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王都の武闘会優勝者の妻、って肩書、どう?(優香と恵理子)

 翌朝、スタースプリングに向かって出発する。

 この日、“ヴィクトリア”は、団服を着て仮面をつけ、いつも通り杖をついて伯爵家の馬車に乗り込む。

 街を出てしばらくしたところで、優香は御者台の隣に座る恵理子に声をかける。


「いなくなったね」

「そうね。何もしてこなかった」

「確認だけかな? どう思う?」


 優香はクサナギの馬車に乗る“ブリジット”に声をかける。


「私がスタースプリングへと向かうことを確認したのでしょう。入れ替わっていることがばれたかどうかはわかりませんが」

「今、それを確かめちゃだめだと思うんだよね。だから、何もしない。ところで、昨日泊まった街は……」

「はい。叔父が管理している街です」

「どおりで、視線が気持ち悪いと思った。それでも何もしてこなかったのは、自分の街で事件を起こしたくなかったからかな」


 優香は、ふーむと考える。


「この先、道中で襲われる可能性はあると思う?」

「ないと思います。スタースプリング内では、事故、という手がいくらでも使えると思いますので。それに、道中と言うのは、すでに使った手です」

「故意なのか故意じゃないのかってところかな。人の考えなんて、読めないもんね」

「ところで、そんな事故が起こりそうなところに、あなたの叔父さん、ビルガーって言ったっけ。わざわざ偶然を装って出てくるの?」


 恵理子がいぶかしがって聞く。


「そういう場面に必ず居合わせる人です。母の時も……」


 ぎりっと、奥歯をかみしめるヴィクトリア。


「母の時は盗賊に襲われたのですが、なぜか叔父が助けに入りました。母が殺された後に。なぜそのタイミングでそこにいて、しかもいとも簡単に盗賊を退けられたのか。私には理解できません」

「その膝は、その時に怪我をしたことにしているの?」

「そうです」

「なぜ、ヴィクトリアが殺された後に出てこなかったのかな」

「タカヒロ、そんなこと気にしても仕方ないわ。ヴィクトリアが死んでいたかもしれないけど一応の演技をした、ヴィクトリアが生きていることを知っていて一応のアリバイを作りたかった、などなど、いろいろと考えられるわ」

「そうだね。考えても仕方ないか」


 馬車は、スタースプリングに向けて進んでいった。




「あれがスタースプリング?」


 道の先に、門が見えてくる。


「そうです。門を入ってすぐのところに受付があり、そこで滞在の受付をします」

「わかった。ありがとう、ヴィクトリア」

「それじゃ、そろそろヴィクトリアは仮面をつけてね」


 ヴィクトリアは仮面をつける。金髪ショートのかつらをかぶって猫耳までつけているので、どう見てもブリジットだ。




 門を通り、すぐ右手にある建物の前に馬車をつける。建物には「スタースプリング滞在受付」「冒険者ギルドスタースプリング支店」と書かれていた。


 優香達は、連れ立って受付の建物に入っていく。


「すみませーん」


 優香が誰もいないカウンター奥に声をかける。


「なんじゃ、客か?」


 と、白髪の婆さんが出てくる。が、その姿は道着を着て背筋も伸びており、いつでもかかってこい、と言いたげな風貌だ。


「お前さん達、冒険者か?」

「そうです。王都から来ました。プラチナランクパーティのクサナギです」

「道場は最後の一棟になるが、それでいいか?」

「道場?」

「お前さんら、何しに来たんだ?」

「湯治ですが」

「冒険者だろう? 鍛錬をするだろう? なら、道場が必要じゃないか」

「なるほど。それもそうですね。ここにくる強い人達は、鍛錬と湯治を兼ねてきているのですね」

「そうだぞ。それに、お互いに競い合って強くなるのだ」

「競い合って?」

「お前達、何も知らないで来たんだな。道場と言えば道場破りだろう」

「えっと、道場破りに負けたら追い出されちゃうんですか?」

「いや、金をとられる。道場破りは一対一の対戦を申し込む。その時に金をベットする。道場主側が勝てばその金は道場主のもの。負けたら、同額を支払わないといけない。週に一度、その機会が与えられる」

「では、道場をお借りします」

「ワンシーズン金貨百枚な」

「え?」

「それくらい、勝てればすぐに取り返せる。気にする金額ではない」

「は、はあ。勝てなかったら?」

「破産した場合は、一年間、ここでただ働きだ」

「……」

「どうする?」

「借ります。リシェル大丈夫だよね?」

「はい。ただし、今のお話だと、負けたら払わないといけないので、どれくらい余剰を持っていればいいか」

「ここは冒険者ギルドを兼ねておる。足りなくなったら山に入って素材を狩ってこい。買い取ってやる」

「そういうことでしたら、お願いします」

「で、誰を登録する? 肩書のあるやつ限定な」

「誰を? 肩書?」


 それを聞いてリシェルがホッとする。登録制であるならば、負けることは絶対にない。


「挑戦したくなるような肩書だ。なんの肩書もない、弱っちい奴に挑むやつがいると?」

「なるほど。じゃあ、僕が登録を。タカヒロ・クサナギ。肩書は、王都の武闘会優勝でいい?」

「おお、なかなかいいじゃないか。お前さんだけか?」

「だけ?」

「お前が道場を守っておる間、誰が他の道場破りをするんだ?」

「なるほど。じゃあ、リーシャいい?」

「やります。肩書は、王都の武闘会三位でいいかしら」

「王都の武闘会第三位、孤高の野良猫メイドのリーシャね」


 優香が補足する。リーシャは優香にジト目を送る。


「長いな。だが、まあいいか。野良猫メイドのリーシャな。二人でいいのか?」

「肩書がね。何かあるかな」


 優香が恵理子を見ながら首をかしげる。


「王都の武闘会優勝者の妻、マオ・クサナギ」


 恵理子が堂々と言う。


「……それ、肩書か?」


 婆さんが目を細める。


「それじゃ、この子は、猫耳仮面メイド、ブリジットで」


 優香はブリジットに扮したヴィクトリアを前に出す。


「なんでも付けりゃいいってもんじゃないだろうに。まあいい。その四人な。ちなみに、金を稼ぐためには弱いものを狙った方がいいからな、肩書の弱そうな者から狙われるぞ」

「そういうことは早く言ってよ。じゃあタカヒロ・クサナギの肩書は座布団で」


 リーシャが訂正をする。


「その心は?」


 婆さんが聞く。


「いつも尻に敷かれている」


 バシンッ!


 恵理子がリーシャの頭をはたいた。


「最初のでいいわよ」


 婆さんは、恵理子の手の速さに目を見張りながら、


「まあいい。じゃあ、四人を登録しておく。ほら、道場のカギだ。道場に併設してある家は、自由に使え。温泉も湧いておるし、露天風呂もあるぞ」

「ところで、道場破りのルールは?」

「道場破りは週に一回決められた日に行うことが出来る。一人一回のみ。どこに行くかは自由。登録した誰か一人を道場に残すこと。いない場合はペナルティを課す。ペナルティについてはその時話す。使えるのは武器のみ。しかも模擬刀。殺し合うのが目的じゃないからな。それと、魔法抜き。道場が壊れてしまうからな。まあ、すぐに覚えられるさ。ほら、カギだ。第十道場だ」

「えっと、道場破りの日って次は……」

「明日だ」

「わかりました。っていうか、わからないことがあったら、聞きに来ます」


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