狙ってほしい(優香と恵理子)
通り側に立った男の一人が聞いてくる。
「こんなところで? せめてお茶に誘うとかないの?」
はぁ、デリカシーのかけらもない、と、恵理子はため息をつく。
男達はナイフを取り出し、
「では、ついて来てもらおう」
と、言って振り返ろうとする。
「嫌よ。知らないおじさんについて行っちゃいけないって、習わなかったの?」
「ぷっ」
思わずリーシャが噴き出す。
恵理子ににらまれたリーシャは、ごめんなさい、と、舌を出す。
「話を聞くのは、一人でいいんだがな」
「そう。奇遇ね。私達も同じ考えよ。リーシャ、その口数の多いおじさん一人を拘束。後はどうでもいいわ」
「わかった」
「リシェルも遠慮なくお願い」
「はい。承知」
リーシャもリシェルもナイフを両手に逆手に持つ。
「行け!」
男がそういうと、残りの男達が襲ってくる。
しかし、細い路地では複数人が同時に襲い掛かることもできず、また、リーシャとリシェルの敵でもなく、二人はナイフの柄をみぞおち、そして顎、こめかみへと撃ちこんであっという間に制圧する。
「後は、口うるさいおじさんだけね」
リーシャが言うと、その男は、振り向きざまに逃げようとする。
ザシュッ!
リーシャがアイスランスを男の足首に撃ちつけた。
リーシャは転倒した男の首をつかんで持ち上げ、
「おとなしくしていてねー」
と、地面にたたきつけた。
「さて、どうします」
「リシェル、全員を……ロープ持ってないわよね。めんどくさいから、人目につく大通りにポイって」
「はい」
リシェルは男達の顔を見えるようにして、大通りに並べていく。
「さ、あなたは冒険者ギルドへ行きましょうか」
聞いているかわからない男を引きずり、恵理子達は冒険者ギルドへと向かった。
「夜分にすみません」
「はーい、どうされました」
カウンターに受付嬢が現れる。昼とは違う。
「あれ、ミューラさん」
「いえ、コニーです」
「……」
「ミューラは、もしかして、王都のギルドの? 姉ですけど」
「ああ、そう。本人かと思った」
「ところで、どういったご用件で?」
リーシャが、男を引きずってくる。
「こいつ、何者?」
「え、ええっと」
「夜道で突然襲われたんだけど」
「うーん。知らない顔ですね。少なくともこの街の冒険者ではないような」
「そう」
「あの、そういうの、ここじゃなくて衛兵に渡してもらえます?」
「えー、めんどくさい。引き取って」
「いや、うち、そういうところじゃないから」
「じゃあ、盗賊だから、奴隷として買って」
「……」
「ええい、静かになさい」
二階からギルマスが顔を出す。この街のギルマスは女性らしい。
「コニー、衛兵を呼んできなさい。それでいいでしょ」
「はい、ギルマス」
コニーは、ギルドを出て行った。
「じゃあ、事情聴取ね。どこで、どうやって?」
ギルドマスターが聞いてくる。
「伯爵邸を出て、キザクラ商会へ行く途中。つけてきていたから脇道に入ったら囲まれたの」
「囲まれた?」
「ええ、残りは、通りに捨ててきたわ」
「あら、そう」
「伯爵邸に行っていたんだけど、そこで何を話していたか聞かれたから、伯爵家の関係者かもね」
「じゃあ、明日、領主様にも聞いてみるわ。もう帰っていいわよ」
「それじゃ、よろしく」
恵理子達もギルドを後にする。
「さ、キザクラ商会によって帰りましょうか」
宿に戻ると、優香達はすでにくつろいでいた。
「遅かったね」
「なんか、変な歓迎会があって、ギルドまで行っていたの」
恵理子はげんなりした顔で言う。
「で、どうする? って、キザクラ商会に行った段階で決まっていると思うけど」
「明日の朝、迎えに行きましょう」
「わかった」
翌日、伯爵邸へと行く。
「えっと、ヴィクトリア?」
「なんでしょう」
「その、ド派手な馬車で行くわけ?」
伯爵家の馬車は、黒塗りではあるが、あちらこちらに装飾が施されており、とても豪華に見えるのだが。特に優香と恵理子は、前世見たことがある、というか、たぶん死んだ後に本体が乗ったであろうあの車、霊柩車に見える。ちょっと、縁起が悪いなと。
「そうですけど、ダメです?」
「ダメとは言わないけど、狙ってって言っているようなものじゃないの?」
ヴィクトリアは小声で、
「狙ってほしいんですが」
と言った。
ヴィクトリアのお付きはメイドが四名。二人が御者台、二人がヴィクトリアと一緒に乗るらしい。
「じゃあ、行こうか」
優香が声をかけると、ヴィクトリアは杖を突きつつ、馬車に乗り込んだ。
一方の冒険者パーティクサナギの馬車は幌のついた荷馬車である。荷物を積み込み、そして、オリティエ達半分が乗り込み、ミリー達半分が護衛のため歩く。
この日一日で、隣街まで進む予定だ。
警戒して進んだものの、何のトラブルもなく、隣町についてしまう。
宿を確保し、そこに馬車を預ける。
部屋は、ヴィクトリア達が一部屋。優香達は、三部屋に別れる。
優香と恵理子は、ヴィクトリアの部屋へ行き、打ち合わせを行う。
「スタースプリングに行くまでは、あなたの存在をアピールしないといけないから、表にそのままで立ってもらうところだけど、スタースプリングに着いたら、時と場合によって、変装してくれる?」
「えっと、なぜですか?」
「一人になることもあるからよ、きっとだけど」
「襲われたら、こっちのものだと言ったはずです」
「そのメイドの子達を盾にするわけ?」
「……覚悟をしています」
「あなたが答えるんじゃないわよ。あなたの都合に、メイドの子達をまきこんだらかわいそうでしょ」
「だけど! ……」
恵理子はヴィクトリアの声を無視して、メイドに服を配る。
「はい、これ。メイドの皆さんは、これを着てね」
渡したのは、団服とポンチョ。
「これを着ていれば、私達の護衛と区別がつきづらくなるし、ヴィクトリアの護衛をこっちの護衛と入れ替えても怪しまれないわ」
メイド達は、そそくさと、メイド服の上から団服を着て、ポンチョをかぶった。
「それから、ヴィクトリアにはこれ」
と言って、ヴィクトリアには五点セットを渡す。団服とポンチョは同じ。後は仮面と金髪のかつら、そして猫耳だ。
「……これは」
「何かの時に、そのフルセットを身に着けてブリジットのふりをしてくれる? うちのブリジットには、あなたの髪色と同じかつらを渡しておくから」
「ブリジットさんを私の身代わりにするのですか?」
「いざと言う時にね。心配いらないわ、あの子、馬鹿強の人間界最強だから」




