にゃにゃにゃ(酒の恐怖)~温泉に行こう!(優香と恵理子)
家に着くと、今日はパーティだ。何のかと言うと、明日にはリオルとリーシュが帰ってしまう。そのお別れパーティだ。
そういう意味では、午前中で調査を切り上げてきてよかった。
狩って来た魔獣の中から、ホーンボアの肉をキープしておいた。
「リーシュ、春になったらまた遊びに来てね」
リーシャがリーシュに声をかける。
「来ていいのですか? 私、勝手なことしちゃって」
「ほら、いつまでも気にしてないの。この冬、ちゃんと鍛えて、今よりしっかりした自分を春に見せればいいの。お姉ちゃんは、それを楽しみにしているわ」
「そうだぞ、リーシュ、失敗しない奴なんていない。私なんて何を間違ってか騎士団長なんかになって、今は立派なメイドだ」
「ブリジット様、何が失敗なのかわからないのですが」
「騎士団長になったことじゃないかにゃ? 始めからメイドになってればよかったにゃ」
ブリジットは、猫耳を指さす。
「ブリジット、お前、酔ってるだろう」
リーシャがブリジットに聞く。
「にゃー、猫耳メイド同士、仲良くするにゃ」
「ブリジット、お前、明日絶対に死にたくなるからな。これ、黒歴史だからな」
「リーシャ、あれやるにゃ。ほら、両手を出して。せーの、三」
「わー、急に言うな!」
「負けたら飲むにゃ」
「な、負けられない。せーの、二」
「せーの、二。勝ったにゃー、飲むにゃー。負けたら語尾はにゃーにゃ」
こうしてぐでんぐでんの猫耳メイドが二人出来上がる。そこにリオルも参戦。いつの間にかリオルまで猫耳をつけて「にゃー」を語尾につけている。
「お、お兄さま……」
リーシュが普段見たことのない兄の姿に引く。
優香と恵理子は、リーシュにおいでおいでをする。
「タカヒロ様、マオ様、お兄さまとお姉さまがあんなふうに」
「あははは、あれは、お互いを信頼し合っているからできるんだよ。あれと一緒。猫がおなかを出すのと」
「犬じゃないの?」
「あ、猫はごろごろか」
「タカヒロも酔った?」
恵理子がそう問うと、優香は首をかしげる。
「確かに、二人とも楽しそうです。いえ、三人ですか」
「この三日間、一緒に行動したからかな。お互いの性格も強さも把握したんじゃないのかな」
「お二人はどうして一緒にいるのですか?」
「「信頼しているから」よ」
「そうなんですね。うらやましいです」
「そう?」
「私、いつも大人が周りにいて、同世代がなかなかいないから」
「話しかけたらどう?」
「そんな、何を話していいか」
「じゃあ、あのリオル達がやっているような遊びを一緒にしたら?」
「……確かに楽しそうですけど」
「後は、勉強でも剣術でもなんでも、一緒に頑張ってくれる人を見つけられるといいね。それか、リーシュが一緒に頑張りたい人、男の子とか見つけちゃう?」
恵理子がにやっとしながら言う。
「え? 男の子?」
リーシュがちょっとだけ顔を赤くする。
「えっと、私、私、タカ……」
「リーシュがお付き合いとか、ゆるさーんにゃ!」
リオルが突然割って入った。
「お、お兄さま?」
「リーシュは街のアイドルなのにゃ」
「いえ、シンボルね」
恵理子の冷静な突っ込み。
そこへ、リーシャもブリジットも参戦。
「何してるにゃ」
「一緒に飲むにゃ」
「「「あははははは」」」
「んもう、お兄さまにお姉さまったら」
リーシュは笑いながら唇を尖らせた。
翌日。
「リーシャ、私、昨日何かしたか?」
猫耳仮面メイドブリジットが猫耳メイドリーシャに聞く。
「私も思い出したくないし、そういうのは、忘れなきゃだめよ。じゃないと、あんなふうになるわ」
と、両ひざをついて頭を抱えているリオルを指さす。
リオルは、「にゃって言った、にゃって……」と、つぶやいていた。
そんな中、しっかりしている少女が一人。
「タカヒロ様、マオ様、そしてミリー様方をはじめ皆さま、大変お世話になりました。私としてもたくさん勉強になりました。その一つがお酒には気をつけろ、だったのが残念なことの一つですが。春になったら、また遊びに来ますし、皆さんも来ることを検討してください。歓迎いたしますから。私も、それまでに一歩成長して見せます。それではまた」
と、馬車に乗り込んだ。
「お兄さま、行きますよ」
リオルは、手を振るだけ振って、馬車に乗り込んだ。
「行っちゃったね」
優香がつぶやくと。
「そうね」
と、リーシャがつぶやいた。
「リーシャは本当にいいの? 一緒に帰らなくて」
「私の居場所はここだから。自分で決めたんだから」
と、言って、くるっと振り向くと、
「さあ、仕事仕事」
と言って、家へと入っていった。
「ちょっと待って、リーシャ」
優香が止める。
「みんなもミーティングルームに集合」
わらわらと、ブリジットにリーシャ、ミリー達が集まる。
「さあ、私達も旅の準備をしよう。温泉に行くよ!」
「温泉?」
「温泉!」
「お風呂!」
「一緒に入る?」
騒ぎが大きくなる。
「はいはい、出発は明日よ。移動に十日間かかるわ。しかも、冬道。準備をお願いね」
と、恵理子が騒ぎを抑えるように、指示を出す。
「パンツ、毛糸のパンツ買わなきゃ」
「着ぐるみパジャマも」
「……ほら、リシェルとローデリカを連れて買いものに行ってらっしゃい」
「「「「はーい」」」」
出発の日。。
「ほら、荷物を馬車にのっけて。ヨーゼフもラッシーも乗って」
「「わふ」」
「ほらほら、寒いし野営は嫌だから、急ぐよ」
「「「「はーい」」」」
「貴重品はどうしたかな」
「ある程度売って、パーティ口座に入金しました。残りは、掘って埋めておきました。ヨーゼフ達が」
「「わふ」」
「ヨーゼフ、ラッシー、ありがとう」
「「わふ」」
「それじゃ、行こうか」
「「「「はーい」」」」
馬車は動き出す。北門に向けて。
そして、北門を通って、北の森を目指す。
森にぶつかると、右に迂回するように馬車を進める。北へ北へ。
途中、昼食を取ったり、たんぱく源の確保を兼ねた素材採取もして、馬車を進める。
始めの街に到着すると、ギルドへ向かって素材を換金する。
次いで、宿屋に行く。
季節外れのせいか、宿屋は空いており、十六人が泊まることが出来た。
「お兄さん達、どこへ行くの?」
宿屋のお姉さんが聞いてくる。
「スタースプリングへ湯治にね」
「ん? スタースプリングで湯治?」
「あれ? 温泉地じゃないの」
「温泉地だけど、あんまり湯治ってイメージがなくて」
「どんなイメージ?」
「強い人が勝つ、みたいな?」
「ん? 対戦するの?」
「そうそう。そんな感じ」
「見たことあるの?」
「ないけど、春にスタースプリングから帰っていく人が寄ってくれると、羽振りがいい人もいるの」
「よくない人は?」
「屍みたいになってるわ」
「僕らは温泉に入りたいだけなんだけどね」
強い人を探しているとは言わない。
「入れるとは思うわよ」
「ならいいか」
「ご武運をお祈りするわ」
「ありがとう」




