赤い方を表にしておけ。いる者に対して道場破りが挑むことになっているからな」

「はい。ありがとうございます」


 二人は道場を見に行く。そこには、ブリジットとリーシャがすでにいた。


「見てみて、剣も槍も全部木でできているよ」


 リーシャは早速木の槍を振り回している。ブリジットは剣だ。

 優香も剣を、恵理子は木の槍を手にもつ。


「せっかくだから、夕食前に少しやろうか」


 優香はブリジットと、恵理子はリーシャと向かい合う。


「はぁ!」

「やっ!」


 カンカン、カカカン


 木剣と木槍の合わさる音が、ミリーが夕食のために呼びに来るまで響き渡った。




 食事をしながら優香はヴィクトリアに聞く。


「ヴィクトリアはどうする? 予定通り、温泉に入って過ごす?」

「いえ、私も鍛錬に付き合わせてください。その時のために」

「いいけど、どれくらいできるの?」

「それなりだと思っております」

「わかった。今日は疲れているだろうし、明日は道場破りの日だから、明後日以降、鍛錬しようか。ミリー、ヴィクトリアの鍛錬、頼める?」

「かしこまりました」

「それから」


 ヴィクトリアが提案をする。


「私のメイドがこの家の掃除や食事の用意等をします。というよりさせます。よろしいですか?」

「助かるけど、四人じゃきついよね。ミリー、順番に手伝って」

「かしこまりました」

「ありがとうございます。メイド達も助かると思います」




 翌日、朝食を食べて、鍛錬を始めようと道場へ行くと、


 ドンドンドン!


「道場破りだ。早く開けろ」


 と、道場の引き戸をたたく音が聞こえる。


「あー。こんな早くから来るんだな」


 優香は、頭をぽりぽりかきながら、引き戸を開ける。

 すると、そこには、十人ほどの男が並んで待っていた。


「えっと、皆さん、道場破りの方ですか?」

「そうだ。早く、挑戦させろ」

「えっと、一人を指名してお金をベットするんだっけ」

「そうだ。ほら」


 と、先頭に立った男が優香に金貨を一枚渡す。


「えっと、もう受け取っていいのか?」

「ああいいぞ。俺が指名するのは、人妻マオだ」

「……」


 恵理子がジト目でその男を見る。


「マオ、ご指名なんだけど」


 仕方ない、と言う感じで恵理子が前に出てくる。


「お前が人妻マオか?」

「えっと、王都の武闘会優勝者の妻、だったような気がするんだけど?」

「人妻であってるじゃねえか」

「まあいいわ。じゃあ、やりましょうか。武器は?」


 武器を持たずに立っている男に、恵理子が聞く。


「武器なんていらねぇ。俺の負けでいい。ただ、人妻にびんたされたいだけだ」


 と、ほほを出してくる。


「ほら、やってくれ」

「……」


 恵理子が嫌な顔をする。

「ほらほら、頼むよ。金貨一枚払ったんだからさ」


 恵理子は、かなりむかついた表情を浮かべ、


 バシィ!


 と、全力のびんたをくらわせた。


 男は、回転しながら吹っ飛び、床に膝をついた状態で倒れ込む。その顔は恍惚とした表情を浮かべていた。


 恵理子は、ポケットからハンカチを出し、手を拭く。


「「「おおー」」」


 と、道場破りに来た男達が歓声を上げる。


「お、俺もだ」

「俺は、けつを蹴ってくれ」

「できればエプロンで!」


 男達は、金貨を一枚ずつ、優香に渡していく。

 恵理子は、額に怒りのマークを浮かべ、


「こんな奴らしかおらんのかー!」


 と、次から次へと蹴っ飛ばして道場から追い出した。


 蹴られた男達は、皆、満足そうに地面に倒れ込んだ。


「ふーふーふー」

「マオ、ほら、落ち着いて。こんなことで金貨が五枚も」

「知らないわよ!」


 と、恵理子は怒っている。

 そこへ、道場破りの男が一人、


「ぼ、僕は、猫耳メイドに……踏まれたい」


 と、リーシャを見た。

 リーシャはぶるるっと身震いをして、自分を抱きしめる。

 すると、


「僕も」「俺も」


 と、次々に床に並んで寝転がる男達。

 リーシャまでもが額に怒りマークを浮かべ、


「貴様らー」


 と言って、次々と踏んでいった。


「あぁ」「うっ」


 と、うめき声を上げる男達。


「あ、あの、できたら蔑むような目で見てくれると……」

「ああん?」


 リーシャは腕を組み、顎を上げ、目線をおろして男達を見下す。


 ズキュン!


 心臓が打ち抜かれる音が聞こえたような気がした。

 男達は、胸を押さえて、道場から転がるように出て行った。


「タカヒロ―」

「タカヒロ様!」


 恵理子とリーシャが優香に言い寄る。


「これが道場破りなの?」

「あほしかいないの?」

「まあまあ、こんなことで金貨を十枚ももらっちゃった」

「喜んでいるんじゃないわよ。こっちは気持ち悪い思いをしているんだから」

「そうよ。強い奴はどこへ行ったの。変態しかいないじゃない!」

「あの、私も猫耳メイドなんだけど」


 怒っている二人に対して、ブリジットは残念そうに言う。


「何であんたは残念そうなのよ。こんなのが好きなら、鞭でも振ってればいいじゃない。お仕置きにゃん、とか言って!」


 リーシャの切れた発言に、反応する道場破り達。


「な、あっちの猫耳仮面メイドは、鞭使いなのか」

「く、一回の挑戦を……だが、人妻のびんたに今日は満足だ」

「次は、鞭だな」

「仮面に猫耳に鞭……」

「「……」」


 あんぐりする恵理子とリーシャ。

 なんでこんなことで争っているのか、なんで鞭に負けたのか。一体私達は何をしているんだろうかと。


 ブリジットは、メイド服のスカートの中から鞭を取り出して、ピシッと音を鳴らす。


「野郎ども、次回の挑戦を待っている! にゃん」

「「「はいっ! 女王猫様!」」」


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